オーバーロード 拳のモモンガ   作:まがお
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若さ故の

 エイヴァーシャー大森林にあるらしいエルフの国を探す旅に出たモモンガとツアレ。

 エ・ランテルを出発した二人はスレイン法国を通らず、アベリオン丘陵を経由して大森林に行くルートを選択していた。

 もちろん移動手段は基本的に徒歩である。冒険者らしさを演出するため、ツアレにとってそこは外せないポイントだった。

 本当は他にもっと大事にするべき所があるのだろうが、モモンガは特に指摘はしなかった。時間など膨大にあるのだ。多少の無駄も楽しめばいいと楽観視している。

 

 アベリオン丘陵は広大な丘陵地帯で、多種多様な亜人種達が住まう土地である。

 亜人種の大多数は多種族との共存はしておらず、部族間で日夜戦いが繰り広げられている。

 人間にとってはかなりの危険地帯と言っていいだろう。

 

 

「ふぅ、今日も結構歩きましたね」

 

「お疲れ様。今のところ完全不可知化の魔法を見破れる様な奴がいなくて良かったよ」

 

 

 人間に友好的な亜人種などこの地にはほとんどいない。亜人と会う度に争いごとに巻き込まれるのも面倒なため、モモンガは自身とツアレにいつも魔法をかけて移動していた。

 リアルではとっくの昔に無くなったものだが、サファリパークを歩いている様な気分だ。

 ただしここで見られるのは蛇と人を合わせた様な見た目の蛇身人(スネークマン)、二足歩行の山羊の様な山羊人(バフォルク)など危険度は段違いだが。

 モモンガの魔法を信用しつつも、最初はおっかなびっくりでモモンガにくっ付いて歩いていたツアレだった。しかし、慣れてきたのか今では珍しい亜人が居たら少し離れて観察する位の余裕は出てきたようだ。

 

 

「もうすぐ日も落ちるし、そろそろ野営をするか」

 

「そうしますか。もうクタクタです……」

 

 

 野営の際はマジックアイテムを使って拠点を作成している。加えて周囲に魔法で罠を仕掛けたりと、モモンガらしい安全第一な野営だ。

 割と本格的なコテージのため、もはや野営とは言えないレベルである。

 しかし、そこにこだわりは無いのか、それともちょっと抜けているのかツアレは特に気にしていない様だった。

 

 

「もう森は見えてきているから、あと数日もすればエイヴァーシャー大森林に入れそうだな」

 

「早く森の木陰に入りたいです。最近は日差しも強くて暑くなってきましたから」

 

「ツアレは熱中症とかにも気をつけた方が良いな。私は汗をかかないし、身体も風通しが良いからあまり問題はないが」

 

「不思議な身体ですよね。食べた物とか何処に消えてるんでしょう?」

 

「たぶん気にしたら負けだろう。身体を洗う時は面倒だが、骨でもそれ以外に不便は特にないし問題ないさ」

 

 

 モモンガとツアレは晩御飯を食べて、設置されたお風呂で一日の汚れを洗い流す。

 そしてふかふかのベッドで休み、次の日に備えてぐっすりと眠る。

 荷物は全てモモンガのアイテムボックスに入れて持ち運べるため、食料も着替えも制限する必要はない。

 二人は何だかんだ冒険とは思えない程快適に過ごしているのだった。

 

 翌日、森を目指して歩いていると、モモンガは遠目に不思議な集団を見かけた。

 

 

「ん、何だあれは…… また亜人達の争いか?」

 

「何でしょう、よく分からないですけど人が戦っているようにも見えます……」

 

「こんな所に来る物好きな奴か、怪しい…… 少し警戒が必要だな。〈千里眼(クレアボヤンス)〉〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉」

 

 

 自分達のことは完全に棚上げして、魔法でウサ耳を生やした骸骨は様子を探り出す。

 どうやら人間の集団が亜人と戦っている、いや一人だけ異様に強い存在がいる。一方的に狩っているようだ。

 

 

