破壊神のフラグ破壊   作:sognathus
<< 前の話 次の話 >>

42 / 56
幽香との対戦が終わり、紫はほっと胸を撫で下ろしていた。
一時はかなり心配したが、ここまでは何事もなく済んでいる。
このまま弾幕戦が続くならあまり心配することはないかも……。

否。
残念ながらその僅かな希望はあっさりとまたも脅かされることとなった。


第8話 「提案と頭痛」

「よしっ、次はあたしね!」

 

大きな朱色の杯に注がれた酒を一息に豪快に飲み干し、ビルスの次の対戦相手を志願する者が現れた。

 

「……」

 

射命丸は次こそは相手が誰であろうときっぱりと催しの進行を勝手に邪魔しないように中止するつもりだったが、その発言した相手の声を聞いた時点で黙ってすごすごと引き下がった。

何故ならその発言した者というのは……。

 

 

「ビルス? だっけ? 凄いねぇ、さっきの! あたしあんなに力を感じる弾幕戦初めて見たよ!」

 

挑発を靡かせながら進み出たその者はまたも女。

額から生えた大きな一本の角、手首に途中で鎖が切れた枷のようなものを着けて、長い腰巻に下駄。

特に何もしていないで立っているだけなのにそれだけで何か豪気というか力強さを感じさせる雰囲気。

彼女は鬼。

かつて山の妖怪の頂点に立っていた鬼の四天王一角にしてその一人の伊吹萃香と肩を並べる鬼の中でも『力』の権化、星熊勇儀であった。

勇儀は黙って引き下がった射命丸に笑いながら片手で拝み手を作って「悪いね」と言い、悠々とした足取りでビルスの前へと立った。

 

「ふん? 次の相手は君か」

 

「ああ、けどその前に。ちょっと提案っていうかお願いがあるんだけどさ。射命丸……いや、文」

 

苗字ではなく名前で呼ばれ、何かもうこれだけで断りようのない迫力を感じた射命丸はびくりと身を震わせるも、一瞬で勇儀の前に恭しい態度で現れた。

 

「は、はい。なんでしょうか」

 

「あのさ、次の対戦なんだけど、弾幕じゃなくて相撲にしたいんだ」

 

「す、相撲ですか」

 

最初から弾幕遊戯を主に置いた催しだと射命丸は認識していたので、遊戯のこの提案に虚を疲れた顔をした。

 

「相撲……」

 

そしてそれは霊夢たちの近くでその様子を見守っていた八雲紫も同じだった。

だがこちらの方は驚きというより明らかに嫌な予感に顔色を悪くしていた。

 

 

「そう、相撲。いや、弾幕戦もできないこともないんだけどさ? やっぱりどっちかというとあたしはこっち派だろ? だからさ、頼めないかな?」

 

そう言って勇儀は腕を曲げて浮き出た力こぶをポンポンと叩いてアピールしながら競技の一時的な変更を願い出た。

 

「えっとそれは……そうですね、ビルスさんさえ良ければいいと思いますが……」

 

そう言って射命丸はちらりとビルスを見た。

かつての組織的な関係はなくなっているとはいえ、正直言って鬼には本能で逆らう気になれない彼女は外部の意見を尊重することによって司会としての威厳を保つ道を選んだのだ。

聞いた相手がこれからの対戦相手ならある程度勇儀の提案とぶつかることがあっても問題はあるまい。

射命丸はこう考えたのである。

幸いにも意見を求められたビルスは、特に反対もせずにまたも射命丸が弾幕に対抗する方法で制限を願い出てそれを受け入れた時と同じようにあっさりとその提案も承諾した。

 

「いいよ、別に。でも相撲ってどんな競技なんだい?」

 

「んー、純粋に相撲のルールでやるといろいろ面倒だし理解し難いと思うからさ。ここは相撲に近いルールでやろうと思うんだ」

 

「ふむ、というと?」

 

「先ず土俵。土俵っていうのはまぁ、適当に地面に丸い線を描いてさ、対戦相手はその中から出たら負け」

 

「ふむ」

 

「次に今からやる相撲、みたいなやつのルールは飛んではいけない。浮くのもいけないし、飛び跳ねて両足を地面から離してもダメ」

 

「ふむふむ」

 

「後は地に手を着いてもダメ」

 

「ふむ、なるほど」

 

「以上3つの敗けの判定を喧嘩で決める!」

 

「喧嘩?」

 

「そう。まぁ要するにただの取っ組み合いかな?」

 

「ああ」

 

 

「……!」

 

そこまで勇儀の話を聞いた時点で紫の顔色はとうとう真っ青になった。

 

(弾幕遊戯で済ませておけば何とか何事もなく済むかもと思っていたのに、破壊神と物理的な肉弾戦!? 本当にあの鬼は何を言っているの!?)

