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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第六章

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悪役王女

※こちらの作品ですが、前書きも後書きもしばらくすると消します。


「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 3」は3月29日発売です。


買ってね!


 ホルファート王国の王宮に来ていた。


 今日はアンジェに頼んで、ある人物との面会を予定している。


 控え室には、俺――アンジェ【アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ】と、マリエがいた。


 アンジェもマリエも私服姿だ。


 学園はまだ春休み期間中だからね。


「リオン、エリカ様との面会の許可は取れたが、本当にマリエも連れていくつもりか?」


 マリエまで面会させる理由が分からないのだろう。


 普通ならあり得ないが――マリエを連れて行く理由が俺にはある。


「色々と確認があるからね。それから、こいつには兄君を籠絡(ろうらく)したことを謝罪してもらう」


 マリエは項垂れている。


「勘弁してよ。もう、色んな人に怒られたんですけど!」


 希代の悪女と呼ばれる女の正体が、実はポンコツな転生者だと誰が思うだろうか?


 そのため、アンジェもマリエを警戒していた。


「――お前が決めたのなら文句は言わない。だが、失礼なことはするなよ」


 アンジェが納得してくれたようで何よりだ。


「そっちは大丈夫。今回は、婚約できませんって言うだけだし」


「言い方を間違えれば失礼になるぞ。もっとも、この場合はどうなるのだろうな」


 悪役王女のエリカ――何を間違えたのか、俺との間に婚約の話が出ている。


 しかも、かなり具体的に、だ。


 既に、エリカの婚約者とは婚約破棄をしているらしい。


 アンジェはそちらの心配もしている。


「フレーザー家もどう動くか分からない。リオン、本当に注意しろよ」


「分かっているって。いざとなれば、ルクシオンもいるから大丈夫だよ」


 視線をルクシオンに向けると、


『――面倒ごとを押しつけるのが得意ですね。出来れば、対処可能な内に私に頼っていただければ助かるのですが?』


 毎回、ギリギリのタイミングで面倒ごとを解決させてきたので、嫌みを言うようになっている。


 嫌みを言う人工知能というのも凄い話だな。


「俺はお前を信用しているからな」


『心のこもっていない白々しい台詞ですね。よくもそれだけ嘘が言えたものだと、感心しています』


「――お前はもっと本心を隠して俺を敬えよ」


『嫌です』


 何とも冷たい人工知能だが、面倒ごとを拒否すると言わないところが従順じゃないか。


 ルクシオンには頑張ってもらうとしよう。


 すると、部屋に侍女が入ってくる。


「アンジェリカ様、エリカ様の準備が整いました」


「そうか。すぐに行く。リオン――後は任せるぞ」


 アンジェに言われ、俺は頷いて部屋を出ていく。


 マリエも付いてくるのだが――さて、悪役王女様の顔を拝みに行くとするか。



 通されたのは――お茶をする準備が整った部屋だった。


 先に待たされている俺とマリエは、隠れているルクシオンも交えて話をする。


「マリエ、分かっているな?」


「当然よ、兄貴」


 俺がマリエを連れてきた理由だが――女の嘘を見抜くのは、女ということだ。


「私、性格の悪い女を見抜くのは得意よ。あざとい女はすぐに分かるわ」


『何とも凄い特技ですね』


「下心がある女ってすぐに分かるのよね。鼻に付くのよ」


『おや、同族嫌悪ですか?』


「丸いの、あんた私のこと嫌いなの?」


『いいえ、他の新人類よりも高く評価していますよ』


 マリエは自分と同じ、あるいは裏のある女を見抜く自信があるそうだ。


 その特技で、エリカを判別してもらうために連れてきた。


 俺では判断に困るからな。


「お前と同じタイプだったらすぐに見抜けるな」


「ちょっと待って。どういう意味よ?」


 マリエが納得できないという顔をしていると、侍女に手を引かれて王女殿下が部屋に入ってくる。


 緩くウェーブした長い黒髪は艶があって綺麗だった。


 小柄ながら、しっかりと胸やお尻に肉が付いているのが分かる。


 少女から女性になろうとしている女子は――どこかマリエに似ていた。


 似ている要素は少ないのに、どうしてそう思ったのだろうか?


 優しそうな垂れ目は黒い瞳だ。


 ミレーヌさんの娘だけあり、将来有望そうだった。


 この子にあのローランドの血が入っているとか信じられない。


 エリカ――エリカ様は、俺たちを見ると微笑む。


「お待たせして申し訳ありません。バルトファルト侯爵。それから――マリエさん」


 瑞々しい唇が俺たちの名前を呼ぶ。


 白い肌。


 まるでお人形さんのよう、とは失礼だろうか?


