破壊神のフラグ破壊   作:sognathus
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神と鬼のタッグと破壊神との闘いは地上でいくらか萃香が暴れた後、自然と空中へとその部隊を移していた。
神奈子今度は自分の番と言うように萃香を抱えて浮かび上がると、ビルスと対峙しながら言った。


第11話 「無敵」

「萃香、お前の能力は!?」

 

「凝集と拡散!」

 

「なるほど、相解った。ならば手を貸せ!」

 

ざっくばらん過ぎる説明であったが神奈子は理解した。

それはこれは有効に活用できると確信した。

 

「と、その前に一つ確認するが、本当に全力でいいんだな?」

 

「あれと闘うなら全力以外に選択肢は……ない!」

 

「……分かった!」

 

神奈子が掌を突き出す。

すると神奈子の近くで雷が鳴り始め、やがて雷鳴を轟かせながら神奈子の掌にまるで充電でもしているように集まり始めた。

 

「萃香、これを“凝縮”しろ、できるな?」

 

「なるほど、固めればいいんだね? はいよー!!」

 

萃香は神奈子の考えを察して二人とも両手を使えるように、彼女の肩に乗った。

そしてそこで神奈子が集めている雷に向かって拳を握りゆっくりと回し始めた。

一見すると雷を集めるという意味においては同じことをしているように見えたが実は違った。

 

“神は雷を集め”“鬼はそれを固めて過密にする”

 

かくしてその果てに成ったものとは……。

 

ジジ……ジジ……という音を立てて神奈子の前にビー玉程度の大きさの輝く光球が浮かんでいた。

それは白く鈍い光を放っているだけでパッと見特に変化は見られないのに、何やら周りでパチパチと音をさせてその度にスパークが走らせ薄い黒煙を発生させていた。

 

「あ……」

 

地上からそれを見ていたアリスが顔を青くさせた。

見た目からは判り難いがアレはヤバイ。

アレはとんでもない“高エネルギーの塊”だ。

ただでさえ高いエネルギーを持つ雷なのにそれを集めて密度を高めた結果、抑えきれない高温とスパークが空気中の分子や目に見えない程小さい生命でさえもその存在を許さず焦がしている。

一体どれだけの規模の雷のエネルギーを集めたのかは予測できなかったが、それでもあれを地上に落とすだけでも幻想郷の生物は不死性を持つ者を除いて全て感電死し、あとは炎を浄化の要とした煉獄を彷彿とさせる光景が広がるだけだろう。

それを、そんなものを今二人はたった一人の破壊神を名乗る者に放とうとしている。

 

「神奈子、これで完成か?」

 

「いや……」

 

萃香の確認に神奈子はまだ否だと言った。

そしてビルスに向かって腕を伸ばしたまま自分の背後に四本の御柱を出現させ、それを自分の前に移動させて横に倒して円陣を組ませるとゆっくりと回転させた。

丁度ビルスに向かって砲弾を放たんとしている大砲が射線を示すような様だった。

 

「ん?」

 

ビルスは自分に向って風が吹いてくるのを感じた。

その風は徐々に強くなり、やがて台風よろしく大粒の雨も含んだ轟風となった。

 

「破壊神よ、降参するなら今ぞ!」

 

思わぬ神奈子の降伏勧告にビルスは目をパチクリとさせる。

そして暫しの沈黙のあと笑いを堪え切れず噴き出しながら直ぐに返事を返した。

 

「ははは、いいよ遠慮しないで」

 

「……そうか」

 

ビルスの軽い態度は自分の力を侮っているのかそれとも真の自信からくるものか……。

神奈子は真剣な表情で考えながらも既に心の中ではその結論が後者だと確信している自分に気づいていた。

 

(力の差を感じているのか……?)

 

「神奈子」

 

「ああ……」

 

萃香の声を合図に神奈子は光の球を弾く為に指を曲げる。

そして……。

 

 

「ウイス様」

 

中主神がウイスに声を掛けた。

ウイスはその意を解しているらしく一言「ええ」と頷いた。

彼の足元では取り乱しながらもアリスと同じ惨状を予想した紫が泣きじゃくりながら「幻想郷が焼けちゃうぅぅ」と嘆いていたが、そんな彼女の肩に中主神がそっと手を置いた。

 

「中主神様……?」

 

「安心してください。ウイス様が結界で護ってくれますから」

 

中主神は優しい顔でそう言うと空を眺めながら再び何処からか取り出した煙草に火を点けた。

 

 

ピンッ……カッ!!

 

「!」

 

空が光った。

いや、ただ光ったという生易しいものではなかった。

その光は地上にいる者全てが空に注意を向ける輝きを瞬時に放ち、その明るさは真昼のそれを一瞬で越え世界は白い光に包まれた。

 

ゴォォォォォオオオオオオオオオ!