 

紫は勇儀の力の強さはを知っている。

勿論ビルスには及ばないだろうが、それでも率直なぶつかり合いを好む彼女がビルスと闘うことで本気でも出すことになれば……。

 

「……っ」

 

紫はその様を想像して思わず地に突っ伏してた。

その有様を見た藍が何事かと直ぐに橙と共に走り寄る。

 

「紫様、どうされたのですか?」

 

「ぐす……うぅぇぇ……藍……。私もうダメかもぉ……」

 

「ゆ、紫様……!?」

 

そう顔を上げて涙目になってしゃくりあげる主の顔を見て藍はかなり混乱した。

こんな主を見たは初めてだ。

 

(え……? 一体何が始まるの……?)

 

 

「ルールはこんなとこ。簡単だろ?」

 

「そうだな。だけど……」

 

勇儀の説明を聞いてビルスは少し考えた。

確かにルール自体は直ぐに理解した。

しかしとある問題があった。

それは今までのように弾幕戦という実際にこの世界のシステムに組み込まれたルールに則って対戦内容に対してこれは完全にその場の発想の即席のものだという事だ。

純粋に相手とぶつかるとなると、自分はどの程度の力加減で戦ったらいいのか。

それを考えるとちょっと面倒に思えた。

 

「うん? どうしたの? 怖い?」

 

事実を知らないというのは時として幸運である。

勇儀はそんな恐ろしいことを言った。

ビルスは早速その言葉に反応し、少しムキになった顔をして直ぐに言い返した。

 

「別に怖かないよ。ああ、いいよちょっと面倒だけどなんとかやってみよう」

 

「……? ああ、ならよかった宜しくな」(面倒?)

 

勇儀ははそう言って同意への感謝と対戦前の挨拶を兼ねて手を差し出してきた。

ビルスはそれを頷いて握り返す。

 

「分かった」

 

 

 

「はい、お待たせしました! 次の対戦はちょっと競技が変わりまして相撲! みたいなものになります! 霊夢さん土俵の線引きありがとうございました!」

 

「ちゃんと賽銭入れておくのよ!」

 

「あ、ちょっと。そういう密約を明るみに出す発言は控えてください! なんか凄くかっこ悪いので!」

 

「霊夢ケチくさいぞー!」

 

「うっさい魔理沙」

 

対戦の舞台となる土俵は神社の拝殿の後ろ、霊夢の居住区縁側から除く庭と決まった。

流石に鬼の力で暴れられたら神社の施設や設備に被害が出る可能性があったからだ。

 

 

「……賑やかですなぁ」

 

「ほほほ、そうですねぇ」

 

縁側に座ってすっかり寛いだ風でタバコをふかしていた中主神がほのぼのとした声で言った。

隣に座ってお茶を啜っていたウイスも朗らかに笑いながら同意する。

 

「あ、お茶菓子持ってきたけど」

 

「あ、ありがとうございます。アリスさんでしたっけ? わざわざどうも」

 

「え、茶菓子? あ、これはすいません。火を、灰皿……」

 

「はい、どうぞ」

 

いつの間にか祭のゲストの接待役をやっていたアリス・マーガトロイドは、携帯用の灰入れを取り出すのに手間取っていた中主神に気を利かせて彼がそれを取り出すより皿型のものを差し出した。

 

「ああ、すいませんね」

 

「いえ……」

 

魔理沙に呼ばれて遅れて神社に訪れたアリスは複雑な思いで見知らぬ人の世話をしていた。

 

(全く、急な呼び出しで来てみれば何か大掛かりなお祭りみたいなことやってるし。それも相手は只者じゃないし。何となく世話を焼いちゃったこの人達も何か普通じゃないみたいだし。一体どうなってるのかしら……)

 

アリスはお茶を出し終えたところで今まさに始まらんとしているビルスと勇儀の対戦を興味深い目で眺めていた。

 

 

「はい、それでは第三戦開始致します! 両者準備は宜しいですか? 特にビルスさん疲れていませんか?」

 

「よゆーよゆー」

 

「ふふ……面白い奴」

 

「はい、了解です。では、第三戦……始めっ」




早く投稿するために分を短くしているようで、キリが良いからここでと言い訳したり。
個人的にはテンポよく最近書けているので、やっぱり一旦停められるところでは停めておきたいんですよね。
その方が続くネタも考えやすいし……(ボソ

それではまた次の話で ノ


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。