比翼連理3

作:彩音

御主人様のもとへ大量の書類が届いたのは、それから一月後のことだった。
私にはよくわからない会社関連の書類の中に埋もれるようにその書類はあった。
サイン済みの離婚届。
それを見た瞬間、ご主人様はものすごくほっとした顔をした。
「これで・・最後のときを何も考えずにゆきなとだけ過ごせる・・・。」
『最後のとき』
その言葉に胸が痛んだけど、私は何も言わなかった。
彼は、この翌日から家で寝たきりの生活となった。
どれだけ血を吐いても。
どれだけ痛みに苛まれても。
頑として入院をすることはなかった。

「あ・・・ぁああん・・・。ご主人様ぁ・・。」
鼻にかかった声が、まるで猫が甘えるような声が私の口からはしたなくも溢れた。
けれど。
「ゆきな、はしたないよ。そんなに涎をこぼして。」
そう。
私の下の口はもっとはしたなかった。
私の指を飲み込んで白い泡を立てながら物欲しげにひくつく襞。もう尖って、膨らんで、最後の最後で決定打が欲しくて仕方ないクリトリス。
「ご主人様・・お願い・・・お願いします・・。」
さっきからどれだけお願いを繰り返してもご主人様は私にクリトリスを触らせてはくれなかった。
痩せ細った体を布団の中に横たえて、欲望にぎらついた瞳でじっと私を見ている。
絶頂に届かない体を狂う寸前でもてあます私を余すところなく。
「だめだよ・・ゆきな・・。まだだ・・。」
「あ・・・あん・・そんなぁ・・・。」
それでも指を止めることは許されない。少しでも強い刺激が欲しくて乳首に手を伸ばし、きゅうっと強くつねってみる。
「あ・・あくぅ・・・っ。」
痺れるような痛みと快楽が背中を駆け抜けて私を貫いた。
だけど到底それは絶頂には届かない。
それどころか、私の渇望をより大きくするだけだった。
「ゆきな・・そんなにいきたいの・・?」
浅ましい私を見てご主人様が微笑う。
私は、もう何がなんだかわからずにぐちゅぐちゅと指を動かしながらただひたすら頷くだけで。
「じゃあ・・あれを持っておいで。」
ご主人様が指差したのは道具箱。
中には私を虐め抜くための道具が入っている。私は這いずるように道具箱に近づくとご主人様のもとにそれを運んできた。
箱に手を伸ばすご主人様の手はとても細くて。
ずくんと胸が痛むのを無理やり押し込める。
『最後のときのことは考えない。』
そう、決めていたから・・。
ご主人様の手が洗濯バサミを出した。
「ゆきなはやっぱり・・・ちょっと痛くて・・ちょっと恥ずかしい顔がよく似合うからね・・。」
そういてゆっくりと洗濯バサミを私の乳首へとつけていく。
ずんとした痛みが背中に走って私の頭はなんだかぼんやりと心地よくなってしまう。
「・・ああ・・ん・・ご主人様・・。」
ご主人様の指が私の秘裂を掻き分けてクリトリスを露出させた。ちょっとだけ挟む力を弱くしてあるピンチで皮ごとその小さい突起を挟み込む。
「あううっ。」
思わず苦痛に声を漏らしてしまったけど、嫌だなんて思わない。
ご主人様が与えてくれる痛み・・。
ご主人様とともにいる証・・。
それが私を何よりも感じさせたから。
「ゆきな。この格好のまま家中のカーテンを全部開けてお風呂場から洗面器を持っておいで。わかるね?一番大きなやつだ。」
「・・ぁ・・・はい・・・。」
恥ずかしくて・・・痛い・・・。
それでも私はそろそろと立ち上がるとゆっくりと歩いて部屋を出た。
全部で4部屋。一つ一つ回ってカーテンを開ける。
向かいの住人が見るかもしれない・・。
通りすがりの通行人が見るかもしれない・・。
そう思いながらお風呂場で洗面器を取ってご主人様のいる寝室に戻り、最後に寝室のカーテンを開けた。
ご主人様はまぶしそうに瞳を細め、くすりと笑った。
「ゆきな。後で床の掃除をしなさい。」
「・・・・はい・・。」
私の足から伝ったいやらしい液は、私が歩くたびに床を汚していたのだった。
一歩一歩歩くごとに脳の奥が痺れるほどに気持ちよくて、息が荒くなって。
私は弾む息を抑えながらご主人様の前に立った。
「洗面器をそこにおいて。」
指差されるままに洗面器をご主人様の視線の前の床に置く。窓の向こうには隣のマンションのベランダ。
見られていたら・・・。
その気持ちが体をさらに熱くさせる。
「じゃあ、ゆきな、そこでおしっこしなさい。」
「・・ぇ・・・・?」
思わず視線が隣のマンションに向く。それを知ってご主人様は笑った。
「見せつけてやりなさい。どんなにゆきなが淫乱でいやらしくてかわいくて従順か。羨ましがらせてやりなさい。そして、僕にも見せて欲しいな。」
「あ・・・・。」
恥ずかしい。
ご主人様だけでなく、他の人にも見られてしまう。
しかも排泄する姿を。
そう思っただけでとろりと熱いものが太股を伝うのがわかった。
「どうぞ・・見てください・・。」
私はまるで操られるように洗面器にまたがりご主人様を見た。
優しい微笑。
「ご主人様・・。」
「さあ、出して。」
「ぁあ・・・。」
シャアアアアアア・・・・・。
さほどしたいと思っていたわけじゃないのに。
金色の奔流が私の秘裂から放物線を描いて洗面器に落ちていく。
そのとき、向かいのマンションにちらりと人影が動いたような気がした。
「あ・・あああ・・・。」
膀胱が空になるにつれて意識まで空になるような。
そんな快楽。
私はそのとき、確かに軽い絶頂に達していた。

