破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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そして程なくして魔理沙と御一行はとある場所にいた。
「で、これはどういう事?」
博麗神社の主、博麗霊夢は不機嫌そうな声で隣に座っている魔理沙に訊いた。
「どうって、やっぱり祭って言ったら神社だろ」
霊夢の不機嫌そうな声など気にもしていないといった様子で、魔理沙があっけらかんと答える。
その態度に霊夢の期限は更に悪くなった。
眉間の皺を深くして、据わった半目もよりキツイ感じになった。
「だからって私の所でやらなくたっていいでしょ。神社だってちょっと山の方に行ったら守矢があるし、神社に拘らなくたって人里に行けばそれなりに使えそうな所くらい直ぐに見つかるわよ」
今彼女の目の前には奇妙と言うべきか賑やかと言うべきか、何とも言えない光景が広がっていた。
「おお、ビルス凄い! でもあたいも負けないかんね!」
「ほほう、なかなかやるもんだ。だけど僕にはまだ及ばないね」
氷の妖精と破壊神が何やらじゃれあうように楽しげに神社の境内で踊っていた。
二人とも酒も入っていないのに飛び跳ねるように忙しく動き、傍から見ているだけでは何を競っているのか全く判らなかった。
「時間を操る能力はそう安易に使うものではありません。勿論ご理解しているとは思いますが、それでもその力を使うのが寿命が長いとは言えない人間なら尚の事乱用は慎むべきです」
「貴方良いこと言うわね。私も偶に言っているのよ。血を吸ってあげようかって」
「私はあくまで一介の従者ですから……」
「貴女も私の手伝いをしてくれるのなら能力の幅を拡げてあげましょうか? 自分の時間も操れるようにとか」
「ちょっと、人の能力を変化させる能力なんて私の蔵書に載っている本はないわよ。詳しく教えてちょうだい」
「お姉さまに咲夜! そんなつまらない話よりまたビルス様と遊ばせてよ!」
一方顔を横に向けると、自分たちが座っている拝殿の横の方で何処かで見た吸血鬼お嬢様御一行と見たことがない顔色が悪い若い男性と、冴えない風体の中年の男性が話していた。
彼女達は吸血鬼レミリア率いるスカーレット一家。
幻想郷でも力のある人物の一人で、更に運命を操る能力まで持っている。
今回は呼ばれもしないのにその能力を使ってこの祭りを察知して遊びに来たらしい。
一家の長であるレミリアは前述したとおり優れた力を持っているが、彼女を囲む者たちもまた、一筋縄ではいかない者揃いだった。
今ウイスと中主神(*天之御中主神の略)と話している女性はレミリアに仕えるメイドの十六夜咲夜。
時間を操る能力を持ち、ビルス達と会って早々主を立てる為にいつもの調子で能力を使った結果、自分の力では及ばない彼らを巻き込んでの時間操作が適わず、逆にその反発で衝撃を受けて弾き飛ばされてしまうといった醜態を晒してしまったのだ。
今でこそ大人しく反省した様子で説教されている彼女だが、このような例外さえなければ、常に相手の不意を突き、先手を取ることができる反則に近い力だ。
一方、中主神の言葉に持ち前の探究心を早速示しているのは、レミリアの友にしての五行全魔法使いのパチュリー・ノーレッジだ。
普段は外出を嫌い自室を兼ねている書斎に引きこもって読書や実験に耽る毎日を送っているほどのインドア派だが、今回はレミリアの能力の結果に何か感じ入るものでもあったのか、非常に珍しく自ら一行に付いてきたのであった。
そしてもう一人、レミリアと同じく幼い容姿をしているが、彼女より明らかに無邪気で年相応の子供らしい雰囲気を出しているのは妹のフランドール・スカーレットだ。
姉と同じ吸血鬼であり、加えてあらゆる物を壊すという何とも物騒な力を持っている。
その力は伊達ではなく、能力を使った暴力の一点においては一家最強の攻撃力を持つ存在だ。
