Glass Moon

作:彩音
画:凡田英二様

小高い丘の上。
私たちのほかには誰もいない。
「A happy new year・・・。」
あの人が私の耳に囁いた。
瞳を閉じる。
背中から私を抱きしめたあの人の吐息が、私の耳元を掠めた。
お正月の深夜。
白い吐息はこんなにも暖かい。
それなのに・・。
「本当に・・最後なの・・・?」
私のかすれた声を引き取るようにあの人は私に口付けた。
「ん・・あ・・んんふ・・む・・・。」
白いファーのコート。ゆっくりとホックを外して冷たい手が滑り込んでくる。
「ん・・・ふむぅ・・。」
ちゅく・・ちゅ・・・ちゅ・・・
鳥肌が立つ私の肌を無視してあの人が私の体を撫でていく。
冷たい手もすぐに温くなっていく。
あの人が撫でるのは私の素肌。
白い肌を縦横無尽に縛める紅い縄。
縄をたどる振りして私の腹を撫でる。
まるで、ピアノでも弾くように優しく、柔らかく。
私の体が震えるのを知りながらくびりだすように縛られた乳房の下を指でなぞって焦らしていく。
「あ・・ああ・・・ん・・・。」
何時の間にか外されていた唇から吐息が白く凍る夜風の中を流れていく。
「どうしたの?」
乳房をゆるゆると指でなぞるだけの動きに耐え切れなくなってあの人の袖をそっと握った。
「あ・・ん・・お願い・・・。」
「なにを・・?」
指の動きと同じように、緩やかに笑いを含んだ囁きが私の耳に届く。 
優しく・・そのくせ意地悪で・・どこまでも甘く。
最後だというのに・・刻み込めないほどに淡く。
「おね・・がい・・おっぱい・・触って・・・。」
恥ずかしさに小さくなる声で、それでも必死におねだりする私の首筋に柔らかい唇が押し当てられた。
その感触にさえくらくらして、どこまでも落ちていきそうで・・。
「おっぱいなら触ってるだろう?」
からかってるような、そんな声。
わかってる。そんなことじゃ許してくれない。
寒さの中、頬が火照っていくのがわかって私はほんの少し俯いた。
指は相変わらず乳房をただ触れるだけのようにたどり続けている。
「・・ねえ・・。どうして欲しいの?沙織。ちゃんと言わなきゃわからないよ・・?」
意地悪・・。
言わなくてもちゃんとわかってるくせに・・。
だけど、私の唇は勝手に動いてしまう。
この人に従属する心と体は、どんなに恥ずかしいと思ってもそれを受け入れてしまう。
「お願い・・・です。おっぱいを強く・・もんで・・乳首を・・・苛めてください・・・。」

体が燃えるように火照る。
あの人が、くすりと楽しげに微笑んだのが気配だけでわかった。
そして・・・。
「・・・ぁ・・・・。」
つつ・・・と私の下着をつけていない叢から熱い滴りが太腿から足を伝っていく。
「おねだりだけで感じちゃうなら・・触らなくていいかな?」
全て読まれている。
その羞恥に、私の体は震えるというのに、それすらあの人は楽しんでいる。
だけど、それだけでおさまるはずはない。
そっと乳房に触れているだけの手にこちらから胸を押し付けるようにしながら私はさらに恥ずかしいおねだりを繰り返す。
「いや・・お願いです・・。私を・・私のおっぱいを触ってください・・。痛いくらい揉んで・・抓んで・・。」
「いやらしいメス犬だね・・。して欲しいのならその前にすることがあるだろう?」
「ああ・・ご主人様・・。」
別れの間際だというのに、彼は間違いなく私の体の隅々までを支配していた。
「ご主人様・・。ご奉仕させてください・・。」
「いいよ・・。」
許可を受けて私はその場に跪いた。目の前にはコートに覆われたあの人の股間。鼻先でコートの厚い布地を押しのけてズボンのチャックを探り当てていく。唇に触れたそれを歯で引きおろすともう硬くなった彼の男根を苦労しながらズボンの中から引きずり出した。
「ああ・・・ご主人様・・。」
じゅ・・・・じゅぼ・・じゅる・・じゅ・・・
淫靡な音を響かせて男根を飲み込み、啜り上げてはまた吐き出して擦りあげることの繰り返し。この数年ずっと繰り返してきた奉仕が確実に彼をぎりぎりの縁まで追い上げていくのがわかった。