 

事前にウイスが結界を張ってくれていたのでビルス達以外はただ白い光に視界を奪われただけに終わっていたが、結界の外では滝壺が水を打つ音を幾倍にもしたような凄まじい轟音が轟いていた。

神奈子が放った雷の矢はビルスに向いながらもその膨大なエネルギーを周囲にまき散らし、一部の空間ごと結界で囲まれていたビルス達がいた場はさながら加熱中の電子レンジの中身のような獄熱の世界となっていた。

 

(しまった……)

 

自身の能力で雷による被害を回避できる神奈子はその時一緒にいた萃香の事をすっかり忘れていた。

いや、そもそも地上に降りかかる被害の事を予想していなかった時点で十分に不注意だったわけだが、それでも自分のミスで萃香が深手を負っているかもしれない状況に焦って周囲を見渡した。

 

「萃香!」

 

もぞ……

 

「ん……っ」

 

何か胸元からこそばゆい感触を感じた。

神奈子がそれに気付いて襟を開いて服の中を覗いて見ると、彼女胸の谷間に小さくなった萃香がすっぽり入りこみちゃっかり避難をしていた。

神奈子はそれを見て安堵の息を吐く。

 

「すまんなんだ」

 

「気を付けてくれよ!」

 

流石に神奈子も萃香からの当然の避難を大人しく受け、そしてその時になって初めて自分の周囲が結界で囲まれている事に気付いた。

 

「あ……」

 

「まぁ、当然だよな。結界を張ってくれた者にも感謝だな」

 

「ああ……」

 

目の前の闘いにのめり込み過ぎて周囲に対する配慮を欠いていた事を神奈子は神として恥じた。

これは後で諏訪子に暫くネタとして弄られる日々が続くだろう。

 

「ん……?」

 

神の保護で萃香を熱から守りながら周囲を索敵してた神奈子は結界の中に満ちていた熱が急速に退いていくのを感じた。

熱が下がるならまだしも退いているのである。

密室の状態なので熱が下がるのも時間はある程度かかる筈であるのに、まるでその熱は雷の矢を受けたビルスがいた方向に向かって急速に移動していたのである。

それは神奈子からすれば“熱が退いている”という表現が適切であった。

 

「……っ」

 

神奈子は見た。

自身が放った雷も、それから発生した莫大な熱も全てがビルスに流れ、そしてそれが彼の周りをオーラのように漂っているのを。

 

「ふむ」

 

陽炎のような燈色のオーラを揺らめかせながらビルスは鼻から息を一つ吐いた。

そして片手を胸元まで持ってくると手を開いた。

すると纏っていたオーラが今度は彼の掌に集まりだし、周りからオーラの輝きが消える頃にはその掌の上で星のように輝く小さな光となっていた。

そしてそれを特に前置きもすることなく握って消した。

 

「!」

 

何の音もなく自分が放った雷の塊を握り潰したビルスに神奈子はこの時初めて骨の髄から戦慄した。

彼女の襟もとから顔を覗かしていた萃香もその光景には流石に冷や汗を垂らした。

そんな彼女達に対してビルスはというと、何か気まずそうにしながら頬を掻いて神奈子を見ながら言った。

 

「まぁ避けるのもなんだったし、だからと言っての全部の防いでみせるのもアレかなと思ったから敢えて受けてみたわけだけど……」

 

「……」

 

「これはこれで盛り上がりに欠けるな」

 

「……あ」

 

「いや、攻撃としては趣向を感じる良いものだったよ。まぁそれだけだったけど……やっぱりさっきの相撲もそうだけど、結果が決まっているなら弾幕戦をした方がまだ面白かったかもね」

 

「……」

 

神奈子と萃香はもう言葉も出なかった。

次の手も考える気も起らなかった。

これほどの力の差を見せられてはそれも仕方ないと言えた。

だが無情にもビルスの方はそれで終わらせる気はないようだった。

 

「じゃ、せっかくだから今度は僕から攻撃してみようか」

 

「!!」

 

シュンッ

 

ビルスは一瞬で神奈子達の前から姿を消すと、彼女達よりやや離れた位置に姿を現した。

構図的には丁度二人がビルスを見上げる形である。

 

『ウイス』

 

不意にビルスは地上にいるウイスに声を掛け、不思議な事にその声は上空からかなり下にいる皆にもスピーカーから聞こえる音のようにハッキリと聞こえた。

ウイスはその声にいつも通りに落ち着いて反応し、彼の声に応えた。

 

「はいはい何でしょう?」

 

『結界を解け。お祭りを最後に盛り上げよう。こいつらの力を見る』

 

ビルスはそう事も無げに言い、片手を地上に向かって伸ばすとそっと掌を開いた。




はい、ちょっと短めです。
そして当初の予定より話数が長くなってやや焦りを感じてます。
次で上手くまとめて終わらせる予定です。

にしても今度の闘いは話の内容的にも地味で展開も遅く、久しぶりにつまらない話になってしまった気がします。
無敵のキャラを立てるのって難しいなと久しぶりに思いました。


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