しかしそんな彼女も、挨拶代わりにビルスに『ぎゅっ』っとしようとした際に、拳を全く握り締めることができず、その事実に呆然とした。
結果、初めて“自分には壊せないもの”に出会った事がかなり感動したらしい。
今ではビルスを貴重な遊び相手としてすっかり目を付けている様子だ。
あと一人、ここにはいないがレミリアの館の門を守る門番兼用心棒がいるらしいが、雇い主の彼女によるとその人物は今回居眠りをしていた罰でお留守番らしい。
「あいつらも呼んでもないのによく来るわねぇ……」
霊夢が呆れた様子でそんな既知の輩を見ていると、彼女がいる場所から離れた鳥居から参道の辺りの方からも賑やかな声や音が聞こえた。
そこにはあるいは、天狗、あるいは騒霊、あるいは同業者の巫女と彼女が祀っている神、果ては鬼と、本当に読んでもいないのにその時その場に限っては、あらゆる者たちが集い騒いでいた。
その光景は最早自分にその気がなくても祭りそのもの。
この結果がレミリアの能力によるものだとするのならば、後で賽銭を思いっきり請求してやらなければ。
そんな巫女にあるまじきやさぐれてケチくさい事を霊夢が考えていた時だった。
「はい、それでは皆さん。只今よりハカイシンびるす様の歓迎会を兼ねて弾幕祭りを行おうと思います!」
天狗の射命丸文が明るい声を張り上げて頼んでもいないのに司会を始めた。
「おい、何かあいつの僕の紹介の仕方違和感感じないか? 言い方に不信感を感じるような」
「ほほ、気の所為でしょう」
「加減してよ! しなさいよ! 失礼はだめよ!」
「もう、紫どうしたの? 貴方らしくないわよ~?」
「ねぇ、藍様。紫様はどうされたのですか?」
「さ、さぁ……。妖夢さんは何か知っておいでですか?」
「……」
傍らでは今まで見たこともないくらい焦燥感に駆られて必死な顔をしている八雲紫とその様子に戸惑っている式神の八雲藍と橙と適当な言葉が見つからずに微妙な顔をして佇む魂魄妖夢、更にそんな紫を相変わらず大らかな笑顔で宥める西行寺幽々子がいた。
「お、さっそく弾幕ごっことやらの始まりか」
氷の妖精のチルノという少女と遊んでいたビルスは射命丸の声に気付き、戯れを一旦中止すると、軽い足取りで射命丸の声がした方に来た。
「あ、ビルスさん、早速のご来場ありがとうございます。一応お祭りの前に確認ですが、弾幕遊戯のルールはご存知ですか?」
「ああ解ってるよ。対戦相手同士で死なない弾幕を打ち合って、それを避けながら相手に当てるんだろ?」
「その通りです。今回ビルス様はスペルカードを使えないようなので、“死なない弾幕”は非常に重要な点になります。その点は本当に宜しくお願いしますね?」
「了解した。要は重傷にもならず、当たれば痛い程度のエネルギー弾を放てばいいんだろう? 理屈さえわかれば簡単だ。手加減とかじゃなくて単に“そういうもの”にすればいいだけだしね」
「もしもの時は私がちゃんとサポートしますのでご安心を」
「……私は今回ずっと煙草吸わせてもらいますね。ふー……ああ、この平穏身に沁みる……」
「え、えっと……大変結構、準備万端のようですね。それでは最初にビルスさんと対戦してもらう選手の登場です。どうぞ!」
信じていいのか分からない自信を朗らかな笑顔で示すウイスと、彼らとの関係がイマイチ分からない謎の中年男性の謎の迫力にやや気圧されながらも、射命丸はプロらしく司会進行に努め、最初の対戦相手を呼んだ。
「プリズムリバー姉妹です! 私は三女のリリカです!」
「長女のルナサです」
「次女のメルランです。ビルスさんよろしくお願いします!」
「おっと、いきなり三人チームの相手ですか。これはビルスさん分が悪いか? あ、勿論三人一緒に弾幕を打ってきたりはしませんが、最初ですしご希望なら対戦相手変えますが?」
「いや、いいよ別に。何なら三人一緒にかかってきてもいいよ」
「え」
「……」
「へぇ……」(あ、ルナサ姉ちょっとムッっとしてる)
「えぇ、それは流石に……」(リリカ、ルナサ姉にちょっかい出しちゃダメだよ!)
