時代遅れの親指AF

2018/3/26:発行
2019/3/02:更新

目次


  1. はじめに
  2. 結論
  3. コンティニュアスAFの状態を維持し易い?
  4. コンティニュアスAFでシャッターチャンスに強い?
  5. フォーカスロックが楽になる?
  6. 複数枚同じ写真を撮るのが楽?
  7. 置きピンが楽にできる?
  8. 三脚撮影も楽?
  9. まとめ

はじめに


突然ですが、親指AFをご存じでしょうか?

シャッターボタン半押しの代わりに、親指でAF起動ボタンを押す、アレです。


Nikon D850のAF-ONボタン

ちょっと考えると、人差し指1本でAFの起動とシャッターを操作できるシャッターボタン半押しAFの方が便利な気もします。

ところが、プロが使っているとか、殆どのデジカメにAF-ONボタンがある事や、ネットで調べてると親指AFを礼賛する記事が目立つ事から、真似して使っている方もいらっしゃる様です。

ですが、本当に便利なのでしょうか?

という訳で、親指AFにネットで言われる様なメリットが実際あるのか、じっくり検証してみたいと思います。


結論


結論から申し上げますと、どう考えても親指AFは時代錯誤の撮影スタイルと言わざるを得ません。

確かに一昔前のデジカメの様に、AFエリアが狭くて、AF速度の遅い時代でしたら存在意義もあったのでしょうが、昨今のAF性能が向上したデジカメでしたら、親指AFを使うメリットは全く見出せません。

従来から親指AFを使っていた方は、なかなか撮影スタイルを変えるのは難しいでしょうが、これから親指AFを使ってみようと思われている方は、そのまま使われる事を強くお勧めします。


コンティニュアスAFの状態を維持し易い?


先ず親指AFのメリットの一つとして言われているのが、コンティニュアスAFにおいて、シャッターボタンを半押しした状態を維持するより、AF-ONボタンを親指で押し続ける方が楽だというものです。

ですが、この主張にはどうしても納得できません。

なぜならば、人差し指でシャッターボタンを軽く押し続ける事は、何ら難しい事はないからです。

実際その状態で10分でも20分でも維持していて、何の問題もありません。

一方親指AFの場合、親指が自然に添えられる位置より異なる場所にあるAF-ONボタンを、強く押し続けるのはかなり大変です。

おまけにその状態で、シャッターボタンにも指を添える必要があるのですから、なお更です。

更に片手だけでカメラを支えなければならない場合、親指で背面のボタンを押し続け、さらにタイミング良くシャッターボタンを押すのは至難の技と言えます。

という訳で、親指AFの方がコンティニュアスAFの状態を維持し易いというのは、どうみてもコジツケとしか思えません。


コンティニュアスAFでシャッターチャンスに強い?


2つ目のメリットは、親指AFの方が、同じくコンティニュアスAFにおいてシャッターチャンスに強いそうです。

その理由は、AF動作とシャッターを切る動作を分離して行なえるため、ピントが完全に合っていなくてもレリーズすることができるからだそうです。

これも明らかに変でしょう。

何故ならば今どきの中高級デジタル一眼の場合、コンティニュアスAFにおいてレリーズ優先かピント優先かを選択できる様になっているからです。


EOS 7D Mark IIのレリーズ優先とピント優先の選択画面

ですので、シャッターボタン半押しAFでも、ピントが完全に合っていなくてもレリーズすることができるのです。

またそういった選択機能のない入門機や一昔前のデジカメの場合、コンティニュアスAFにおいては元々レリーズ優先になっており、シャッターボタンを押せばいつでもレリーズ可能なのです。

ですので、これについても全く根拠の無い話と言えます。


フォーカスロックが楽になる?


3つ目のメリットは、AF-Sにおいてフォーカスロックが楽になるというものです。

フォーカスロックとは、ある被写体にAFでピントを合わせた状態を維持する事を指します。

シャッターボタンを半押しAFの場合、シャッターボタンを半押してピントが合った直後がまさしくその状態です。

親指AFの場合、AF-ONボタンを押して、次に離すとこの状態になります。

どうなんでしょう?

シャッターボタンを半押しするだけと、親指でボタンを押して離すのと、どちらが楽でしょう。

誰がどう考えてもシャッターボタン半押しAFの方が楽でしょう。


複数枚同じ写真を撮るのが楽?


4つ目のメリットは、フォーカスロックで複数枚同じ写真を撮るのが楽になるというものです。

具体的には、以下の様な写真を同じ構図で2枚撮るとします。


シャッターボタン半押しAFの場合、以下の様に8行程が必要になります。

①ファインダーの中央を被写体に向ける
②シャッターボタンを半押ししてピントを合わせる
③半押ししたまま構図を変える
④シャッターを切る(1枚目)
⑤ファインダーの中央を被写体に向ける
⑥シャッターボタンを半押ししてピントを合わせる
⑦半押ししたまま構図を変える
⑧シャッターを切る(2枚目)

一方親指AFの場合、以下の様に6行程で済みます。

①ファインダーの中央を被写体に向ける
②AF-ONボタンを押してピントを合わせる
③AF-ONボタンを離す⇒④構図を変える
⑤シャッターを切る(1枚目)
⑥シャッターを切る(2枚目)

2枚の撮影では2行程の差ですが、更に3枚、4枚となるとその差はどんどん大きくなります。

ですが、今時そんな撮り方をするのでしょうか?

