アン・ハサウェイとロバート・デニーロがW主演の映画「マイ・インターン」を観てきました。
プラダを着た悪魔のその後のような、という売り文句でつい興味を惹かれてしまったのもあるけれど、人材に関わる身としてインターンというキーワードに反応してしまったのもあります。もちろん、アン・ハサウェイが好きってのも理由のひとつ。
まぁとにかく観ました。観てきました。
結論からいうと期待通り。
映画館に足を運んだ方が求めていたものが、しっかり得られる内容だったと思います。まだご覧になっていない方で、行く予定の方はそっとページを閉じて、まずは映画館に行ってください。
もう観た。どうせ観ない。
ネタバレ気にしないという方だけ続きをどうぞ。
さて、感想です。
結末が超先進的
軽くシチュエーションだけ書くと、ジュールス(アン・ハサウェイ)は、ファッションの通販サイトを運営する企業の創業社長で、そこに70歳のシニアインターンのベン(デニーロ)が入社してくる。
そして仕事にも私生活にも色んなことが起こる、という筋書です。
これ、結末がね。
もういきなり結末の話しちゃうんですけど、すごいんですよ。
これまでの価値観でいくと、絶対こうはならないっていう落としどころなんです。
ジュールスの旦那は、彼女の仕事をサポートするために、いわゆる専業主夫として仕事を辞めて娘の世話をしています。ただ、そんな生活をしていると男としての自信も失われ、奥さんは仕事で忙しくて相手してくれないし、、、で浮気しちゃうんですよね。
ジュールスは浮気に気づいて落ち込みます。しかし旦那に直接問いただすことはせずに、仕事量をセーブする方法はないかと模索。
会社に外部からCEOを招聘して、自分の負担を軽くすることで、家庭と仕事をうまく両立できないかと考えて、実際、いいパートナーが見つかり一件落着(何人か候補者と面談して、ようやく信頼できそうな人が見つかった)、かと思われるのですが、、、
脚本に踊らされる心地よさ
最後の最後のほうのワンシーン。
ジュールスはベンの家に話を聞きに行きます。自分が会社経営について下そうとしている決断について不安を感じたためです。
もっと言えば、ジュールスのなかで実は結論は出ており、その後押しをしてもらいたくて会いに行く、という感じでしょうか。
この時点でジュールスは相当ベンを信頼しており、そのベンの口から、CEOに会社を任せる決断に「待った」をかけてもらいたくて、家にいくわけです。
そしたらベンが、「CEOなんか雇わずに頑張れ、自分の夢がかなってせっかく会社が大きくなったんだから、浮気するような旦那のために、それをあきらめることなんてない」みたいなことを言うんですね。
待ってましたよ!そのセリフ!!
観ている僕は「デニーロよく言った!」
「そうだそうだ、アン・ハサウェイ頑張れ!」
と内心、カタルシスを感じまくります。
いちばん気持ちのいいシーンです。
と思っていたらすかさずベンが、「ってなことを言って欲しくて来たんだろ」的なことを言うのですよ。
いやぁ、やられました。
ジュールスを通じて、視聴者であるぼく自身の心の内まで見透かされたようで痛快な気分でした。
計算されつくした結末に、唸らされた
にしても、ジュールスがベンに相談するこのシーン。
後で考えると、これがとんでもなく上手い展開なんですよ。
なぜかと言うと、結末はベンが言ったセリフの通りにはならないからなんです。
実際は、そのあと旦那が会社に謝りにきて、「浮気してごめん、君を愛してる、会社を頑張れ、サポートする」的なセリフを言って、最後アイラブユーで抱き合ってハッピーエンドという、感動的ではありますが比較的あっさりした終わり方をします。
もちろん、ジュールスが旦那さんや娘のことを大好きだという描写もあったし、旦那が決して悪いやつじゃないという描写もありました。
わかるんです。一定の納得感があり理解できるのですが、ジュールスは出社した時点では、旦那のことはいったん置いておいて、とりあえず会社は自分がやるぞ!という方向に舵を切っていたはずなんですよ。
でも、いざ目の前に旦那が現れて、面と向かって謝罪されると、許してしまうんですよねぇ。まぁわかりますよ。だって好きなんだもんね、旦那さんのことが。
これまでの価値観で言えば、結末はベンのセリフ通りになるでしょう。強い女性が仕事をとって、旦那(家庭)を捨てるということです。
もしくは、仕事を捨て、愛を取るか。
しかし、マイ・インターンの結末はそうなりません。
描かれるのは、強い女性でも、弱い女性でもない
この映画では、最終的に女性が仕事も家庭も両方とっています。
ぼくが先進的だと感じたのは、夫婦が共働きではなく、旦那は引き続き専業主夫をやりそうな結末になっていること。
これって男女の立場を入れ替えたとしたら、けっこう叩かれる結末だと思いますよ。女性差別だーって。
ふつうに考えたら、ジュールスは会社を続けて旦那さんも自らのキャリアを再度歩みはじめる、といった共働きの落としどころになると思われるところを、遥か突き抜けて専業主夫を肯定する、びっくりな結末になってしまっています。
意外な結末を受け入れさせる、秀逸なストーリーがあった
旦那がキャリア断念で専業主婦継続という、一見、乱暴な結末に思える本作シナリオ。
しかし、これを受け入れやすくさせるためのストーリー運びが異常に秀逸だったと思います。ここまで書いておきながら、僕も最終的に納得しちゃってますからね。
まず、夫には「浮気した」という咎がある。
これが結末を受け入れやすくさせるための、ひとつ目の理由。
もうひとつが、まさにさきほどお伝えした、ベンのセリフ。
視聴者の気持ちをベンが先回りして代弁しておくことで、クライマックスに向けていったんガス抜きさせているんですよね。観ている側の気持ちとしては、ベンが気持ちを代弁してくれたことで、ひとまず溜飲が下がるわけです。
さらに言えば、娘がいる設定にしたのも計算されています。旦那と二人暮らしだと「浮気する旦那となんて離婚しちゃえ!」という意見も出やすいですからね。そうならないための、設定が実にうまい。
みんなが幸せになるための最適解=ジュールスが経営者を続けて夫がイクメンを継続
となるように、緻密に計算されています。
「働く妻のために、仕事を捨てた夫」という、そこそこ火種になりそうな価値観について表現されているにも関わらず、多くの人の感想がHAPPYで終わっているのは、シナリオの完全勝利という他ありません。
観客の感想を見事にコントロールしていたという意味で、こんなにうまいシナリオを観たのは、いつ以来でしょうか。これはDVDが出たら、ぜひとももう一回見たい映画だと感じました。いやぁ、映画って本当にいいもんですね。