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【放送芸能】

故郷追われ うずく心の傷 ドキュメンタリー映画「福島は語る」

土井敏邦監督

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 東日本大震災の東京電力福島第一原発の事故により、各地に避難した人たちの証言でつづったドキュメンタリー映画「福島は語る」が九日、東京・渋谷ユーロスペースほか各地で公開される。避難住民の声を丹念に拾った土井敏邦監督は「人生を狂わされた人たちの心の傷はうずき続けている。故郷を追われた人々は」と語る。 (深井道雄)

 心の底に沈殿した深い思いを、時に目に涙をためて打ち明ける被災者たち。パレスチナ難民の取材を長年経験している土井監督は「故郷を追われた人々は、パレスチナ難民と重なる」と話す。震災直後から福島入りして取材を重ね、「飯舘村・故郷を追われる村人たち」(二〇一二年)、「飯舘村・放射能と帰村」(一三年)とドキュメンタリーを発表してきた。

「福島は語る」の一場面。風評被害に遭っても丹念に稲作に励む男性

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 本作は一四年四月から取材を始めた。パレスチナ取材と並行し、何度も福島に通った。車で寝泊まりしながら約百人と会い、映像に記録した。しかし「了解した取材のはずが、いざ訪ねると断られることもしばしば。心の傷の深さを知らされた」と振り返る。結局、八章、十四人の証言で構成する二時間五十分の長編に仕上げた。風評被害と闘いながら稲作を続ける農家の人、土地や家族を失っても「もっとつらい思いをしている人がいる」と葛藤をぽつりぽつりと語る人たちと、どれも重い証言だ。

 「原発事故後に起きた自分や家族の問題というより、幸せとは、生きるとは、家族とはといった人生を浮き彫りにすることを心がけた」と土井監督。福島県によると、今なお約四万二千人が避難生活をしている。土井監督はそんな現実を直視し「二〇年東京五輪に浮かれ、福島は“終わったこと”にされようとしている。被災者の心の傷は癒えていない。取材はこれからも進めていく」と話した。

 

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