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【社説】

新出生前診断 重い選択一緒に支える

 新出生前診断が受けられる医療機関が拡大されそうだ。医療技術の進歩が生み出した検査だが、診断結果によっては妊婦は重い選択を迫られる。それを支える周囲のサポートも不可欠だ。

 新出生前診断は、妊婦の血液でダウン症など胎児の染色体異常を調べる検査である。

 陽性の結果が出た場合、妊婦や家族は中絶をするか妊娠を継続するか迫られることになる。

 結果を知っても十分な情報が得られないと、どう対応すればいいのか苦しむことにもなる。だから検査への正確な理解が不可欠だ。さらにダウン症やその子育ての実態、子育てへの社会的な支援の内容などを総合的に知ることができ、不安や悩みを相談できる専門家が近くにいることが大切になる。

 どんな決断を選ぶにしても後悔しないよう支える態勢もセットで整える必要がある。

 そこで日本産科婦人科学会(日産婦)が指針をつくり二〇一三年から、専門家のカウンセリングなどが受けられる病院に限定して実施されてきた。

 三月、日産婦は実施を認める医療機関を開業医などにも拡大すると決めた。支援態勢のない無認定の機関が勝手に検査を実施しているケースが出始めたためという。

 だが、拡大案は現在必要な遺伝の専門医の資格を医師に求めないなど規制が緩和される。支援態勢が後退して、現状を追認するだけに終わらないか。

 支援態勢が不十分なまま検査が普及するとしたら、結果を受け入れ納得のいく決断を考える環境が得られなくなる。検査の実施状況を把握する仕組みを国がつくることも検討すべきだろう。

 日本ダウン症協会は、相談しやすいように検査機関でも協会でもない第三者的な相談窓口の設置を提案している。気兼ねなく本音で相談できるのではないか。

 検査を受けることも産むかどうかの決断も妊婦の権利だ。

 ただ、検査が始まってからこの間、染色体異常が判明した胎児の大半が中絶されている。障害者が排除されたり、命が選別される社会にはしたくはない。

 「障害」は社会の理解不足がつくっている面が大きい。生きづらさを感じない社会に変えていく必要性は言うまでもない。

 技術の進歩でさまざまな遺伝的病気を調べられる時代になってきた。新技術をどう扱うか、もっと議論する時機にきている。

 

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