「人類を食い物にするケダモノどもよ!! この俺が一匹残らず滅ぼしてくれる!!」

 

 

 周りの大人が実用性のある見た目の装備をしている中、一人だけゲームに出て来る装備の様な浮いた格好をしている人物。

 長い黒髪で一瞬少女かと思ったが、声からしておそらく男だろう。

 ツアレと変わらないくらいの見た目の少年が槍を振り回し、亜人相手に無双していた。

 

 

「流石はあの年で隊長に推薦されただけはありますね…… 化け物じみた強さだ」

 

「ええ、彼が今後も人類を守る砦となってくれるでしょう」

 

「間引きを兼ねたこの任務も問題なさそうね」

 

「でも彼は彼女に会ったらどうなるんでしょう。たぶんこの任務が終わったら顔合わせがありますよね?」

 

「……上には上がいる。壁を知る事も大切だ」

 

 

 周りの大人達は彼の能力を評価しながらも、なんとも言えない表情をしていた。

 

 

「俺たち漆黒聖典こそが人類最強の守護者!! ……いや俺が、俺こそが、俺一人で漆黒聖典だ!!」

 

 

 ほぼ一人の力によって、いくつもの亜人の死体が積み上げられる。

 手に持つ槍を高く突き上げ、バァーンという効果音が鳴りそうな程ポーズを決めている少年。

 そんな彼を周りの大人達は生暖かい目で見ていた。

 

 

「うわぁ…… イッタイなぁ」

 

「モモンガ様、何が見えたんですか? どこか痛いんですか?」

 

 

 ツアレがモモンガの事を心配そうに見ている。今見た光景をどう伝えるべきかモモンガは悩んだ。

 この世界の人間にしては異常な程の強さ。そして怪しげな装備。別に敵対する訳ではないのだから多少は省いても構わないだろう。

 

 

「いや何でもない。どうやら人間の集団と亜人の集団が戦っていたようだ。間引きとか何とか言ってたから、組織的に動いているのかもな。関わらない方が無難だろう。少し迂回しながら森を目指そう」

 

「はい、分かりました。モモンガ様が居るから気が抜けてましたけど、ここってやっぱり危ない所なんですよね……」

 

「そう心配するな、今は私が居る。その意識を忘れ無ければ問題ない。それに多少の危険は冒険には付きものだ。刺激の無い冒険譚などつまらないだろう?」

 

「そうですよね。はいっ、今までの事もちゃんと記録してますから、無駄にはしません!!」

 

 

 それなら良いとモモンガは笑って、二人は再び歩き出した。

 

 

 

 

 エイヴァーシャー大森林の北方。

 森の外縁部に近い所で弓矢を背負った女性が脇腹を押さえていた。緑がかった金髪からはみ出して見える彼女の耳は尖っており、苦しげな表情をしてはいるがとても整った顔つきをしていた。

 長命で美しい容姿として知られる森妖精(エルフ)である。

 全身の至る所を怪我しており、特にお腹のあたりの傷は浅くはないようだ。服に少しだけ血が滲んでいるのが分かる。

 体を庇いながら歩いているため、その足取りはかなり覚束なかった。

 

 

「はぁ、はぁ…… 逃げ、なきゃ……」

 

 

 もう自分がどこを歩いているのか、正確な位置は分からない。それでもあの国から逃げ出したくて、必死に足を動かしていた。

 しかし、そんな弱り切った状態でさらなる不幸が重なる。

 

 

――シューシュー。

 

 

 物音から敵の存在に気がつき、周囲の木々を見上げると三体の絞首刑蜘蛛(ハンギング・スパイダー)がいた。

 蜘蛛を大きくした様な姿のそいつらは、こちらに襲いかかる機会を今か今かと待っている。

 しまったと顔を顰めるがもう遅い。ちょうど三角形に囲まれてしまっている。仮に囲まれていなかったとしても、この怪我では奴らの吐く糸を躱す事すら出来ないだろう。

 

 

「あーあー、野伏(レンジャー)失格ね。モンスターの気配にも気がつかないなんて……」

 

 

