~「竜とわれらの時代」を読んで~

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巡り会った本
2002年11月4日、Mesozoic-BBSにひら野さんと言う方から「テトリティタンとは?」という投稿がありました。
内容を要約すると以下の通りです。
とある雑誌の「お薦めの本」のコーナーで「竜とわれらの時代」という本が紹介されていたが、ストーリーのキーポイント、テトリティタンという大型竜脚類の化石が実在の恐竜かどうか混乱している・・・との事でした。
この時知ったのが「竜とわれらの時代」(川端裕人・著)だったのです。
翌日には書店でハードカバー、上下2段組、444ページに及ぶ本書を購入しました。こう書くと凄く読みにくい小説なんじゃないかと思われるでしょうが、恐竜ファンならじっくり読んでも一週間はかからない内容です。
この本について
竜とわれらの時代 「竜とわれらの時代」
著者: 川端 裕人 / カバー画:小田 隆
定価: \2,000+税
出版:徳間書店  ISBN:4-19-861585-3

日本の片田舎、手取郡で恐竜の化石が発見される。発見者の風見大地をリーダーとするアメリカの研究チームが発掘した巨大な竜脚類化石。それは「テトリティタン」と名付けられ、静かな里は一躍世界の注目の的となるが、何者かの手により化石は忽然と姿を消してしまう。
同じ頃、研究チームの指導教授が謎の失踪を遂げていた。
一方、進化論を認めないキリスト教福音主義者の団体やイスラム原理主義テロ組織が研究チームに目をつける。アメリカ人が愛好する恐竜は進化論の象徴であり、アメリカの象徴である、と云うのだ。政治的、宗教的な思惑が絡み合い、手取郡の人々の対立感情や竜神伝説も巻き込んで事態は思わぬ方向に進んで行く―。
科学とフィクションが見事に結合した恐竜小説の傑作。

読後の感想
恐竜小説というと、皆さんはどんな小説を思い浮かべますか?
世代によってもまちまちでしょうが、私はコナン・ドイルの「失われた世界」を真っ先に思い浮かべます。アマゾンの奥地に恐竜たちが生き残っている、と云った内容ですね。またロバート・J・ソウヤーの「さよならダイノサウルス」のように中生代世界へタイムスリップしたり、星新一の「午後の恐竜」のように核戦争による人類絶滅、その際に走馬灯のように幻の恐竜が現れると云ったものがあります。最近ならマイクル・クライトンの「ジュラシック・パーク」でしょう。恐竜の遺伝子を取り出し、現代に恐竜を蘇らせるSF的な要素とパニックスリラー的な要素が見事に融合した内容でした。
このように今までの恐竜小説は幻想も含めて、「生きた恐竜」に出会う事、そこから起こる数々の出来事に主眼が置かれていました。しかし本書は本格的に古脊椎動物学、特に恐竜を研究する恐竜学をメインに据えて物語が展開していくと言う、新しいタイプの恐竜小説を作り上げたのです。

注意!ここから先はネタバレが含まれています。
 読まれる方はドラッグして反転させてお読み下さい。

この小説はエンターテインメント作品としての描き方がとても上手いので、恐竜ファンなら初心者からコアなマニアまで十分に楽しめる作品に仕上がっている点です。正しく新しい恐竜学の知識が解りやすく散りばめられていて、初心者への入門書にもなる事でしょう。
日本の手取郡と云う架空の地域から端を発してアメリカ各地に飛び、さらに竜神伝説と政治や宗教、原発問題などの様々な要素を内包した上に、複雑に入り組んだストーリーなのですが、最後に再び手取郡へ収束して行く点はとても興味深いですね。
登場人物は結構多く、それぞれの利害関係も複雑に絡み合って行動していますが、やはり手取郡へ集結して行きます。この構図の妙が、本書をより一層深いものにしているのではないでしょうか。
更に深く考えれば、この小説には「われらの時代」の諸問題が浮き彫りにされています。
「アメリカ人はなぜ恐竜を好むのか」や「社会における科学の在り方」、「宗教と科学」、「宗教対立」などや日本固有の「ムラ社会の構造」多少絡む「いじめ」など、ある見方をすれば似たような構図、でも単純に解決出来ない問題の数々・・・それらも否応なしに登場人物たちに圧し掛かりますが、その先にある光明として「竜(=テトリティタン)」の存在が「竜神伝説」と共に据えられていると思うのです。
終盤の「ファトワ」が盗んだMOX燃料を硝酸溶液に溶かし込んで臨界を引き起こすテロについては、1999年9月30日に起った茨城県東海村のJCO臨界事故を憶えている方なら、本書の比較的序盤で描かれている「放射性物質の紛失疑惑」が出て来た時点で、ある程度の予想がついてしまうと思います。
勿論、私も予想はつき、犯行予告の「地の光」で「ああ、やっぱり臨界を起す核テロか」と確信しました。しかし、最終的な臨界への手段は私の予想の埒外で、地方博会場に展示してある「アメリカの力の象徴」であるアトラス・セントールが使われるとは思いませんでした・・・脱帽。
核クライシスは、ある意味推理小説並みかそれ以上の著者と読者の頭脳戦でもあるんですよね。その点からも最新の恐竜学と共に満足出来る水準だと思います。
主人公の風見大地の弟で事件に巻き込まれる事になる海也の妻、美子の旧姓である草薙という姓は日本武尊が草原で野火に巻かれた時、剣で草を払って危機を脱した故事に由来する「草薙の剣」にも絡んでいるんですよね。最悪の炎を阻止する大地や海也の身内(剣)になっているのは、著者の思惑なのでしょうか?
少々残念なのは、物語の中盤から舞台があちらこちらに目まぐるしく飛び回っている点です。ここがヤマになっているのはよく分るのです。しかしやや散逸的な感じがして、抵抗や嫌気を感じる人が案外多くいるのではないかと思われる事ですね。当然ですが私は平気です(笑)。
ここさえ乗り切れば、あとはクライマックスまで一気に読み通す事が出来ると思います。ある意味、意外などんでん返しがあなたを待ち受けているでしょう。

著者は緻密な取材活動を行い、実際に論文を読んだり研究者の意見などを聞きながら仕上げたかがよく解ります。これは実際に「謝辞など」からも覗う事が出来ます。

ややとっ散らかった感想になってしまいましたが、最後までお読み頂きありがとうございました。
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