破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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紫の悲痛な叫びが木霊する。
だがそんなシリアスな雰囲気の声を向けられた当の本人は、紫とは対照的に穏やかな顔で笑みすら浮かべてこう言った。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。何も壊しはしないさ。これは僕からの君たちへの“弾幕ごっこ”さ」
フッ
「!?」
突如世界が黄金色に染まった。
見渡す限り夕方の様になった世界で皆が戸惑っているなかビルスが言った。
「ルールは二つ。僕の弾幕に一発でも当たったら失格。君らの中で一人でも僕に攻撃を当てる事ができたら君達の勝ち」
「ちょ、ちょっと待てよ! 一発でもって、その一発に当たっても私たちは平気なのかよ?」
今までにビルスの力を見てきて、最早弾幕遊戯であっても彼の力に言葉では表現できない強さを感じていた魔理沙が焦った声で訊いた。
その問いかけには魔理沙を始め、紫や直接対峙した騒霊、鬼も興味有りと言った様子だった。
「ああ、それは心配いらないよ。当たってもせいぜい痺れて試合が終わるまで動けなくなる程度さ。さて、順番に解り易く説明していこうかウイスー」
「はいはい、結局は私任せなんですね。こほん……では皆さんご静聴をお願いします!」
ビルスの振りを予想していたウイスが慣れた様子でそれを引き受け、彼と一緒に空中から群衆に向けて話を始めた。
「えー、先程ビルス様がお話しされた通り、ビルス様の弾幕に一発でも当たればその方は失格。試合が終わるまで動けません」
「ほっ、取り敢えず当たっても死んだりする事はなさそうだな」
「当たり前でしょ? 弾幕ごっこで死人が出るなんて紫が許さないわよ」
「まぁ、そうなんだろうけど……」
霊夢のこの世界では当たり前の見解に賛同しつつ、魔理沙はちらりとそのルールの創設者である紫を見た。
「……」
案の定紫はかなり複雑な表情をしていた。
自分が作ったルールは絶対だし、それを厳守する決意は今も変わらないだろう。
しかし、それでもどうしようもない事はあるのだ。
それが今彼女たちが見上げている神なのだから。
紫の表情は今まさに、それを明確に語っており、心の中で密かに魔理沙はその事に同情した。
「次に今から始まる弾幕遊戯がどのように行われるかをご説明します」
ウイスは良く通り、誰の耳にもしっかり届く声で説明を続けた。
「先ず今この状況、今私達はビルス様が作った結界の中にいます。と言っても、出入りは自由ですが」
「出入りが自由な結界?」
鬼らしく、もう体力が回復した勇儀が興味ありげに訊いた。
結界とは大凡空間を限定的に封鎖するもので、術者以外は術者の意思によってしか出入りはできない、というのが一般的な認知だったからだ。
「はい、その通りです。では何故そんな空間を作ったのかをご説明しましょう」
ウイスがそう言ってビルスに目配せをすると、彼は軽く頷いて星のように輝く小さな光球をウイスの前に一つ出した。
ウイスはそれを持っていた杖の柄でで軽く叩いた。
するとその光球は紫たちがいる地上ではなく結界が張られていない外に向かって飛んでいった。
そして光級は、そのまま先ほどウイスが言った通り結界を抜けて彼方へと行くのかと思いきや、意外にもそれは結界に当たると跳ね返ってまたウイスの下に戻って来た。
「あれ?」
フランが目を丸くして不思議そうな顔をしていた。
「おじさん、弾、跳ね返ってきちゃったよ?」
少女の純粋な疑問にウイスは笑顔で答えた。
「はい、そうですね。ここで補足しますが、結界を抜けられるのは対戦相手の貴方達だけで、弾幕はこうして跳ね返って戻ってきます」
「なるほど……!」
紫が希望を得たと言わんばかりに安堵した表情をした。
「はい、八雲さんが御心配されている様な事には決してなりませんのでご安心ください。えー、皆さんよろしいですか。この通りビルス様の弾幕は結界を通り抜けずにこうして壁に当たると跳ね返ってきます。そしてこの弾幕のもう一つの特徴をお教えします」
ウイスは今度は光球を地上に向けて打った。
しかしその方向は紫達での方ではなく、全く関係がない神社の建物がある方だった。
「あ!」
思わず霊夢が目を見張ってその行方を見守ったが、彼女の心配を余所に光球は何事もなく建物の屋根を“通過”して行った。
「え?」
予想外の結果に霊夢は目をパチクリとさせた。
その反応を見てウイスは軽く笑いながら続けた。
「すみません。驚かせてしまいましたね。この通りこの弾幕は『人にしか効果はありません』そして……」
ウイスが掌を返すと建物の中に消えた光球がまるで先ほど結界に当たった時のように跳ね返って彼の手元に返って来た。
「そしてこのように地面に当たっても跳ね返ります」