喉の奥に当たる肉棒の先端が徐々に硬く大きくなるのがわかる。
ああ・・もうすぐ・・もうすぐ濃いミルクが飲める・・・。
期待感に胸を膨らませながら無心に頭を動かす私の髪を唐突に彼が掴んだ。
「沙織・・。」
「・・ぁ・・・。」
引きずられるように立たせられ、後ろから強引に抱きすくめられると胸を痛いほどに揉みしだかれた。
「ああ・・ああん・・。」
縄の間からくびり出た乳房を押しつぶさんばかりに力を込める指にため息にも似た喘ぎが洩れる。
「ひ・・ひうぅ・・っ!」
その力強さで乳首を摘み上げながらかれは私のコートを性急にたくし上げ、私の尻を凍るような外気に晒した。
「ああ・・ご主人様・・・。」
「さあ・・淫乱なメス犬だろう・・?ねだってごらん・・?ちゃんとおねだりしないとあげないよ・・?」
ああ・・欲しい・・・。
とてつもない渇望が私を貫いた。今すぐそれを突っ込んで中をかき回して欲しい。熱い肉棒で私の中を・・・!
にも関わらず私の答えはまるきり正反対のものだった。
「ああ・・そんな・・言えません・・。」
「言えない・・?そんなわけはない。君は淫乱なメス犬だ。さあ、言うんだよ。」
「だって・・ああ・・恥ずかしい・・ひうっ!」
御主人様の爪が私の乳首を千切らんとせんばかりに捻りあげた。
「そんなに・・お仕置きが欲しいのかい・・?」
「ああ・・ごめんなさい・・。淫乱なメス犬の癖にご主人様にきちんとしたお願いもできない私にどうぞお仕置きしてください・・。」
絞るように求める私を彼はぎゅっと抱きしめた。その抱擁はほんの一瞬で。すぐに剥き出しの尻を鋭い痛みが襲ってくる。
ピシッ・・・パシッ・・・バシッ・・・
冷たかったお尻は徐々に熱を帯び、熱さを増していく。でもきっとそれは彼の掌も同じで。
バシッ・・パンッ・・
「あ・・ああ・・・。」
きっとそこはもう真っ赤になっているに違いない。明日は座れないかもしれない。
それでもよかった。
あっさりと挿入して達すればそれでもう終わってしまう。それよりも愛のあるお仕置きを受けたほうがまだ、いい。
痛みが存在を思い出させていくれる。
お仕置きの間は・・ともにいられる・・。
どれだけ打たれ続けたかわからない。気が付けば私は手すりに縋るように地面にへたり込んでいた。
「この・・メス犬め・・。反省したか・・?」
御主人様の息も切れていた。
私の瞳からは熱いものが溢れていた。
「最後の命令だ。いやらしいメス犬らしく、おねだりをしなさい。」
「・・・・はい・・・。」
私はのろのろと立ち上がると、真っ赤に腫れ上がった尻をコートを向きあげるようにして差し出した。涙が溢れて止まらない。

時間が止まるのなら、どんな攻めでも喜んで受けるのに・・。
「ご主人様・・・。いやらしいメス犬の・・ぐちゃぐちゃに汚れてしまったおまんこに・・・ご主人様のおちんちんを・・どうぞ・・・入れて・・かき回してくださいませ・・。」
ああ・・・終わった・・・。
「よく・・言えたな・・・・。」
ず・・・ぐちゅうっ!
「ああぅっ・・・。」
御主人様の熱が私の中に入り込む。それはまるで私の隅々までを味わい尽くそうというかのように時に荒々しく、時に丁寧に内部をかき回してはぐちゃぐちゃと淫靡な音を立てて出入りを繰り返していた。
ぐちゃぐちゃと音を立てながらかき回す肉の棒は確実に私を追い詰めていく。でも、いきたくはない。
もう少し、味わっていたい。このまま終わりたくはない。
私の腰を掴んだご主人様の手に力がこもる。
御主人様も我慢している・・・。
そう思うだけで胸が熱くなった。
「ああ・・ああ・・ご主人様・・御主人さまぁ・・っ!!」
「・・沙織・・・っ」
どくん・・・・・
どれくらいぶりに名前を呼ばれたんだろうか。
心臓が跳ね上がると同時に私の意識は高みへと駆け上がり、少し遅れて体内に熱い迸りを感じて私は脱力した。

ぐちゅ・・ちゅ・・ちゅる・・・
「沙織・・もう、いい・・・。」
いった後の肉棒をいつまでも名残惜しげに清めている私に、ご主人様が声をかけた。再び硬さをもち始めたそれに抱いた私の淡い期待はあっさりと打ち砕かれたのだ。
私は最後に愛しいご主人様のペニスに口付けてそっと顔を離した。
「ご主人様・・・・。」
「いい・・主人を見つけるんだよ・・。」
私には・・あなた以外にご主人様はいません・・。
無言で涙を流す私をそっと抱きしめて彼は囁いた。
「・・・・。君は・・本当にいい奴隷だった・・・。最高だったよ・・・。」
・・何をしてもいいから・・・何をされてもいいから・・そばに置いてください・・・。
そっと裾を握った私の手をそのままにご主人様は体を離した。
「ごめん・・。最後に・・送って行くよ・・・・。」
もう・・ご主人様ではないのですか・・・?
「ありがとう・・・・ございました・・・・。」
私は、冷たい丘の上に正座して深々と手をついて頭を下げた。
それが、奴隷としての、私の最後の勤めだった。

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