ソ連軍事史関連
論文試訳
表題の如く、ロシアの軍事史家によるソ連軍関連の論文を紹介するコーナーである。ロシアで出版された論文集、雑誌、あるいは戦史本の付録などから、テーマが興味深く分量も手頃な(これは意外と重要な要素である)テキストを選び、翻訳していきたい。
ソ連軍とその歴史に興味を持ち始めて以来、体験者の回想やインタビュー集ばかりでなく、研究者の著作をも手に取るようになっている。万巻を渉猟したというわけでは勿論ないが、これまでの読書歴を通じて感じるのは、第2次世界大戦に関するロシアの軍事史研究部門の活況である。何といってもロシア人にとっては自国の、しかも現代の社会に直結する重要な歴史的事件であり、かつまたソ連時代の長きにわたって続いた一面的なアプローチが過去のものとなった現在、「あの戦争」が研究者の関心を惹きつけるテーマとなっていることは不思議でも何でもない。
にも拘わらず、現在の日本ではロシア人の手になる第2次世界大戦研究がほとんど紹介されていない。ある程度まとまって訳されているのはマクシム・コロミーエツ氏くらいではないか。言語的制約を初めとする様々な理由があることは確かである。しかし、ロシアにはまだまだ(多士済々と言っていいほど)幅広い業績を残している軍事史家が多く、彼らの著作が全く紹介されないのはちょっともったいないような気がする。
また、ソ連崩壊の後に様々な史料が公開され、「真実への扉」が開かれたかのようなイメージが流布される一方、これらを素材としたロシアでの研究の進展については、ごく控えめに言っても軽視されたままである。新史料が出てきたのはよいが、その解釈はロシア以外の、多くはかつてソ連と敵対してきた西側の系譜を引く研究者に任されている感がある。しかも、ロシアでの研究動向に対しては無視を決め込んだまま、しばしば「ロシアでの解釈とは異なり…」といった煽りが差し込まれる。これは極めて不公平かつ不誠実な態度と言わざるを得ない。
ロシアに限らず、また軍事部門にも限らない話だが、研究者が書いたものと一般の歴史認識との間に齟齬があることは珍しくない。ここでご紹介する軍事史論文も、現在のロシア社会における「通説」とイコールであるとは限らない点をあらかじめお断りしておく。その上で、ロシアの軍事史家たちが挙げた研究成果の一端をご紹介できればと思う。
なお、各論文は複数のページに分けて掲載しているが、これは読みやすさに配慮して訳者が取った措置であり、原テキストの体裁とは異なっている。1.ボリス・カヴァレルチク「T-34再考」
2.アレクサンドル・トムゾフ「クルスク戦の過程で南方軍集団が被った装甲兵器の損害について」
3.オレーグ・ラストレニン「主力打撃戦力」
4.アンドレイ・クラフチェンコ「ベルリン作戦における携帯型対戦車兵器の運用実績について」
5.エヴゲーニー・コヴァリョフ「Me262からMiG-15へ:獲得技術と戦後におけるソヴィエト空軍の発展」
6.アレクセイ・イサエフ「『ラセイニャイのKV』伝説」( 2014.03.10更新)
ソ連軍資料室に戻る
ロシア史に戻る
洞窟修道院に戻る