破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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二戦目の相手は幻想郷最強の一角。
いきなりといえばいきなりの相手だが、ビルスはそんな事情を知るわけがないので彼女を前にしても態度はいつもと変わらなかった。
一方幽香はそんなビルスを前にして余裕のある笑みを浮かべながら徐々に弾幕を放つ為の力を傘に込めるのであった。
「悪いけど、私の能力は弾幕ごっこにはあまり実用的じゃないの。だから……いつも通りだけどここでも力押しさせてもらうわね」
「ん?」
傘を掴んでいた手を話して幽香はそれをビルスへと向ける。
彼女の体に揺らめくオーラが表れ、やがれ迸る濁流のような弾幕がビルスを襲った。
ゴオッ!!
弾幕というだけあってその弾の一つ一つは小粒である。
だがその攻撃はプリズムリバー姉妹の時とは一線を画していた。
彼女達の攻撃がリズムに乗った賑やかな弾幕なら、幽香のそれはそういった所謂『華』的なものを感じさせない対戦相手の殲滅を目的としたような圧倒的なものだった。
僅かな隙間という言葉すら気休めと思える程の濃密な光の弾幕がビルスの逃げ場を埋め尽くす。
だがまだ、避ける場所はあった。
神経が焼ききれる程の正確さで針の穴を通るような動きをすれば前進にしろ後退にしろ、回避はできた。
しかし幽香の攻撃はそれだけではなかった。
なんと分身して両サイドからビーム砲のような事までしてきたのである。
「ふふっ、どちらも本物よ。だからどっちを狙っても正解。これも一つのハンデというものかしら」
ハンデと言いつつやっている事は初見の相手からしたら虐めに近い戦術である。
いくらどちらも判定が有効な本物といっても、そんな攻撃をしている時点で最早逃げ場はないし、何より本物と断言するほどの高質の分身を作った上にこの圧倒的な弾幕。
これほどの力を固有の能力に頼らず己の霊力のみで行っている幽香の力は間違いなく最強と言えた。
(さて、彼はどうでるかしら)
ビルスが被弾するまでもう一瞬という間に幽香は考えた。
プリズムリバー姉妹との対戦を見てから彼が紫や自分に近いかもしれない実力を持つ者であることは予想できた。
だからこそ最初から窮地に追い込み、圧勝するにしろ相手がどう抗うかでその真価を見極め評価しようと思い立ったわけだが。
「……」
そんな状況に対してビルスは今度は確かに前の対戦の時のように相手の弾幕を弾き返すという事をしなかった。
いや、それどころか回避運動すらせずにその場に腕を組み不動の姿勢で佇んだままだ。
(勝負を諦めたのかしら? いや、あの顔に浮かんでいる表情からは依然として余裕が感じられる。何をするつもり……?)
そう幽香がビルスの態度を不審に思っている時だった。
もうあと被弾まで一秒もないというときにようやくビルスは組んでいた腕を解く。
そして……。
ビビビビッ……パァッ!!
