検証と見解/官邸の本紙記者質問制限
官房長官会見での本紙記者の質問を巡る官邸側の「事実誤認」指摘への本紙見解
トップ > 社会 > 紙面から > 3月の記事一覧 > 記事
![]() 【社会】<届かなかった叫び 千葉小4女児虐待死事件>(下)「見て見ぬふり」で救えず 被害経験者「子どもが相談できる場を」
「これ以上家庭を引っかき回すなら、職員個人を訴える」「今日で連れて帰る」。二〇一八年二月二十六日夜、千葉県野田市の小学四年栗原心愛(みあ)さん(10)の父親勇一郎容疑者(41)=暴行容疑で再逮捕=は野田市の実家で、県柏児童相談所の職員に強硬に迫った。 心愛さんは一七年十二月末の一時保護解除後、自宅には戻らず、父方の祖父宅で暮らしていた。途中で面談に合流した勇一郎容疑者は、心愛さんの直筆だとして「お父さんに叩(たた)かれたというのは嘘(うそ)です」との書面を示し、虐待を否定した。 市の記録によると、勇一郎容疑者と祖父は「父に会わせないといった児相の指導に法的根拠があるのか」と迫った。児相職員は「帰宅は良いことと言えない。会議で検討する」と述べるにとどまり祖父宅を出た。 二日後、柏児相は勇一郎容疑者の要求に押し切られる形で心愛さんの帰宅を認める。事件までの間、見守りを学校に委ね、柏児相が心愛さんの自宅を訪れることは一度もなかった。 一方で、母親のなぎさ被告(32)は、児相や学校とのやりとりの中で発言する機会は少なく、勇一郎容疑者に従うような態度だった。柏児相の職員は一七年十一月末、ドメスティックバイオレンス(DV)を受けていないかとなぎさ被告に尋ねた。なぎさ被告は「ないわけではない」とほのめかしたが、児相職員が具体的に状況を尋ねると、口を閉ざしたという。 事件を受けて、政府は今国会に提出する児童虐待防止法と児童福祉法の両改正案に、親権者の体罰禁止などを盛り込む方向で動きだしている。 小学三年のころから母親の再婚相手や母親から虐待された経験のある東京都練馬区のアルバイト木嶋祐太さん(32)は「法整備より、地域で子どもが安心して相談できる場が必要。誰かが勇気を持って心愛さんに声をかけてあげていたら救えたはず」と話す。 木嶋さんは、母親の再婚相手から、しつけだとして顔を殴られたり浴槽の水に頭を沈められたりした。母親も加担するようになり、何日間も食事を抜かれた。担任らに何度も助けを求めたが、威圧的な再婚相手を前にすると腰が引け、交番でも門前払いにされた。 心愛さんの両親の心理を自身の経験に重ね「父親は心愛さんを思い通りにしようと、しつけとして暴力を振るったのだろう。母親は、はじめは子どもをかばおうとしても、自分への防衛本能が働いてしまったのでは」と推測する。 木嶋さんが中学三年の時、同級生の親が児相に通報し、ようやく一時保護された。児童養護施設を経て社会に出た今も、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつの症状に苦しむ。 同級生の親や、食事を食べさせてくれた飲食店主の存在が救いになったという。「誰かが声を掛けてくれるだけで『助けを求められる場所がある』と安心でき、希望になる。見て見ぬふりをされることは、虐待と同じぐらい傷つく」 (この企画は、太田理英子、林容史、山口登史が担当しました)
|