講談社×ランティスの最強タッグで挑む’’VRアイドルプロジェクト’’『Hop Step Sing!』とは?

『Hop Step Sing!』は、カラオケボックスで歌い続けているうちに本当にアイドルになってしまった「虹川仁衣菜(にじかわ にいな)」と、ちやほやされたくてネット生放送や動画アップを続けていた「箕輪(みのわ)みかさ」。そんな二人が心配で放っておけず、一緒に活動することになった「椎柴識理(しいしば しきり)」の3人が活躍する講談社のVRアイドルプロジェクト。画期的な試みとして、VRに対応しており、VR機器で再生することでより臨場感のあるライブ体験が楽しめるコンテンツが用意されている。またそのほかにも、公式Twitterによるアイドルたちの活動記録が毎日更新。楽曲はすでにVR映像対応版として『キセキ的Shining!』と『kiss × kiss × kiss』がDMMなどのスマートフォン向けVR動画配信サービスとしてリリースされている。

今回はこのプロジェクトの制作メンバーの中心人物である講談社のキャラクターVRチーム チーフプロデューサー・松下友一氏と、『ラブライブ!』の音楽プロデューサーを務めたランティスの制作本部チーフプロデューサー・木皿陽平氏に『Hop Step Sing!』のVR対応への取り組みや今後の可能性についてお話を伺った。

ひとつの企画が頓挫した中から生まれたVRアイドルプロジェクト

まず『Hop Step Sing!』の企画が生まれた経緯をお聞かせください。
松下元々は弊社で新事業企画を作る呼び掛けがありまして、そこに企画を持ち込んだのが切っ掛けだったんですけれども、そのときはデジタルキャラクターを作り出すというものでした。弊社は漫画とか小説といった紙をベースにしたキャラクター発信がメインだったんですが、今後はデジタル媒体向けのキャラクターも作ろうということになりまして会社からGOサインが出ました。
ところが、企画を進めていったところ進捗が思わしくなかったんです。で、VRでやってみるかということになったわけですが、2014年当時はVRという技術は僕も認知はしていましたが、まだ当分先だろうと思っていました。


木皿「僕がこのプロジェクトに参加したのはVRになる前だったんですよ。『ウィッチクラフトワークス』(講談社刊)という作品のアニメでOPテーマを歌うfhánaのインタビューを松下さんがしてくださり、当時、fhánaのことをすごく深く掘り下げてくれたのにとても感動したんですね(笑)。
それで、このプロジェクトをスタートさせる前に松下さんのことは元々知っていて、クロノギアクリエイティヴの小玉さんからお声掛けいただいた際も松下さんとなら是非!ということで今回ご一緒に仕事をすることになったんです。



松下「僕、fhánaが昔からのファンだったもので(笑)。話を戻しますと、VRに踏み込んだら逆に会社の偉い方たちがノリノリになってくれて(笑)。講談社って、日本の伝統芸能のひとつである”講談”を本にするところからずっとキャラクターを扱ってきた会社で、VRは『ラジオの時代からテレビが出始めたころのインパクトがある』と受け止めてもらえたんです。
しかも『音楽はランティスさんが担当してくれますよ!』と言ったら、それなら良いものになりそうだと思ってもらえて。さらに今回、映像を制作していただいたポリゴン・ピクチュアズさんとは『シドニアの騎士』でお仕事をご一緒させていただいていたので、スムースに事が運びました。『松下の言っていることはわからないけれど、ランティスとポリゴン・ピクチュアズは知っている』とは上司の言です。で、できあがったものを社内の偉い方たちに見てもらったところ、これはスゴイ! となって(笑)
講談社 キャラクターVRチーム チーフプロデューサー・松下友一氏講談社 キャラクターVRチーム チーフプロデューサー・松下友一氏
ランティス 制作本部チーフプロデューサー・木皿陽平氏ランティス 制作本部チーフプロデューサー・木皿陽平氏
楽曲制作はどのような段階から行われたのでしょうか?
木皿僕のところにきた時点である程度のストーリーや設定はできあがっていたので、あとは曲と映像を制作するという段階でした。
VR対応ということで楽曲&映像制作も新しいことへのチャレンジが求められたのではないでしょうか。
木皿僕が見ていて思ったのは、VRって、フレームがあってその中だけで演出されるものではなく、あくまで映像を見る人に委ねられるので、VRにおける最適化が普通の絵作りとは違うんだということ。距離感ひとつとっても遠すぎるとちょっと寂しい感じがしたりして、あまりノウハウというか前例がなかったものですから、制作は試行錯誤を繰り返しつつで大変でしたね。