「ふむ、という事は当然私達が結界の外に出ても失格と言う事になるんですね?」
寺小屋を臨時休業し、藤原妹紅を連れてこの祭りに来ていた上白沢慧音が我が意を得たとばかりに鋭く自分の推察をウイスに確認した。
それに対してウイスはニッコリと『ええ、まさしくその通りです』と返した。
「ビルス様……!」
ビルスの配慮(?)に本当に安心して感謝した紫は目を潤ませる。
そんな珍しい彼女の様子を、既に目の当たりにした者も含めて改めて皆、密かに驚くのだった。
「えっと、説明が少し長くなって申し訳ないのですが、これで最後です。で、この弾幕ですがまだ特徴がありまして『人にしか効果が無い』『結界と地面に当たったら跳ね返る』以外に『一番近いターゲットに直線で向かってくる』というものがあります」
ウイスが言った、弾幕の追加のこの特徴には少し群衆からどよめきが漏れた。
ウイスはそれに構わず話を続ける。
「当たったらその時点で弾幕は消滅し、外れたら跳ね返ってまた一番近いターゲットに自動的に向かってきます」
「じゃぁ、一回でも自分に向かって飛んでくるのを避けたら、それについてはそのまま跳ね返るまで直進するのね?」
「その通りです。跳ね返っている最中にまた別のターゲットに向かいます」
「なるほど……」
アリスの確認に首肯するウイス、そしてその事を重要な情報という様にパチュリーは呟いた。
「まぁ、それなら何とかなりそうね?」
霊夢は一通りの説明を聞いてそう結論した。
見た所ここにいる全員が参加者となるなら、勝率は低いと考える方が難しいと言えた。
何しろ天地揃っての強者も何人もいるのだ。
これで勝つのが難しいという事はそうないだろう。
霊夢はそう考えたのだ。
「ふふん、そうかな?」
ビルスはそんな霊夢の余裕そうな様子を面白そうに笑うと、右手の人差し指を一本突き出して紫たちを指したかと思うと、その指先を一瞬光らせた。
その瞬間……。
パッ
霊夢たちの周りに突如として先ほどから見ていた光球が“無数”に現れた。
それの数はまるで宇宙に浮かぶ星のように膨大で、彼女たちの周り以外にもなんと空中にもそれは展開されていた。
「ちょっと、これって……」
流石に霊夢が冷や汗を流す。
ウイスの説明の時は数が一個だけで、実際に遊戯が始まってもそう無茶苦茶な弾幕ではないだろうと楽観していただけに、これはちょっとマズかった。
説明を聞いていた時は敢えて何も言わなかったが、光球の速さは“なかなか”のものだった。
神経を集中させていれば十分その動きをとらえる事はできたが、要は“そうしないと”捉えるのが難しい速さだったのだ。
それが今は自分が想像した事もないくらいの数の弾幕となって結界中に展開されている。
いくら動きが単純でも『規則正しく』でも『不規則』でもなく、自動的に一定の数がこちらに向かって来るとなれば回避行動自体が困難なものとなる。
「これが一斉に……」
咲夜が自分達を囲むきらびやかな星を眺めながら一筋の冷汗を流す。
時分は時間が操作できるからまだ回避はし易い方だろうが、だとしても自分の主が被弾するかもしれない可能性放棄してまでビルスへの攻撃を優先させるわけにはいかなかった。
咲夜はチラリと自分の主のレミリアを見る。
「……」
傍で光る星を見てはしゃぐ妹と、呆然としている魔法使いの友に対してレミリアは至って平静としていた。
ただ真っ直ぐに他の者たちと同じように星を見つめるだけで、その双眸からは何を考えているかは読み取れなかった。
「さて、これで本当に最後になりますが、試合開始の前に私から皆さんにおひとつサービスを差し上げます」
皆が言葉が出ずに緊張した面持ちで周りを見渡しているなか、ウイスがそう言って杖を軽く振りかざした。
すると展開されていた星とは別に5人くらいの人なら楽に入れそうな薄い青色をした大きな球体が、これも地上だけでなく空中も含めて複数出現した。
「ウイス様、これは……?」
先程のウイスの言葉から、まさかこれも弾幕とは考えてはいなかったが、それでも不安を払拭しきずにいた紫が恐る恐るといった様子で訊く。
「それは一種の回避スペースです。弾幕が吹き荒れる中でもその玉の中には弾幕は入ってきません。当然人だけが出入りができます」
「お、そりゃいいや。これで少しは光明が見えたってもんだぜ」
ウイスのサービスに希望を持った魔理沙が明るい声で言った。
ウイスはそんな魔理沙の安心に水を差すような事は言わなかったが、それでもどこか面白がっている様に彼女に言った。
「ああ、でもこの玉について一つだけ注意しないといけない事があります。」
「ほう、それは何であろう?」
星を眺めながら高揚感が満ち、指を鳴らしていた神奈子が訊く。
「この玉ですが、弾幕は防げてもその衝撃には素直に受けます」
「は? どういう事?」
霊夢はちょっと意味が解らないという顔をする。
そこでアリスが補足をしてくれた。