 だが、それだけ完成されたような美しさがあった。


 俺はハッとして、すぐに挨拶をする。


「お、お初にお目にかかります。自分は――」


 クスクスとエリカ様が俺を笑う。


 馬鹿にしている感じではなかった。


「存じておりますよ。国を何度も救ってくださった英雄殿ですからね」


 俺よりも年下のはずなのに――中身を含めれば、確実に俺の方が人生経験を積んでいるはずなのに、目の前にいる女の子に勝てる気がしなかった。


 マリエを見ると――目を見開いて驚いている。


 おい、それはどういう反応だ? どっちだ? どっちなんだ?


 実は良い子でした、の方がありがたいが、本当に屑な人だったら面倒になる。


 アンジェのようなパターンもあるし、早めに知っておきたいのだが――。


「こうしてお話をする機会は、私も欲しかったのです。バルトファルト侯爵にも、言いたいことがあるでしょうから」


「あ、はい」


 間抜けな返事をしてしまう自分が情けない。


 エリカ様が着席すると、侍女が給仕を行う。


 ただ――エリカ様は、そんな侍女に言う。


「少しの間だけ席を外していただけますか」


「エリカ様、ですが――」


 侍女は俺たちを警戒している様子だった。


「大丈夫です。この方たちは聡明(そうめい)ですからね。ここで私に何かをするなんてあり得ませんよ」


 侍女は一礼して部屋を出ていく。


 それにしても、聡明と言われると照れてしまう。


 ルクシオンがテーブルの下から『マスターには似合わない言葉ですね』とか言っているが、無視して会話を再開した。


「エリカ様、単刀直入に言います。俺との婚約ですが、納得されていますか?」


 国の都合で婚約破棄をさせられ、見ず知らずの男に嫁がされる。


 納得しているはずがない。


 そう思っていたのに――。


「それが私の務めですから」


 ――この年齢で割り切っていた。


「いや、でも」


「私は民によって生かされています。そんな私が、個人的な理由で婚姻を取りやめるなど出来ません。国のためになると“母上”が判断したのなら、その決定に従うだけです。――バルトファルト侯爵はお嫌でしょうが、母上の決定に私が反対することはありません」


 ――どうしよう。実は私も納得できないの! という感じで、ミレーヌさんに抗議してくれると思ったのに。


 想像以上にお姫様だった。


 アンジェもそうだが、ガチのお姫様って覚悟決まりすぎじゃない?


「王女殿下、俺は今回の婚約に納得が出来ません」


「そうでしょうね。それは理解しています。ですが、私から言えるのは、侯爵に相応しい妻になるように努力するということだけです」


 いきなり手詰まりだ。


 俺が助けを求めるようにマリエを見ると、こいつはまだ動揺していた。


 ――お前、少しは役に立てよ!


「バルトファルト侯爵、既にこの婚約は個人の感情で破棄できるような――」


 エリカ様の話の途中で、マリエが立ち上がった。


 俺が驚くと、エリカ様も驚いて口を閉じる。


 だが、更に驚くことになる。


「エリカ――あんた、もしかして――」


 俺はすぐに立ち上がり、マリエを座らせるのだった。


「おい、馬鹿! 何で呼び捨てにした! 不敬だろうが」


 こいつを連れてきたのは失敗だった。


 そう思っていると、エリカ様も目を見開く。


 マリエは俺の手を払いのけ、テーブルにしがみついた。


「ファミレス! え、えっと、名前は出てこないけど、近くにバッティングセンターがあるの! 野球選手の絵が描いてある看板があるの。そのファミレスの人気メニューは――」


「おい!」


 何を言い出すのかと思っていると、マリエの話の続きを口にしたのは――エリカ様だ。


「――ドリアとハンバーグのセット」


 ルクシオンがテーブルの下から出てくる。


『マスター、これはどうやら』


「いや、嘘だろ」


 エリカ様も転生者だった。


 その可能性も考えてはいた。


 だが、あり得ないのはここからだ。


 マリエがポロポロと涙をこぼしている。


「エリカ――エリカァァァ!」


 エリカ様も同様だ。


「母さん――なんだよね?」


 目を潤ませ、そして指で涙を拭っていた。


 衝撃過ぎて理解が追いつかないが――エリカ様は、俺の前世の姪っ子だったのか?


「おい――これ――いったいどうするんだよ」


 立ち上がったマリエが、エリカ様に抱きついてワンワン泣いている。


「エリィィガァァァ!」


 鼻水まで出してマリエが泣いていた。


 そんなマリエの頭を撫で、エリカ様は優しく抱きしめている。


「母さん。また会えたね」


 ――いや、これどっちが親だよ。


 普通は逆じゃない?