松下未だにオリジナルキャラクター、しかもアニメ的なキャラでVRを使った映像って少ないですからね。私自身もVRは知っているけれど、ちゃんと作ったことはないというところからのスタートでしたので、すごく大変でした。
しかし、勉強しながら1曲目を作っている過程で、『なんだこういうことか!』というのが徐々にわかってきて、2曲目の制作では音響にも画面の向きに合わせて音の出所が変わる空間音響を取り入れていたりしているんです。最初は空間音響の採用は難しいだろうと思い、僕自身は諦めていたんですがね。


木皿試行錯誤はしましたがなんとか着地しました。
いまお話に出た空間音響ですが、VR映像に合わせての音作りに関して大変だったことは?
木皿最初はVRや空間音響は気にしていませんでした。僕自身は映像にハマる音楽をとにかく制作しようと。で、いざ映像と合わせてみたら、なんか平面的な音楽に聴こえたのが気になったんです。
奥行きがあるように作ったつもりでもそうだったんで、映像に合わせて最適化しようと思い、試行錯誤の末に空間音響で制作していった感じです。自分もVR制作のセミナーに行ったり、いろんな勉強会に参加してみたんですけれど、どれも音に無頓着な印象でした。当時はまだ技術制作の方たちは画面作りで精一杯だったのではないかなと思います。
なるほど、VRの映像制作は見せるほうにばかり注力されていたってことですね。『Hop Step Sing!』では1曲目と2曲目でもそれぞれ音の響き方がカスタマイズされているとのことですが。
木皿1曲目は広い空間で歌っているからいいんですけどれど、2曲目は密室という狭い空間で歌っているので、シビアに調整しないと逆に音が足を引っ張っちゃうことになるので気を使いましたね。ですから1曲目と2曲目を聴き比べてもらうと、音の感じ方が違うと思いますよ。
さらに3曲目からは演出も含めて変化球も入れつつということになると思います。あと再生環境についてですが、サラウンドヘッドホンで聴く方ってそうそういないじゃないですか、だったら普通のお手頃価格のヘッドホンで聴く方が聴いてもちゃんと空間音響を体験できるように音作りをしています。
映像では宇宙まで飛んでいく演出とかもありますね。
木皿これも映像と音を合わせてみたら、なんか違うなぁと思い、急遽、音楽のミックスを作り直したという(笑)


松下そうなんです。それで納品を一週間以上延ばしたりしました(笑)。でもその甲斐あって、見違えるようなすばらしい作品に生まれ変わったと思っています。
松下さんから制作サイドにリクエストした点などありましたか。
松下僕がお願いしたことは、後ろ側(背面)まで使った演出を作らないでくれということでした。VRとなると、制作者はどうしても360度作りたがるんですが、それはユーザーの首に負担をかけたり、ケーブルが体に絡まるという危険性もありますから、後ろ側を見ないと成立しない演出はやめてくれと。
座組的に僕はテクニカルな方面、つまり技術をどう使うかの判断を担わなければならなかったこともあり、演出や音作りに関して何かリクエストしたということはないんですよ。なぜ僕が技術面を見ているんだろう? と時々思いましたけれどね(笑)


