憲兵と幽霊 新東宝 1958年 75分 製作 大蔵貢 監督 中川信夫 出演 天知茂 中山昭二 久保菜穂子 三原葉子 万里昌代 いわゆる「憲兵もの」の最高傑作であろう。 とにかく、天知茂扮する憲兵が悪いこと、悪いこと。常日頃から善人よりも悪人に感情移入することの多い私でさえも「悪いやっちゃなあ」と呆れてしまった。まず、久保菜穂子に横恋慕する天知は、その夫である中山昭二を罠にはめ、スパイの容疑を着せてしまう。 「悪いやっちゃなあ」。 中山が銃殺されると、その母親を自殺に追い込み、嫁の菜穂子を強姦する。 「悪いやっちゃなあ」。 しかも、実際にスパイをしていたのは天知当人なのである。 「ホンマに悪いやっちゃあ」。 しかし、これほどに悪い憲兵が最後まで魅力を失わず、むしろイキイキと輝いているのは、ひとえに天知茂のスタイリッシュな演技の賜物だろう。彼が支那のスパイ三原葉子と繰り広げるロマンスには「ピカレスク・ロマン」の赴きさえある。 一方で、中山昭二は「虫も殺さなそうな人柄」が仇となり、怨霊には少々力不足であった。 それでも、ラストの外連味たっぷりの怨霊シーンには唸らされる。特に、外人墓地にズラリと並ぶ銃殺刑の血みどろ死体(下写真)の残酷美にはしばし呆然とさせられる。さすが、名匠中川信夫。いい仕事をしている。 結局、本作の功績は、憲兵映画の最高傑作としてはもちろんだが、それ以上に中川信夫と天知茂を引き合わせたことにこそあるように思える。 この幸福な出会いを遂げた監督と俳優は、以後『女吸血鬼』『東海道四谷怪談』『地獄』という、日本映画史に残る3本のカルト・ムービーを世に送り出すことになるのである。  ↑外人墓地に怨霊がズラリと登場。 |