「……!」
一瞬状況が掴めなかった。
ビルスに迫っていた無数に思える程の圧倒的な弾幕が一瞬で彼に向かっていた範囲にあったものだけ消滅したのだ。
「うーん、これはまだちょっと地味かな?」
そう考えるように呟くビルスの周囲はぽっかりと穴が空いたようにその場だけ静かだった。
そしてその場の外側は消滅を免れた無数の弾幕がまだ舞い、ビーム砲が唸っているだけだったが、偶然に軌道が変わって彼へと向うものもあった。
パッ
「!」
それも先程必勝の弾幕が霧散した時のように一瞬で消えた。
見ると、その消えた弾があった方に指差すようにビルスが指を向けていた。
どうやら指先からその所作で彼は迎撃したらしい。
(相殺弾……)
幽香はそれを見て感心したような呆れたような目で軽く息を吐きながら最初の自分の弾幕が消えた理由を理解した。
弾幕を対戦相手に当てる為に使うのではなく、身を守る為に展開したのだ。
(でもだからと言って“あの数”を一瞬で? 全部指先で出していたのだとしたらあの人の速さって……)
幽香はそれを考えて途中でバカバカしくなって頭を振った。
(何て事。これは射命丸の速さがどうのという話じゃないわ)
額に一筋の冷や汗を流して幽香は気を紛らせる代わりに笑みを作る。
「困ったわね。私、力はあるけど速く動くのはそんなに得意じゃないのよね」
驚嘆こそしたものの、勿論まだビルスの力に降参する気はない幽香は次なる手を考える。
それに対してビルスは幽香の方を見ながら次はどんな弾幕を放ったら良いかと呑気に考えていた。
(威圧で全部消すこともできたけど、それじゃ弾幕ごっこじゃないしな。アレはアレで良かったとして、それでもまださっきの子達が見せた弾幕と比べたら綺麗さや驚きに欠ける。うーん、どうしよう……)
「あんまりこれは使いたくなかったけど……」
誰にともなく自分を納得させるように幽香は静かに呟いた。
差し向けていた傘を開いて再び霊力を前方に集める。
分身はいつの間にか消えていた。
今行おうとしている攻撃に集中する為に分身を解除したのだ。
「なんか……嫌な予感」
幽香の動作を見て霊夢も地上からぽつりと呟いた。
「一応弾幕遊戯のルールに則っての技だけど、この大火砲……さぁどうでるかしら!」
ズッ
幽香は分身をして放っていたビーム砲など比較にならない光の塊を放った。
そのエネルギーの様はさながら彗星のよう。
限定化されていた空間の殆どを埋め尽くす程の幅の極大の砲がビルスを襲う。
「ん?」
元々既に横にしか動くスペースがない時点で回避は不可能。
そしてその質量と速度故に小粒を相殺していた程度の迎撃弾では防御も不可能。
まともな感覚ならこれでビルスの負けは誰が見ても確定だった。
だが……。
(お、これは……)
ビルスは自分を包もうとする光を見て、高速の攻撃に遭ったその最中にあっても余裕を持った思考を巡らせていた。
(よし、ならこれはどうだ)
ヴン
一体どういう奇跡でそんなものを展開したのか。
ビルスは幽香の大砲が当たる前に掌を突き出し巨大な赤い魔法陣のようなものを展開を浮かび上がらせた。
高速の攻撃に対してこの反応。
冗談でなければビルスは高速を上回る速度で反応したことになる。
だが、そんな質の悪い事実より劇的な展開の砲が対戦相手の幽香と観衆の目を引いた。
ビルスが展開した魔法陣(円はともかく、内側のデザインは頭に浮かんだものを独自にデザインした。加えて無意識に発光色を赤色にした為、その見た目は悪魔の技のように禍々しかった)は光の大砲を正面から受け止め見事に防御した。
「……っ」
幽香は歯噛みした。
まさかこれを正面から受け止めるとは流石に予測できなかった。
それだけこの攻撃は彼女にとって必勝のものだったのである。
ゴゴゴゴ……
魔法陣は頑強に幽香のまだ攻撃を受け止めていた。
だがいくら受け止めることができてもそのままでは防御に徹することしかできない。
幽香はまだこの時点でも体力的は十分に余裕があったので、このまま大砲を放ち続け、相手のスタミナ切れを待つか、ビルスが状況の転換を狙って新たな動きを見せた時の隙を狙う事にした。
(さぁ自称破壊神さん、次はどう出るのかしら?)