確かに一昔前のカメラでしたら、被写体が画面の端に寄っている場合、フォーカスロックを使って何度もカメラの向きを変えなければなりませんでした。

何故ならば、一昔前のカメラでしたら、測距ポイントが少なく尚且つそれらがファインダーの中央付近にしかなかったからです


測距点が9ポイントの初代EOS 5D

ところが最近のカメラでしたら、測距ポイントは増え、尚且つ測距エリアも拡げられており、余程端に被写体を配置しない限り、構図を決めた状態で被写体にピントを合わす事が可能になっています。


測距点が153ポイントのNikon D5

ちなみに、上にありますプロ用一眼レフの代表モデルであるNIKON D5で測距点は153ポイント、EOS-1D X Mark IIやEOS 5DマークIVでも61ポイント、入門機とも言えるEOS Kiss X9iですら45ポイントもあるのです。


測距点が45ポイントのEOS Kiss X9i

実際先ほどの写真と比べてみると、AFセンサーが被写体に掛かっているのを分かって頂けると思います。


測距点が153ポイントのNikon D5の場合

更に最近のミラーレス一眼に至っては、ほぼ全域がAFエリアと言っても良いほどです。


SONYのα7 IIIのAFエリア

そしてもう一つ重要な事をお伝えすると、これらのAFセンサーは昔から最も近距離にある被写体に合焦する様に設計されている事です。

ですので、上の写真の様に被写体より手前に物が無く、その被写体に測距ポイントの一つでも掛かっていれば、何もフォーカスロックを使わなくても必然的にピントの合った写真をいくらでも量産できるのです。

と言う事は、シャッターボタン半押しAFの場合、①構図を決める⇒②シャッターボタンを押す⇒③シャッターボタンを押すのたった3行程で、2枚のピントの合った写真を撮れるのです。

各メーカーにおけるデジカメの測距ポイントの増加と測距エリア拡大の目的とは、一重(ひとえ)に狙った構図のままで被写体にピントを合わせるためなのです。

当然ながら100%これで対応できる訳ではありませんが、わざわざそれらの機能を無視して親指AFにこだわる必要はないでしょう。

という訳で、今どきのカメラであれば、複数枚同じ写真を撮る場合においても、シャッターボタン半押しAFの方が断然有利と言えます。


置きピンが楽にできる?


親指AFの5つ目のメリットが、置きピンが楽にできる事(だそう)です。

置きピンとはご存じの通り、動いている被写体にピントを合わせるのは難しいので、事前に狙った場所にピントを合わせておき、動いている被写体がその場所に来たタイミングでシャッターを切るという、昔ながら(マニュアルフォーカス時代)の撮影方法です。


その昔、動いている被写体を撮るのには置きピンが必要だった

この場合親指AFでしたら、狙った場所にファインダーを向けてAF用のボタンを押してから離す、あとは被写体が来たらシャッターを押すだけで済みます。

一方シャッターボタン半押しAFでしたら、一度狙った場所にファインダーを向けて、シャッターボタン半押しのまま被写体がやってくるの待たなければなりません。

シャッターに指を乗せているのは同じなので大差は無いとも言えるのですが、それでも半押しを維持するよりは多少楽かもしれません。

と、ここまで読めば確かに親指AFの方が有利に思われます。

ですが、今時置きピン撮影が必要でしょうか?

もともと置きピンとは、マニュアルフォーカス時代に多用された手法です。

何しろ人の手でフォーカスリングを回しながら動いている物にピントを合わせるのは、至難の技だったからです。

ところが最近のコンティニュアスAFを搭載したカメラでしたら、演算速度の向上や動体予測アルゴリズムの改善により、非常に高速な動きや、急激な速度の変化、障害物による一瞬の遮り等々、さまざまな条件でも被写体をかなりの確率で捉える事ができる様になっています。

にも関わらず、それらの優れた機能を無視して、旧態依然とも言える置きピン撮影をする必要があるのでしょうか?

という訳で、本件においてもシャッターボタン半押しAFの方が優位性が高いと消えます。


三脚撮影も楽?


最後のメリットは三脚を使った場合です。


三脚を使った風景写真

親指AFならシャッターを押しても毎回AFは作動しないので、AFモードに設定したままレンズのフォーカスリングを回してピントを合わせ、そのまま何度でもシャッターを押すことが可能になります。

ですが、これもどうなのでしょう?

例えば三脚を使った風景写真の場合、ピントを固定したいのでしたらMFで撮影するのではないでしょうか。

だったらシャッターボタンを押してもAFは動作しないので、何も問題ありません。

また三脚を使った野鳥や鉄道写真でしたら、コンティニュアスAFでの撮影の方が余程歩留りが良くなると思われます。

という訳で、これについても親指AFの優位性は見出せません。


まとめ


以上をまとめると以下の様になります。

# 項目 親指 半押 理由
1 コンティニュアスAFの状態を維持し易い? シャッターボタン半押しAFの方が自然で楽
2 コンティニュアスAFでシャッターチャンスに強い? シャッターボタン半押しAFでも、レリーズ優先可能
3 フォーカスロックが楽になる? 親指AFの場合、AF-ONボタンを押して離す動作が必要であり、シャッターボタン半押しの方が楽
4 複数枚同じ写真を撮るのが楽? 被写体が端に無い限りシャッターボタン半押しの方が楽
5 置きピンが楽にできる? 置きピン撮影事態は親指AFの方が優れているが、動体にピント合わせ続けるコンティニュアスAFを使うのであれば、シャッターボタン半押しの方が楽
6 三脚撮影も楽? 風景写真ならばMF、野鳥や鉄道写真なら主にコンティニュアスAFを使うので、シャッターボタン半押しの方が楽

上の表を見て、よもや明日から親指AFを使ってみようと思う方はいらっしゃらないでしょう。






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