「いっぱいしたね。」
お尻から垂れる雫がおさまってもぼんやりと蹲ったままの私にご主人様はそう、声をかけた。
「あ・・・はい・・・。捨ててこなきゃ・・・。」
立ち上がってティッシュを目で探す私をご主人様が手招きする。
「ゆきな。咽が渇いたな。ゆきなのいやらしいお汁、飲ませてくれるかい?ちょっとおしっこ風味の。」
「・・・はい。」
ご主人様の求めに応じて私はご主人様の顔の上に跨る。
そのまま、呼吸が苦しくなりすぎないように注意しながら腰をおろすとすぐに暖かい舌が私の秘裂に触れた。
「あぁん・・っ!」
同時にピンチをはずされて思わず声が出る。痛みと、快楽。
ご主人様は容赦なくピンチをはずしたあとのクリトリスにむしゃぶりついて舌で丁寧に私の汚れた襞を舐め啜り、突起を舌でなでまわす。
力が抜けそうな足と震える腰を必死で逃がさないようにしながら私はもはや私を支える力もないご主人様の舌に身を任せた。
いくのは早かった。あれほど我慢させられていたから。
がくがくと震えて崩れそうになる私を、だけどご主人様は許してはくれなかった。
「ゆきな・・。」
その細い腕のどこにそんな力が。
そう思うほど力強くご主人様は私を下ろすと私の足を押さえつけていったあとの敏感なクリトリスに吸い付いた。
「い・・あ・・っ・ひぃっ・・・。」
がくがくと震えながら身をひこうとする私の腰を押さえつけてご主人様は私のそこを舐め、すっかり紅くなった突起を露出させてしまった。その皮を剥き上げてご主人様は私を見つめた。
「ゆきな・・。君は、ずっと僕のものだ。だから、そのしるしを残しておこうね。」
「・・・はい・・。」
わけもわからず息も絶え絶えに頷く私を見てご主人様はとても優しい笑みを浮かべた。
「少し痛いけど・・我慢して・・。」
そういうと道具箱からたこ糸を出して私のクリトリスの根元を剥き上げたままくくりつけてしまった。今度は消毒用アルコールを出して丁寧にクリトリスをぬぐう。
まさか・・・。
溢れる不安に身が竦みそうになる。ご主人様がしようとしていることの見当がついて、その予測もつかない痛みに体が小さく震えた。
だけど。
「ゆきな・・。」
私の震えに気がついて顔を上げたご主人様に私は微笑んだ。
「ゆきなは・・ずっと・・ずっとご主人様のものです・・・。」
ご主人様が針とピアスを取り出した。
ああ・・・やっぱり・・・。
怖い、とは思っても逃げ出したいとは考えもつかなかった。
「ゆきな・・・愛してるよ・・。」
「ご主人様・・・。」
それだけで。
それだけで十分だと思った。
いっそ一緒に逝く事になっても構わないとさえ。
冷たい針が敏感な突起に突きつけられる。
私は、目を閉じた。
「・・・っ!・・・・・あうっ!!!!」
痛みは一瞬。あとは耐えようのない熱さ。そして、なぜか不思議な満足感。
ご主人様が針を抜き、ピアスをそこにつけ、消毒を終えるまで、私はぽろぽろと涙をこぼしたまま動くことすら出来なかった。
「・・痛かった・・?」
ご主人様が優しく頭を引き寄せてくださるのに甘えて私はその暖かい胸に顔を寄せた。
「・・・はい。」
「正直者だな。」
笑いながらそう言ってご主人様は私の髪にキスをくれた。
だけど。
「・・・今度は・・僕を気持ちよくしてもらおうかな・・。」
布団をめくるご主人様の股間を見るとそそり立つたくましいものがパジャマのズボンを押し上げていた。
「ご主人様・・。」
「久しぶりにゆきなのいやらしい姿を見たら興奮しちゃったよ。」
「・・はい・・。」
本当に久しぶりだった。
もしかしたら良くなっているのかもしれない。そんな甘い期待を抱くほどに。
私は丁寧にご主人様のズボンと下着を脱がせるとご主人様のペニスにご挨拶をした。
「ご奉仕させていただきます。」
そしてわずかにつんと汗の匂いがするご主人様のそれを口に含んだ。
久しぶりのそれはとても硬くて、つるつると気持ちよくて、私は夢中になって舐めてはしゃぶってご奉仕をした。ちろちろと尿道を舐めては咽奥まで含んで強弱をつけて吸引したり。
愛しいご主人様のものをそれこそ舌が擦り切れるほどに堪能しているとご主人様が苦笑しながら言った。
「ゆきな。僕に口の中でいくなんてもったいないことをさせる気じゃないだろう?」
「あ・・はい・・。ごめんなさい。」
慌てて口からご主人様のペニスを離すと私はご主人様の上に跨った。
そっとペニスを手で支えて腰を落としていく。
「あ・・はぁ・・・ああん・・・。」
ご主人様はとても熱くて、私は中に感じただけでピアスの痛みも忘れていってしまいそうだったけどそれを堪えて全部収めた。中にすべて収めて一息ついていると、ご主人様の優しい瞳と視線が合って私は思わず微笑んだ。
「ゆきな・・。とてもいいよ・・。」
ご主人様が感じてくれている。
それだけでとても嬉しくて。
私は腰を上げるとゆっくりと動かし始めた。
「あ・・ああ・・はぁ・・ん・・。」
ことさらにゆっくりなその動きは私まで感じるのに十分で。それでも私はご主人様にいって欲しくて必死で腰を動かす。
「ああ・・っ!?あんっ!」
意地悪に時折腰を突き上げてはご主人様は汗が光る私の胸を揉みしだく。その指が時折乳首を挟んだ洗濯バサミをはじいて私に声を上げさせて楽しんでいるのがわかった。その行為は同時にご主人様のペニスを締め付けさせてもいて、やがてご主人様はかすれる声でうめくように絶頂を訴えた。
「ゆきな・・いくよ・・。」
「ああ・・はい・・きて・・・きてください・・。ああ・・・っ。」
奥で熱いものが弾けた。
それは、ご主人様の命そのもののようにとても熱くて。
私は溶岩の濁流に飲み込まれるようにそのまま快楽の波に浚われてしまっていた。

