中国の全国人民代表大会(全人代=国会)では、米中貿易摩擦の影響を含め経済減速への対応が焦点になる。習近平国家主席は「強国路線」を唱えるが、政治、経済とも脆弱(ぜいじゃく)性が潜むのではないか。
北京の人民大会堂で全人代が開幕した五日、二〇一九年の実質国内総生産(GDP)の成長率について、李克強首相は政府活動報告の中で「6~6・5%」と幅を持たせた目標を示し、現行の「6・5%前後」から引き下げた。
一八年のGDPの実質成長率は6・6%と目標を上回った。だが、米中貿易摩擦の影響もあり、中国経済は昨年秋以降、急減速している。李首相は二年ぶりに目標値を引き下げざるをえなかった。
輸出と個人消費が経済のエンジンだった。だが、昨年の自動車販売台数が二十八年ぶりに前年割れとなるなど消費は萎縮気味で、縮小していた小売売上高の対前年比伸び率は昨年、10%を割った。
米中貿易摩擦について、李首相は「企業経営と市場に不利な影響をもたらした」と認めた。だが、中国が米国からの輸入を増やすだけでは不十分である。外資企業からの技術移転の強要禁止などを盛り込んだ「外商投資法」を、全人代で成立させるべきであろう。
経済減速の背景には何よりも、補助金で国有企業を守り、成長力が期待できる中小企業を軽視してきたことがある。「国進民退」と長年批判されてきた政策をやめ、市場を重視する経済構造への転換を早く進めるべきである。
昨年の全人代で、憲法改正により国家主席の終身制に道を開いた習主席の強権政治も気がかりだ。「社会主義現代化強国」を掲げる習氏は、製造、教育などあらゆる分野で「強国」を唱えている。
党中央委員会は二月、「習近平の思想で全党を武装し、人民を教育し、力を結集せねばならない」と、習氏への忠誠を求めた。
党中央宣伝部は最近、「学習強国」というスマートフォンのアプリを開発し、党員の利用が急増している。「学習」は中国語で「勉強」のほかに「習を学ぶ」という意味にもなり、党員はアプリで習氏の思想を学習している。
習思想を学習すればポイントが加算され、党機関が党員の学習状況を監視しているという。毛沢東時代の「個人崇拝」を彷彿(ほうふつ)とさせるが、IT時代のそれはもっと素早く巧妙に社会を覆う。異論を許さぬ硬直した空気は、強国どころか中国を弱めることになろう。
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