「こういう事よ。弾幕は玉に入ってこなくてもぶつかった衝撃自体は受けるから、玉もそれに応じた動きをするって事、でしょ?」
「ご明察です」
ウイスはアリスの推察にニッコリと笑顔を返した。
「え、それって……」
霊夢は自分が玉に入って弾幕を凌ぎながらも、衝撃に右往左往する玉の中で揺さぶられて思い通りに動けない自分の姿を想像した。
一人ならまだ何とかなるかもしれないが、もし玉の中に自分以外の複数の人がいたらと考えると、動きの取り難さを懸念せざるを得なかった。
「さて、それではいいですか? 失格のルールが一つ追加されますが、それは『結界の外に出ない』だけです。そして弾幕にも当たらずビルス様に攻撃を当てる事ができたら皆さんの勝ち。良いですね?」
「待って!」
いよいよ遊戯開始の合図をウイスがしようとしたときだった。
それまで殆ど喋らずにビルス達を見ていたレミリアがここで声を上げた。
「お嬢様?」
「姉様?」
「レミィ?」
「遊戯を始める前に一つだけ私のお願いを聞いて頂けないかしら?」
思わぬ発言者に意外の家族から意外の目を向けられるなか、レミリアは気にする様子も無く毅然とした態度で真っ直ぐビルスを見つめながら言った。
ウイスはビルスを見て許可を確認する。
「ビルス様?」
「いいよ。なんだい?」
「ありがとう。願いとは、試合の前に私の力を皆に適用させて少し闘い易くさせて欲しいという事です」
「ほう?」
レミリアの申し出にビルスは興味を惹かれたらしく、目を少し見開く。
「今まで貴方を見て来て思いました。貴方のお力はかなりのものだ、と。故に私は自力で賄えるハンディとしてこれ許可を頂きたいの」
レミリアはビルスが自分の申し出に関心を抱いた事を逃さないように、策略家らしく更に話の中で彼を持ち上げつつも、機嫌を取ってみせた。
これにはビルスも気分を良くしたようで、軽く手を振って許した。
「いいよ。やるといい」
「ありがとうございます。じゃぁみんな、ちょっと下がっていて」
レミリアは礼儀正しくビルスに一礼すると、一人空中に舞い上がった。
やがて彼女はビルス達ほどではなかったが、地上にいる皆を見渡せる高さまで上昇すると、片手にどこからか赤い槍の様な物を出現させた。
「まさか……」
それを見ていたパチュリーが何となく予想ができたらしく一人呟く。
そしてレミリアは、何を思ったのかそれを一も二もなくいきなり誰もいない地上に狙いを定めてそれを投げ撃った。
槍は少女が投げたとは思えない程の凄まじい速さであっという間に槍は地面へと刺さったが、意外にもその時の音は驚く程小さく、加えて衝撃らしい衝撃も一切なかった。
しかし……。
「ほう」
ビルスが槍を中心にしてその周りに突如として魔法陣が出現したのを見て目を細めた。
その円陣はみるみる内に拡大して、やがてビルスが囲った結果と同じくらいにまで広がり、そこからさらに薄く赤い光が空全体にまで広がった。
「……っっ!」
レミリアは何かに絶える様に必死な形相で目を見開いて槍をじっと見つめていた。
一方ビルスはビルスで何かを感じた様で、組んでいた腕に乗せていた片手の指を一本だけ僅かに動かしていた。
「……っはぁ……!」
そして暫くして、まるで長い時間息を止めていたな苦しさから解放された時の様にレミリアが息を吐く。
「お嬢様……?」
疲労困憊して見えるレミリアを咲夜が心配する。
「ふぅ……まさかここまで全力を出して三割とわね……」
レミリアは肩で息をしながらやっとの思いといった様子で地上にいる皆に大声で宣言するように言った。
「三割よ! 私の運命操作で三割だけ貴方たちに弾幕が当たる運命を下げたわ!」
「やっぱり」
「え、マジか!」
「やるじゃない!」
「へぇ、それは助かるね」
レミリアの思わぬ働きに地上の群衆からは歓声や称賛する声が漏れる。
そんな感謝する声が上がる中、ウイスは意外そうな顔でビルスを振り返っていた。
「ビルス様?」
「まぁ、これくらいはいいだろう。元々彼女たちのルールに従って始めた遊びだ。このくらいの干渉は“許して”もいいだろう」
「お優しいですね」
レミリアは全力を振り絞ったからこそ、運命操作でこの結果を引き出せていたと思っていたが、実は真相はそうではなかったのはこの二人のみが知る事実だった。
次で終わらせるといってこのありさま。
そして何気にエピソードの中で一番長くなってしまい、心苦しく思います。
それも自分の文章力と構成力の無さではありますが、下手な妥協をして更に下手な話にするようりは、ということで幻想郷編は次の話まで持ち越すにしました。
半年近く空白が出来て申し訳なく思います。
クレしんの時の様に新しい話を作りながら続きを考えようとも思ったのですが、同じ同じ轍を踏む事を懸念して結局こんなダラダラした形になってしまいました。
だからこそ今回は自分に約束を。
幻想郷編は次で本当に終わりで、新編も今週の間には始めようと思います。