日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が、保釈保証金10億円を納付し、保釈された。

 昨年11月の逮捕以降、身柄拘束の期間は108日。長期勾留に対する国際的批判の高まりは、日本の特異な「人質司法」の問題を浮き彫りにした。

 ゴーン前会長は、自身の報酬を有価証券報告書に少なく記載した金融商品取引法違反と、私的な投資で生じた損失を日産に付け替えるなどした特別背任の罪に問われ、拘束されていた。

 東京地検特捜部が捜査した事件で、全面否認のまま保釈が許可されるのは異例のことという。

 今回で3回目となった保釈請求を東京地裁が認めたのは、新たに選任された弁護人が外部と接触できない手段に知恵を絞ったからだといわれる。「住居の出入り口に監視カメラを設置」「インターネットへのアクセスやメールの利用禁止」などの行動制限が奏功した。

 とはいえ、過去2回の請求から保釈判断に影響を与える事情に大きな変化がなかったことを考えると、人質司法に厳しい視線が注がれていることへの影響もあったと推測される。

 ゴーン前会長は地裁の保釈決定に際し「推定無罪の原則」に触れながら、「私は無実だ」との声明を発表した。検察と真っ向から対決する構えだ。

 起訴内容を巡っては立件の難しさを指摘する専門家もおり、裁判の行方は見通せない。状況を冷静に見守る必要がある。

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 捜査の中心が取り調べに置かれ、長期間拘束し自白を得ようとする人質司法が、冤罪(えんざい)の温床となってきたことは否定できない。

 最高裁によると、勾留された被告が否認している場合、初公判前に保釈する割合は8・9%にとどまり、国際基準からかけ離れている。

 受託収賄罪などで有罪が確定した鈴木宗男元衆院議員は逮捕から保釈されるまで437日を数えた。

 詐欺などの罪で起訴された「森友学園」の籠池泰典前理事長の勾留は299日に及んだ。

 米軍基地建設への抗議活動で逮捕・起訴された沖縄平和運動センターの山城博治議長の場合も152日間にわたった。

 国連自由権規約委員会は日本に対し起訴前の保釈などを再三勧告している。人権保護の視点からも問題の多い長期間拘束は改めなければならない。

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 厚生労働省の村木厚子元局長冤罪事件をきっかけに取り調べの可視化など刑事司法改革が進んだ。しかし人質司法の問題はそこからこぼれ落ちた。

 自由権規約委員会は弁護人が取り調べに立ち会う権利を保障すべきだとも勧告している。欧州をはじめ既に多くの国で確立されている制度である。

 今回の事件で長期勾留に対する疑問が一般市民の間にも広がる。制度改革につなげる契機とすべきだ。