沖縄県民投票で四十三万もの反対票が出たにもかかわらず、安倍晋三首相は玉城デニー知事に辺野古新基地建設の続行を伝えた。危険な普天間飛行場の返還は、米国を交えて協議し直してはどうか。
首相はきのう、県民投票結果を通知し辺野古埋め立ての中止を要請した玉城氏に対し「真摯(しんし)に受け止める」としつつ、普天間の危険性除去のため移設は「もはや先送りができない」と説明した。またかとため息が出る。県民投票で示された七割の民意を前に、相変わらず誠実でない。
普天間の閉鎖・返還は県民共通の願いだ。県議会は全会一致で何度も決議している。その上で県民は、辺野古移設は認められないと意思表明した。「普天間か辺野古か」の二者択一ではない。普天間も辺野古も要らないのである。
投票結果を重んじる民主主義国なら埋め立てをやめ、移設を前提としない普天間返還の道を探るべきではないか。過剰な基地負担を押しつけてきた沖縄に「対案を示せ」と言うのは筋違いも甚だしい。
一九九六年の普天間返還合意に立ち返れば、代替施設確保は海兵隊ヘリ部隊を米空軍嘉手納基地など既存の米軍基地内に移す案から始まった。米側による冷戦終結後の海兵隊の見直し作業では、在沖海兵隊のカリフォルニア移転も検討された経過があるという。
大局的な米軍再編計画の中で、新たな地元負担なしの普天間返還の方策は必ずあるはずだ。
米政府は表向き、県民投票後も辺野古移設が「唯一の解決策」(ハガティ駐日大使)と、日本政府に同調している。背景には、沖縄の反発は日本の「内政問題」であり、米側から日米合意を崩す必要はないとの判断があろう。日本政府が辺野古移設を進める限り、建設費も部隊駐留経費も負担してくれるとの思惑も透ける。
この際は米国も基地を使う当事者として沖縄の民意に向き合ってほしい。その点、玉城氏が提案した日米両政府と沖縄の三者協議が実現すれば解決策を見いだすきっかけになるだろう。まず日米両政府が県民の声に耳を傾ける場を設けることに意義がある。
トランプ大統領は海外駐留米軍の縮小に前向きで首相と個人的な信頼関係もあるという。その関係をこの局面でこそ生かせないか。
政府が工事を強行する新基地は実現性も効力も見通せない。高速増殖原型炉のもんじゅ計画などのように「走り始めたら止められない」事業とすべきではない。
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