 彼女は諦めにも似た様な声を出した。

 走って逃げる体力、弓矢を構える気力も共に残ってはいない。

 完全に詰みである。

 

 

「ここまでか…… まっ、あのクズ王に殺されるよりはマシかもね」

 

 

 自分の運命を受け入れ、木に寄りかかって座りながら最後の時を待った。

 絞首刑蜘蛛は獲物が弱り切る瞬間を待っていたかの様に、エルフに狙いを付け――

 

 

「――〈集団標的(マス・ターゲティング)魔法三重化(トリプレット)魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉!!」

 

 

 ――突然聞こえてきた空気を切り裂く様な鋭い音。

 

 

 そして真っ二つになって木から落ちてきた絞首刑蜘蛛。三体ともまるで一流の剣士が斬ったかのような、綺麗な切り口だった。

 

 

「えっ、一体何が……」

 

 

 今の一瞬で何が起こったのか分からない。おそらく魔法だろうかと予想することしかできない。

 傷の痛みでぼーっとする頭で状況を把握しようとしていると、こちらに歩いてくる人の気配が二つ。

 

 

「ふぅ、仕留め切れた様で良かった。そこの貴方、大丈夫でしたか?」

 

「もうモモンガ様、急に魔法を使ったからビックリしましたよ。えっと、大丈夫ですか?」

 

 

 一人は金髪の女の子。

 そしてもう一人は地味な黒いローブに籠手、そして変な仮面を付けている。

 

 

「女の子に、仮面……」

 

 

 そこまで確認した所で緊張の糸が切れてしまい、地面に倒れこみそのまま意識を失った。

 

 

 

 

「あれ、ここは……」

 

 

 エルフは目を覚ますと、自分が森ではなく家の中にいる事に気がついた。自分が寝ているベッドも、この部屋も全く見覚えがない。

 気を失う直前の記憶を思い出そうとしていると、部屋を軽くノックする音が聞こえた。

 反射的に返事をすると、入って来たのは金髪の少女と黒髪の男。

 男の方のローブと付けている籠手には見覚えがある。

 

 

「貴方達はさっきの…… 仮面の人?」

 

「ええ、その通りです。目を覚まされた様ですね。体の調子は如何ですか?」

 

 

 男の方は珍しい黒髪だが優しそうな顔つきで、こちらに穏やかに話しかけてきた。

 言われて気づいたが身体のどこも痛くはない。お腹の傷すらも綺麗に消えている様だった。

 

 

「すっかり良くなってるわ。貴方達が助けてくれたのよね? ありがとう」

 

「いえいえ、偶々通りがかっただけですから」

 

 

 謙遜ではなく本当にそう思っている様だった。詳しくは分からないが、彼はあのモンスター達を瞬殺する程の実力者のはずだ。

 戦争相手という事もあって、人間というのは正直苦手である。だが、力のある魔法詠唱者(マジックキャスター)にも関わらず、紳士的で謙虚な姿には非常に好感が持てた。

 

 

「それでもよ。貴方達がいなかったら私は今頃死んでたわ。本当にありがとう。出来ればお礼をしたいけど、ごめんなさい。今は手持ちもほとんど無いの」

 

「構いませんよ。ただ一つお願い、というか聞きたい事があるのですが」

 

「いいわよ。私に答えられる事なら何でも聞いて」

 

「貴方はエルフですよね。実は私達はエルフの国に行ってみたいのです。それでこの地に足を運んだのですが、詳しい場所が分からなくて」

 

「冒険と観光のつもりなんですが、もし良かったら教えてくれませんか?」

 

 

 何でも教えてあげるつもりだったが、二人の話しを聞いて固まってしまった。

 それに気づいた二人は慌てて訂正しようとする。

 

 

「すみません。何か悪い事を聞いてしまった様ですね。今聞いたことは忘れてください」

 

「ごめんなさい。何か失礼なことを言ってしまったみたいで……」

 

「えっ!? あっ、いや、いいのよ。 ……うん、命の恩人だし説明しないのも失礼よね。ちょっと長くなるけど話すわ――」

 