木皿松下さんは理系出の珍しい編集者ですからね(笑)。だから松下さんじゃないと、このプロジェクトは成り立たなかったんじゃないかと思います。
昨年、PS4のVRデバイスが発売されて、巷ではVR元年と言われました。今後のVR対応コンテンツの制作において、松下さんはどのような点が重要とお考えでしょうか。
松下2軸のアプローチがあって、ひとつはとにかく映像のクオリティを高めていくこと。もうひとつはデバイスを開発しているメーカーの動向と進捗を先読み・逆算してこちらはそれに対応できるものを作っておくということです。出始めであり、今普及していないのはしょうがないことなんですよ。しかし数年後ブレイクしたときに、その技術に対応しているコンテンツを今から作っておくということが大事なんだと思います。
デバイスの進化、特にCPUやグラフィックの性能向上は今後も続くと思います。将来発売されるであろうデバイスに対しての取り組みはいかがですか。
松下実は今Google Playでダウンロードできるコンテンツは、いまのスマートフォンのスペックに合わせたものなのですが、制作された本来のものは数年後、進化したスマートフォンのスペックにも対応できるよう開発されています。
もちろん、今後Microsoftをはじめとした他社メーカーもVR機器を出してくると思われますので、それにも予め対応できるように作ってあります。


木皿VRは開発コストが非常に掛かるうえ、それを制作するCGクリエイターの数が全然足りないんですよね。ですから我々としてはこのIPをしっかり育てていって、まずキャラクターの魅力や歌をユーザーに認知してもらって、それからVRの世界を体感してもらってもいいかもしれません。


松下そうなんです。一番の推しはキャラクターですから。

『Hop Step Sing!』の目指すところとは?

『Hop Step Sing!』のこれからの展開は?
松下現在7人の女の子たちが公開されていますけれど、これからさらに増えるかもしれません。比較的、新人の声優さんを起用したというのは理由がありまして、このプロジェクトは声優さんにモーションキャプチャースーツを着てもらったり、音声合成用のアフレコがあったりとかなり特殊な部類に入ります。そういった条件でオーディションを開催したところ、ありがたいことに『これからがんばりたい!』という新人の方たちがたくさんいらしてくれて。


木皿まあ、こういう新しいプロジェクトの場合、まだあんまり他の作品の色がついていない方のほうがいいんですよね。いわゆる人気声優を多数起用! といった座組で勝負するんじゃなくて、プロデュースで勝負する作品なので。
すでに二次元アイドルのライバルが数多くいますが、これらを追い抜くための秘策とかはありますか。
松下僕が心掛けているのは、”誠実に作る”ということです。僕は元々、漫画編集者なので色々経験をさせてもらいましたが、売れる漫画って必ずしも斬新で誰も見たことがない、というものばかりではないわけです。それよりも関係者全員が一生懸命作ったものが結局、世の中に受け入れられてきています。



木皿このプロジェクトは非常に丁寧に作っています。矢継ぎ早にきたものをどんどん作っていくんじゃなくて、ある程度時間をかけて、ひとつひとつ良いものを作っていきたい。ですから長いスパンでお付き合いいただければと思いますし、その分、ユーザーが満足していただけるようなコンテンツを提供できると考えていますので応援していってください。


松下これまでいろいろな企画をやってきましたが、これほど真面目な人たちが集まって動かしている企画ってそうそうないです(笑)。
そういうところでも、こちらもがんばらなきゃと思い取り組んでいます。先端技術を取り入れたキャラクターとの新しい付き合い方や楽しみ方は常時模索して提案していきたいですね。また、スマートフォンでの配信はもちろんですが、各地方で行われているVR体験会などでも彼女たちは活躍していますので、ぜひそこでVRを体験していただき、彼女たちのことにもっと興味を持っていただければと思います。よろしくお願いします。
VRという革新的技術に対応したコンテンツの開発は前例が数少なく、ゼロからスタートした『Hop Step Sing!』の制作は問題が山積していたに違いない。
しかし、講談社、ランティス、ポリゴン・ピクチュアズという、それぞれのプロ集団が得意分野を活かしてひとつのコンテンツとして結実させ、ネットの世界に船出したVRアイドルプロジェクトである。きっと今後、VR空間だけにとどまらず、リアル世界を巻き込んでブレイクするはず! そんな期待を抱かせるお二人の活躍に今後も注目していきたい。読者の皆さんもその一端をアプリでぜひ確認していただきたいと思う。
  • 取材・文千葉保弘
  • 撮影ニジスタ編集部
  • 取材協力株式会社ランティス

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