ビルスの意外に挑戦的な発言に射命丸は虚を突かれ、三姉妹もそれぞれ好戦的な雰囲気を強くした。
「あの、そんな事言っちゃっていいんですか? 彼女達本当に三人で一気に掛かってきますよ? 本人の同意の上なら多分本当に遠慮してきませんよ?」
「いいって言ったろ? 先ずは避けながらこっちの攻撃の仕方を考えるつもりさ」
「……そ、そうですか」
射命丸はビルスの最初は避けるだけの発言に、彼の自信が一体どこから湧いてくるのかつくづく疑問に思った。
見たところそれなりに利口な妖怪っぽいが、そんなに強い力を持っているようにも思えない。
いや、そもそも力自体を彼から感じないのだ。
そんな人にいきなり幽霊の中でも次元が違う騒霊を、しかも三人同時に相手をさせてしまったりして大事にはならないだろうか。
射命丸は心の中でそんな心配をしつつ、結局は本人の希望ならという事でビルスの提案を了承することにした。
(まぁ、結局は弾幕ごっこだし、思い怪我を負っても全身打撲か骨折程度で済むか。そのくらいの怪我なら幻想郷で直ぐに治すことも可能だし)
「はい、では皆さんお待たせしました! 第一戦はプリズムリバー姉妹ですね! それでは両者、準備は良いですね? 空中に上がってください!」
射命丸の合図でビルスト姉妹はお互いゆっくりと高さ20m程にまで上昇する。
その光景を拝殿の賽銭箱の前から見ていた霊夢はまだこの時点では「あ、あの人ちゃんと飛べるんだ」程度にしか考えていなかった。
「では、準備はいいですか? 弾幕遊戯……開始っ!」
射命丸の試合開始の合図で弾幕遊戯のルールが発動した。
ビルス達を薄暗いもやのような結界が包み、弾幕遊戯の為の限定空間(フィールド)が出現した。
この限られた空間の中で遊戯の参加者はお互いに戦うのだ。
「……大合葬」
「えっ、いきなり?」
「ルナサ姉ホントに?」
長女のルナサのいきなりの合同スペル宣言にリリカは驚き、メルランもソロパートを飛ばした姉の本気に内心リリカ以上に驚いていた。
「ちょっとカチンときた。大人げないとは解っていてもああいう態度を取られると、彼の驚いた顔も見たくなるよ」
「あー、なるほどねぇ。まぁルナサ姉がそこまで言うなら……リリカ?」
「はい、メルランお姉ちゃん!」
「霊車……」
ルナサが合同スペルの名前を詠み始めた。
それに合わせてメルランとリリカも声を合わせる。
「「コンチェルト……」」
「「「グロッソ!!」」」
カッ
三人が声を合わせ叫ぶと、光が彼女達を包み三角形の形を模した。
そしてその中心から三色の弾幕が渦を巻くようにうねりながらビルスに襲いかかる。
弾幕の動きこそある程度規則的に見えたが、それで結構弾速もあり、加えて放射がうねりながら回転することによって弾幕個々の動きも微妙に不規則なものとなっちた。
これはなるべく避難場所を動ける場所が狭い事を覚悟して中心を選択しなければ、まず渦の外側では何れ追い詰められることになる。
「……?」
ルナサは不審げに眉を寄せた。
弾幕がもう間近に迫っているというのいビルスは最初の位置から動こうとしなかった。
「あれ?」
「なに? もう諦めたのかな?」
リリカとメルランも不思議そうに見つめていた。
が、その時。
「うーん、やっぱり綺麗だな」
実は単に彼女達の弾幕の綺麗さを堪能していたビルスはそこでようやく“避ける”事を開始した。
「な……」
ルナサは自分が見た光景に言葉を失った。
まるで光の線のような残像がビルスの高速の回避運動によって発生し、追い詰められていたと思っていたビルスの姿は最早そこにはなかったのである。
「え? え?」
リリカは目の前で起こったことが理解できず、ただ本能で消えたビルスの姿を探した。
「いた!」
メルランの視線の先には最初に彼の姿を確認した場所とは全く反対の場所で今度は先ほどより“マシに見える程度”の速さでやはり弾幕を有り得ない軌道と身のこなしで避けているビルスの姿があった。
「流石にただ避けるだけっていうのも味気ないし失礼か。じゃぁこっちも攻撃……いや、待てよ」
ビルスは反撃する前にあることに興味を持った。
紙一重で避けているように見えて実は有り余る余裕で避けている身体の近くを飛んでいる弾幕に、自分の弾幕を遠目から見たら叩くよな所作で当てて弾き返したのだ。
パンッ、ビッ、パンッ
「は?」「え?」「?」
姉妹は目の前で起こったことが把握できなかった。
何故なら次の瞬間には……。
「きゃんっ」「わわっ!?」「わぷっ!」
ピチュチューン!!
三人揃って被弾して試合が終了していたからである。
細かい話がない内容だとテンポよく書けて良いですね。
という事でなんとか月3達成ですw
書いていて楽しいとやっぱり勢いも付きますねぇ。