 

 そう言って彼女は事情を話し出した。

 エルフの国には最強の王がおり、そいつ一人が国を支配して民を苦しめているという事。

 そいつのせいで関係を拗らせて、エルフの国とスレイン法国が戦争をしている事。

 エルフの王は強い子供を作る事にしか興味がなく、女を手当たり次第に孕ませてきたクズ野郎だという事。

 今は自身と掛け合わせる強い母体を用意するため、能力を引き出そうと女を無理やり戦争に駆り出している事。

 そんな国が嫌になって逃げ出して、途中でモンスターに襲われていた所を救われた事。

 

 

「そういう訳なの。ごめんなさい、だから案内は出来ないわ……」

 

「そうだったのですか……」

 

 

 彼女は非常に申し訳なさそうにしていた。そんな様子を見てモモンガは考える。

 うん、全てその王様が悪いと。

 

 

「私にもっと力があれば…… あのクズを討つ事も出来るのに。魔法も使えてあんな邪悪な魔剣も使う戦士なんて反則なのよ!! 勝てる訳ないじゃない……」

 

 

 目の端に涙を滲ませながら、悔しそうに手を握りしめている。

 そうか、魔法も使えて魔剣も…… ん、魔剣?

 

 

「あー、すまない。その魔剣というのは?」

 

「エルフ王を最強たらしめる力の一つよ…… ヒューミリス、血肉を喰らって使用者を強くすると言われている魔剣。人間達には邪剣・ヒューミリスって言った方が馴染みがあるかしら?」

 

「見つけたぁ!! 漆黒の剣の一振り!!」

 

「モモンガ様、どうしましょう!! こんな所で見つけちゃいましたよ!?」

 

 

 説明を聞いた途端、モモンガとツアレが騒ぎ出した。しんみりとした雰囲気は何処かに吹っ飛んだようで、一人だけついていけずに戸惑う。

 

 

「えっと、その剣がどうかしたの?」

 

「ああ、取り乱してしまったようですまない。実は漆黒の剣を集めるというのも旅の目標にしててな。まさかこんな所でその名前が聞けるとは思ってなかったんだ」

 

「そうなんです。でも手掛かりも全然見つからないから、漆黒の剣を探すのは一旦やめてたんです。今回は冒険と観光を兼ねて偶々エルフの国を探していただけだったので」

 

 

 この二人はあの剣に並々ならぬ思い入れがあったようだ。理由を聞いてエルフはとりあえず納得した。

 しかし、次の発言で再び驚愕する。

 

 

「一つ提案があるんだが。私がその王とやらを倒したら、その魔剣を貰っていってもいいか?」

 

「はぁ!? 私の話聞いてたの? 人なんかじゃ勝てるような相手じゃないわ。確かに貴方は難度30の絞首刑蜘蛛を、同時に三体も倒せる力がある。その実力は認めるわ」

 

(難度って確かレベルに直すと三分の一くらいだったか? 俺はレベル10の雑魚モンスターに第10位階の魔法使ってたのか……)

 

 

 モモンガが自分の弱体化加減に情け無さを感じている中、彼女はこちらを心配してエルフ王の強さを説明し続けた。

 

 

「あいつは第5位階の魔法が使えるのよ。近接戦闘の強さだって化け物じみてて、難度にすると150すら軽く超えてるはずよ……」

 

「ふむ、第5位階か。その程度の使い手なら今の私でも十分勝機がありそうだな」

 

「その程度って…… 貴方一体――」

 

 

 訳が分からない。彼は魔法詠唱者のはずだ。それなら第5位階を使えるというだけで、相手がどれ程の実力者か理解できるはずだ。

 

 

「詳しくは言えないが、私もそれなりの使い手のつもりだ。勝てないと思ったら転移を使って逃げるから、どうか会わせてはくれないだろうか? もちろん貴方も一緒に転移で逃がす事が出来るぞ?」

 

 