目がさめると、ご主人様が優しく微笑んでいた。
「あ・・・私・・。」
「久しぶりに気を失ったね。」
くすくすと笑うご主人様に恥ずかしくて布団を顔まで引き寄せてしまう。
「ゆきな、久しぶりにおかゆが食べたいな。君の栄養満点の。」
そう言ってご主人様は私の額に優しくキスをくれた。
性欲だけじゃなくて、食欲まで出てくれた。
それがとても嬉しくて。
生きようとしてくれているのが、とても嬉しくて。
「はい。」
痛む股間をだましだまし立ち上がると、台所に向かった。その背中にご主人様の声がかかる。
「ゆきな。僕は、君のものだよ。」
「え?」
思わず振り返った私にご主人様の優しい笑みが映る。あまりの優しさに、また、泣いてしまいそうで。
だから思わず冗談で紛らせた。
「逆じゃないんですか?」
そして私は、台所に立った。
おかゆは卵とじがいいかしら。
そんなことを考えながら。

 血の赤はなんて綺麗なんだろう。
ご主人様だからかしら。
最初に考えたのはそんなことだった。
小さな土鍋を抱えて戻ると、ご主人様は赤い血の海の中にいた。
苦しんだのだろうか。
それとも苦しまなかったのだろうか。
そんな間抜けなことを考えてしまうほどに、ご主人様の顔は穏やかだった。
土鍋を置いてご主人様を抱きしめる。
そっと。そっと。
さびた鉄のにおい。
そして、ご主人様の匂い。
私も血に染まって同じ香りがする。
ご主人様。
「ずっと。あなたのものです。」
一粒だけ、涙が零れた。

お葬式は寂しいものだった。
その立場を捨てたものに前の会社は冷たくて。
訪れたのはほんの数人だった。
ご主人様の温かな体は今は小さな骨になってしまっていて。
骨壷を抱きしめて、私はじっとお位牌の前に座っていた。
「・・死んだのね。」
振り返ると前の奥さん。
「・・・・きてくれて、ありがとうございます・・。」
「無用心よ。鍵くらいかけなさいな。」
そういうと奥さんは部屋に入って私の横に座って。
お線香の香りが、また深くなる。
「・・・・苦しんだの?」
「・・・いいえ・・。」
「・・・そう・・・。」
短い会話。
だけど、それだけでわかってしまった。
この人も・・・。
奥さんはお線香を上げただけで立ち上がってしまった。
「ありがとう・・。」
それだけを残して。
そして私は。
「ずっと・・・ずっと・・あなただけのものです・・。」
立ち上がると、まだ傷のいえきらないピアスが痛んだ。
だけどもっと・・これから先痛むものがある。
幸せとともに。
お腹をなでて私は呟いた。
「ずっと・・・一緒です・・・。」

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