輸出が認められていない和牛の受精卵や精子が中国に一時持ち出された事件で、大阪府警生活環境課は9日、飲食店経営の前田裕介容疑者(51)=大阪府藤井寺市林1=ら2人を家畜伝染病予防法違反などの疑いで逮捕した。同課は2人に持ち出しを指示した人物がいて、中国で転売する目的があったとみて調べる。
海外で和牛の人気は高く、日本の有力な輸出農産品の一つ。流出した受精卵などが海外で生産されれば、国内畜産業が打撃を受ける恐れがある。ほかに流出している可能性もあり、農林水産省は今年2月に適切な流通管理の手法を議論する検討会を設置し、対策を急いでいる。
ほかに逮捕されたのは無職の小倉利紀容疑者(64)=大阪市住吉区長居3。同課によると、2人は容疑を認めている。
2人の逮捕容疑は2018年6月下旬、共謀して検疫所の輸出検査を受けずに和牛の受精卵や精子が入った容器計365本をフェリーで大阪から上海へ輸出した疑い。運搬役の小倉容疑者が現地の税関で止められ、帰国後に検疫所に申告して持ち出しが発覚した。
小倉容疑者は検疫所の聞き取りに「知人(前田容疑者)に頼まれた。違法とは知らなかった」と説明。前田容疑者は逮捕前、府警に対し「知人だった中国人の男性に依頼され、受精卵などが入った保存容器を受け取った」と話したという。
小倉容疑者が運んだ和牛の受精卵や精子は徳島県の畜産農家が販売し、複数の人物を介して前田容疑者に渡ったとみられる。農家の男性は取材に対し「電話で和牛の受精卵を売ってほしいと持ちかけられた。国外に持ち出されるとは思わなかった」と話している。
家畜伝染病予防法は動物やその肉、卵などを輸出する場合に検疫所で検査を受けることを義務付けている。和牛の受精卵や精子は検疫を受けても輸出は認められない。
農水省は19年1月、検疫を受けずに受精卵などを中国に持ち出したとして、同法違反の疑いで小倉容疑者らを刑事告発。府警が複数の関係先を家宅捜索するなどして捜査を進めていた。