 彼の顔には気負ってる様子は無い。ただ自分に出来ることを淡々と伝えているだけのように見える。

 転移も使えるようだし、自分の命の恩人だ。

 よし、この人を信じてみよう。そう思った彼女は笑って答えた。

 

 

「分かった…… 貴方を信じる。エルフの国まで案内するわ。本当に倒せたら剣の一本くらいあげるわ、仲間も私が説得するし。ただし、勝てないと思ったらちゃんと転移で逃がしてよね!!」

 

「ああ、約束だ。移動だけなら私の魔法はこの世界の最高峰だ。何処までだって連れて行ってやるとも」

 

 

 真剣な思いが伝わったのか、モモンガも同じように笑って答えた。

 

 

「さて、勝手に決めてしまって、今更だが…… ツアレもそれでいいか?」

 

「本当に今更ですよ、モモンガ様。はい、ちゃんと私もついて行きます。悪い王様を倒して宝物を手に入れる――最高の冒険譚になるじゃないですか!!」

 

 

 どうやら連れの子供も異論は無いようだった。むしろワクワクしてるようだ。

 そんな時、ふとある事をしていないと気が付いた。

 

 

「色々あって忘れてたけど、自己紹介がまだだったわね。私はカナト・ツルペ・エーツー。カナトでいいわ」

 

「私はツアレです。よろしくお願いします、カナトさん」

 

「モモンガだ。よろしく頼むよカナトさん」

 

「よろしくねツアレちゃん、モモンガ。でも、モモンガにさん付けで呼ばれるのはしっくりこないわ。呼び捨てでいいわよ」

 

「ふふっ、言われてますよ。モモンガ様」

 

「そうか…… じゃあカナト。案内を頼む」

 

(女性を呼び捨てというのは慣れていないんだけどな…… エルフは長命種だと思うけど、カナトは意外と見た目相応に俺より年下だったのかな?)

 

 

 アンデッド、人間、森妖精。カナトは知らないがこの場にいるのは全員バラバラの種族である。

 こうして変わった三人組でエルフの国へ向かうことが決まった。

 

 

「あっ、そういえばどうやって私の傷を治したの? 結構やばかったと思うんだけど。それに服も綺麗になってるし」

 

「ああ、ポーションを一本ぶっかけただけだ。簡単に完治してたぞ。服は魔法でチョチョっとな」

 

「あのポーション万能ですよね。クライムの時もあっという間に治りましたし」

 

「そうなんだ……」

 

 

 テキトーにかけただけで傷が全快するポーションって何!? と、ツッコミたかったがカナトは抑えた。

 

 

「ええと、エルフの国までの案内なんだけど、ところでここ何処?」

 

「ん? カナトがさっき倒れていた場所だぞ? マジックアイテムで家を出した」

 

「持ち運べるお家って便利ですよね。旅の時はいつもこれを使ってるんです」

 

「えー……」

 

 

 持ち運べる家って何!? ツアレも普通に話しているし、人間達の間ではそれが普通なの!?

 カナトはまたしてもツッコミを飲み込んだ。

 

 

「到着まではピクニック気分で行こうじゃないか。それとも急ぐなら魔法を使うか? 『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)』というものがあってな、これで場所を確認すれば私の魔法で一瞬で行けるぞ」

 

「これを使うと冒険としては味気ないんですけどね」

 

 

 そう言って机の上に置かれたのは、モモンガの身長の半分程もある楕円形の鏡。

 そんなデカイ物何処から出したんだ…… そろそろ驚くのにも疲れてきた。

 暴虐の王に挑むシリアスな話のはずなのに、この二人の余裕はどこから来るのだろう。

 

 

「私も少しゆっくりしたいわ。だから歩いて行きましょう……」

 

「そうか? それなら明日の朝から出発しよう。ツアレ、あとでこの家を案内してあげてくれ」

 

「はい。カナトさん、ここは部屋が沢山あるんです。だから安心して寛いでくださいね」

 

「うん、ありがとう……」

 

 

 人間って凄いなー。

 カナトは深く考える事を放棄した。

 そして、めちゃくちゃ寛いだ。

 

 

 



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