「ふふ、驚くぞ」
ビルスは幽香の挑戦的な視線を好奇の視線として捉えたようだ。
彼はその期待に応えるべく、悪戯を堪える子供のように笑って、思いついたアイディアを早速実行した。
ギュル……
「え?」
幽香は自分の攻撃を防いでいる魔法陣が突如回転しだした事に呆気にとられた。
(え、回転……? 何故……いや、まさか)
幽香の嫌な予感は当たった。
魔法陣は次第に凄まじい速さで回転を始め、受け止めていたエネルギーをまるで水を弾くように散り散りに拡散してきたのだ。
「……!」
「弾き返すのはダメって言ってたけど、状況が状況だしね。僕もそれを技として受け止めたわけだし、これもありじゃないかな」
のんびり言い訳するビルスだったが、残念ながら幽香はそれほど余裕はなかった。
何故なら拡散されたエネルギーが反発の力も得てより強力になって自分の方に跳ね返ってきたからである。
単純に水切りのように跳ね返しているだけなのでその弾幕は全部が全部幽香に向かってくるわけではない。
一部は不規則な動きの果てにビルスに向かうものもあったが、当然の如くビルスはそれを軽い仕草で(傍目からは彼に当たる直前に消えてるようにしか見えない)撃ちけしていた。
だがそれでも大部分は反発力によって逆方向にいる幽香の方へと向かってくる。
幽香はそれに対して早急に対応策を講じなければならなかった。
「うわぁ……」
今まで見たことがない激しくて地獄絵図な無茶苦茶な弾幕の軌道に魔理沙はドン引きしていた。
「なんだあれ……あんなの狭い部屋でゴム玉を何個も跳ね回らせているようなもんじゃないか。アイツあれ大丈夫か……?」
ビッ
「お?」
自分が打ち消した音ではないものにビルスが反応して幽香の方を見ると、多少焦った表情はしていたものの彼女が跳ね返って弾幕として襲ってきたそれを器用に迎撃していた。
ビッ……ズァッ!
幽香は傘の先端からレーザーのような直線的な光をあらゆる方向に放ちながら振り回し、空いていた手でも最初に放った気弾のような小粒の弾幕を色々と軌道にパターンを付けて繰り出したりして縦横無尽に立ち回った。
それから数分後。
「はぁ、はぁ……」
幽香は全ての弾幕を迎撃し、流石に疲れたのか方で息をしてビルスの前に再び立っていた。
「……っ、はぁ。ねぇ」
「うん?」
「何で私が防御に徹している時に狙わなかったのかしら?」
幽香の言う通りだった。
彼の実力なら完全に防御に徹するしかない幽香に横から攻撃して勝利する事など容易だったはずだ。
何故それをしなかったのか。
途中から熱が入って本気で勝負に挑む姿勢になっていた幽香はそれを疑問に感じた。
ビルスはそんな幽香の疑問に可笑しそうに笑いながら言った。
「えぇ? そんなことするわけないだろう。だって凄く楽しかったし」
『楽しかった』
幽香はその言葉に肩から力が抜けるのを感じた。
弾幕遊戯のルールに則っていたとは言え、半ば本気で立ち回っていた自分を相手にして笑顔でそんな事を言うとは……。
「はぁ……降参。ちょっと意地になるには貴方割に合わないみたいだし」
「ん? もう終わりなのか?」
ビルスの意外そうな声の響きに幽香もそこでやっと素直な笑顔で応じる。
「ええ、ちょっと色々疲れちゃったし終わりにさせて。でも私も楽しかった事は楽しかったから、また付き合ってくれると嬉しいわね」
「うん? まぁ気が向いたらね」
「ありがとう。良かったらその時にお茶でもご馳走するわ。その時は改めてビルスさんのお話を聞かせてもらえないかしら? 私、貴方の事気に入っちゃった」
そう言って差し出してきた彼女の手をビルスは最初は不思議そうに見ていたが、お茶という言葉を思い出して直ぐに上機嫌になって握り返した。
「なら仕方ないな。その時は付き合おう」
というわけで幽香戦終了です。
ちょっと表現足りない?
幽香の描写も迫力が足りない感じになってしまったでしょうか。
まぁ、そこは筆者の東方の理解不足という事で……という言い訳を次回ではしないように頑張りたいと思いますw