 王宮内の別室。


 そこにいるのは、ローランドとミレーヌだった。


「ミレーヌ、あの小僧を可愛いエリカに会わせる許可を出したそうだな。何故だ!」


 呆れかえるミレーヌは、ローランドに冷静に返す。


「いずれ夫婦となるのです。面会するのなら早い方がいいでしょう」


「私は認めていない!」


「では、エリカ一人のために国を焼きますか?」


 ミレーヌの冷たい瞳に、ローランドはたじろいでしまう。


 一旦、呼吸を整える。


「――レッドグレイブ家が王位を簒奪(さんだつ)すると本気で考えているのか?」


 積もり積もった王国への不満は、解消されたわけではない。


 それに、今まで優遇されてきた貴族たちも、いきなりの扱いの差に納得できずにいた。


「多少のリスクを抱えてでも、リオン君を王宮で囲います。それがもっとも被害の少ない方法ですよ」


「だが――」


「レッドグレイブ家だけではありませんよ。力のある貴族たちは、これを機に王国から独立を考えています。彼らにとって今が好機なのです」


 戦争をしていないだけだ。


 少しでも今の均衡が崩れれば、王国はすぐに各地で内乱が起こるだろう。


 ミレーヌが強引にリオンとエリカの婚約を決めたのは、もう時間が無かったからだ。


「貴方に解決できるのなら、すぐにでもエリカの婚約を破棄して構いませんよ」


 そんなミレーヌの挑発に、ローランドは乗らなかった。


「冗談を言うな。お前に出来ないことが、私に出来るわけがない」


「そうやって、いつも貴方は逃げるのですね」


「効率的と言え」


 ミレーヌは有能だ。


 ローランドはそれをよく理解しているし、王妃としては満足している。


 だが、妻としては――別だ。


「ミレーヌ、お前はこのままあの小僧の飛行船を、王家の船の代わりにするつもりか?」


「切り札のなくなった王国には絶対に必要では?」


「お前の故郷が危ないからではないのか?」


「えぇ、それも理由ですよ。ですが、今の王国に内乱をしている余裕はないのですよ」


 アルゼル共和国が事実上の敗北。


 強国が倒れ、各国の政治的なバランス崩れている。


 非常に危険な時期だった。


 下手をすれば、対外戦が始まってしまう。


 今の王国は火薬庫で火遊びをしているような状況なのだ。


「――リオン君には納得してもらいます。アンジェも同様です」


「そのために娘を差し出すのか。お前は王妃としては立派だが、母としては失格だな」


「その決断を私にさせたのは貴方でしょうに!」


 二人の言い合いが収まり、しばらく無言の時間が続く。


 ローランドは、思い出したように部屋から出ていく。


「おっと、そろそろ予定の時間だ」


「また、新しい女のところに向かうのですね」


「お前はそうやって、事細かに調べるから駄目なのだ。男は適度に遊ばせるのがいい妻の条件だぞ」


 逃げるように部屋からローランドが去って行くと、ミレーヌが呟く。


「――いい夫の条件を満たしてから言って欲しいですね」



 ローランドは、王宮を抜け出すと知り合いの男と会う。


 その男は、王宮に勤めている者だ。


 ローランドとは付き合いが長く、学園時代からの友人だった。


「待たせたな」


「陛下、火遊びも程々にしてください」


 気の弱そうな男に注意されるも、ローランドは聞く耳を持たない。


「馬鹿を言うな。美女を追いかけるのが男という生き物だ」


「ですが、相手は――」


「分かっている。何の問題もないから、お前は安心して俺に手を貸せ」


 ローランドが建物の中に入ると、そこには金髪の女性が待っていた。


 年齢は二十代前半。


 ローランドに作った笑顔を向けてくる。


「あ、陛下!」


「ここではローランドと呼んで欲しいね」


「そうでしたわね。では、ローランド様、今日はどうされますか?」


「そうだな。――メルセの柔肌で癒してもらおうか。年増女にいびられて、もうクタクタだからな」


「あら、それは大変でしたね」


 この非常時に、ローランドは新しい愛人に会いに来ていた。


クレアーレ( ○)『運命的な再会って素敵!』


ルクシオン( ●)『――マスターの一族は、何か転生する条件を満たしていたのでしょうか? 気になって仕方がありません』


若木ちゃん:(;゛゜'ω゜'):「それよりも私の出番は! みんなのアイドル、苗木ちゃんの出番は!? ねぇ!!」



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