破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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これをもって自らの宿願にして悲願を成就させる。
そう強い信念を持ってとある戦いに身を投じようとしていた。
第1話 「誤った対応」
「問おう。汝が私のマスt」
西洋風の鎧を身に纏った清廉な雰囲気の美しい少女が目の前の男に問い掛けようとした時だった。
ドォォォォン!!
突如大きな音共に彼女以外にもう一組、男の前に現れた者がいた。
それは、いうなれば世界の抑止力そのものでありながら、世界の意思に関係なく暴虐無人に振舞う力を持つただの一人の破壊神だった。
「ほぉ、今度はまた殺風景な所だな。ウイス、お前本当にもうちょっと移動場所選べないのか?」
「ええ? 今回は結構気を遣った方ですよ? 人気が無い夜、人気が無い場所をランダムに選んだつもりなのですが」
やや心外といった顔で弁明するウイスの言葉に破壊神ビルスはそれでも呆れた目で周りを眺めながら言い返した。
「夜はいいんだけどさ。でも此処、いくら人気がない場所と言っても明らかに誰かの家なんじゃないか?」
「おや」
ウイスはその事に初めて気づいたとでもいうように、大袈裟に驚いた顔をするとその時になって初めて周りを見た。
彼れらは今、薄暗く、周りに物影も見当たらない殺風景でやたらに広い場所に居た。
そこには、呆然とこちらを見つめている男女と、同じ表情をした騎士の様な外見をした金髪の少女がいた。
「……」
三人とも未だにこの予想外の外の来訪者に言葉が出ず、驚きに満ちた目で見ていた。
「ほほほ、確かに人がお住いのようですね」
「おい!」
周りの雰囲気など気にもかけずにビルスは怒り気味のツッコミをする。
ウイスはそれもいつもの事と慣れた様子でにこやかに受け流すのだが……。
「ちょっといいかな?」
流石にこのまま無視される続けるのも気に入らないので、男、衛宮切嗣が警戒しているのを隠さずに落ち着いた声で訊いてきた。
ビルスはそこで初めて自分達以外のモノに気付いたと言った風に彼の方を振り向いた。
「ん?」
「先ず一つだけ訪ねたい。君はサーヴァントじゃないな?」
「サーヴァント?」
ビルスは聞き慣れない言葉に耳をピクピクとさせる。
切嗣はそれを確認して今度は懐に手を忍ばせて更に警戒心を強くし、最初と比べて明らかに冷たい声で訊いた。
「そうじゃないみたいだな。じゃぁ、もうひとつだけ訊こう。“お・ま・え”は、僕達のてき……」
『か』までは切嗣は言えなかった。
一方的に敵意を向けられ、名乗りもしない相手に同じく質問をされ続けたビルスが機嫌を悪くしたのだ。
ビルスは切嗣が最後までセリフを言い終える前に彼らが思わず我を忘れてしまうくらいのとんでもない『ある事』をした。
ビルスが尻尾で地面をペタンっと軽く叩いた。
すると自分達と切嗣達がいる一部の空間を除いて、それ以外のもの、つまり切嗣がサーヴァント召喚の場として提供された“ある大魔術師”の本拠地であるアインツベルン本城を全て霧の様に消してしまったのだ。
城が光の粒のようなものを一瞬きらめかせながら消えると同時に、更にビルスはその周辺に広がっていた広大な森すらもほんの一部を除いて全て砂漠に変えてしまった。
「……?!」
「え……?」
「な、これは……」
城が意味が解らずに消され、自分達がいきなり外の森どころか砂漠の真っただ中に放り出されるというこの異常な展開に、三人は言葉らしい言葉を出すことができなくなった。
「さっきから失礼な奴だな。自分は名乗りもせずにまるで僕らが悪い奴らみたいにさ。破壊されたいのかな?」
切嗣ほど冷たい声ではないにも関わらず、ビルスの不機嫌な声はその場にいたウイス以外の全員を抵抗する事も出来ずに畏怖させた。
「……」
そしてもう一人、このビルスによって起こされたこの異変の最大の被害者が切嗣達が居た場所から少し離れた所に居た。
その人物はユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン。
大魔術師、通称『アハト翁』と呼ばれる聖杯戦争始まりの御三家の一つであるアインツベルン家二代目当主にして現当主である。
彼はアインツベルン家の悲願ともいうべきある目的成就の為にこれまで長い時を生きてきた。
それこそ“それだけを求める”余り、それ以外の事が一切頭に入らない盲執に囚われてしまう程に。
彼は今まで幾度もの聖杯戦争において必勝を期して様々な策を講じてきた。
だがその挑戦は、必勝だけを目的とした所為かいずれも詰めが甘いところがあり、それが原因で今に至るまで全て徒労に終わって来た。
だがそれでも彼がその悲願を放棄せずに臨み続けて来れたのは、ひとえに先ず自身の魔術師としての実力、自分以外の御三家を圧倒する莫大な資産を有していたからであった。
その資産の中でも、ドイツ本国にあるアインツベルン本城はアインツベルン家にとって最大、最重要であり、自身の魔術工房を兼ねた本拠点であった。
そう、それは、正にそれはアインツベルンの歴史そのものといっても過言ではない程に。
だがその最も護らなければならない拠点が、一瞬と言う言葉では甘く感じる程の刹那の間に彼の目の前から消えたのだった。
そして彼の前に広がっていたのは広大な“残された森”ではなく、なんと見た事も無いくらい“白い砂漠”だった。
彼は自分の身に何が起こったのか全く理解できなかった。
理解できたのは己の歴史を表すかの様な自身の白髪と同じく、自分が今膝をついている砂漠の砂が同じ色をしているという事。
「……」
アハト翁は焦点の合わない目で砂を掴む。
砂は指の間から瞬く間に流れ落ち、彼の掌には僅かな砂しか残っていなかった。
アハト翁はじっとそれを見た。
まるで見続けていれば夢が冷めるとでもいう様に、覚めなかったとしても何があったのか悟る事ができるとでもいうように。
だが夜の闇も、静寂も、月も、風も、全て彼には何も教えてくれなかったし助けてくれなかった。
結果、稀代の大魔術師アハト翁は発狂した。
意味が解らない言葉を吐きつつ、常に忙しなく同じ所をぐるぐると歩き回るようになってしまった彼が正気に戻るのは暫く先の事だった。
『突如ドイツに現れた大砂漠! これは一体何が起こったというのでしょうか?!』
日本から遠く離れた地の出来事だったにも関わらず、異変の規模が規模だっただけにその事件は日本でも早速テレビなどのメディアに取り上げられていた。
「……」
「……」
それを苦虫を噛み潰したように見つめる聖杯戦争監督役の言峰璃正と、密かに彼と協力関係を築いていた魔術師の遠坂時臣。
事態が急変過ぎて自分達は勿論、事件が起きたドイツの同組織や魔術協会も対処が間に合わず、こうして世の秘密を白日の下に晒された事に、それを日々秘匿し世の平穏を保ってきた者としての矜持が傷つけられているだ。
そして二人の隣には二人とは対照的に無表情にテレビを見つめる璃正の息子の言峰綺礼がいた。
彼は、見た目こ二人とは違って感情を表に出さず冷静に見えた。
だがその裡では自分達が管理し、捜査する予定だった聖杯戦争を根底から覆すどころか、まるで児戯の如く容易に弄ぼうとせんとする言葉では表せない大きな力を密かに予感していた。
という事で今回はFate/zeroが舞台となります。
プロローグ、導入編という事でかなり短めですが、これからどんどん文が増えていく予定です。