公認心理師や臨床心理士は、自らの資格を用いて私設相談臨床という形で開業カウンセリングオフィスを運営することもできます。その場合、これまでの経験や知識などを用いて臨床を行っていくため、いきなり開業は難しいですが、経験を積み重ねていくことでそのような自営の形も取ることができます。
以上のように、公認心理師や臨床心理士という資格は非常に横断的な資格で、 医療・教育・産業・福祉・司法といった様々な領域で経験し、活躍することができ、さらには開業して自分のオフィスを開くこともできるという幅広い側面を持っています。このように自由度が高く横断的な資格として元々あった臨床心理士資格に加え、公認心理師という国家資格ができることで、今後どのように活かされていくのでしょうか。もちろん、十分な経験や知識を持たずに悪用するような人が出てくる危険性はありますが、それ以上に公認心理師国家資格が、今後日本において心理学の発展や国民の健康につながっていくことが期待されます。
1.医療領域での公認心理師の役割
医療領域(病院やクリニックなど)
医療領域(病院やクリニックなど)での心理臨床は、これまで臨床心理士がその役目を担ってきました。2018年に公認心理師が生まれることで、臨床心理士がいなくなることはありませんが、公認心理師も臨床心理士がこれまで行ってきた業務を担っていくものと考えられます。
日本では国民皆保険制度と言われるように、全ての国民が健康保険証を持っており、「保険診療の手引き」に書かれている医療行為に応じた保険点数によって、医療が成り立っています。現在は「保険診療の手引き」に専門職として「臨床心理士」とは書かれておらず、「臨床心理技術者」と書かれていますが、その部分が公認心理師誕生後、どのようになっていくかはまだわかりません。もし「公認心理師」とのみ書かれた場合には、公認心理師のみが心理検査などを行った際に保険点数がもらえるようになるでしょう(現在、臨床心理技術者では、カウンセリングに対して保険点数は設定されていません)。そこに「公認心理師」も「臨床心理技術者」も両方書かれるようになるかは、2年おきの診療報酬改訂次第ですので、一体どのようになるでしょうか。
現在の医療領域で働く臨床心理士は、「患者さんへのカウンセリング」「患者さんの心理アセスメント」「集団精神療法(精神療法は心理療法とほぼ同義)」「デイケア・ナイトケアスタッフ」などが主な仕事になっています(病院やクリニックによって異なります)。
2.教育領域での公認心理師の役割
教育領域(スクールカウンセラーや学生相談室など)
教育領域(スクールカウンセラーや学生相談室など)での心理臨床は、これまで臨床心理士がその役目を担ってきました。2018年に公認心理師が生まれることで、臨床心理士がいなくなることはありませんが、公認心理師も臨床心理士がこれまで行ってきた業務を担っていくものと考えられます。
今後、公認心理師もスクールカウンセラーになるための要件に可能性が考えられます。スクールカウンセラーはそもそも臨床心理士が築き上げてきた職種です。ですが、関東関西の中心部など都市部以外では、臨床心理士だけではまかないきれていないのが現状です。臨床心理士と公認心理師のいずれもが、今後スクールカウンセラーとして採用されるための要件になるのではないでしょうか。
3.産業領域での公認心理師の役割
産業領域(企業内のカウンセリングや外部EAPなど)
産業領域(企業内のカウンセリングや外部EAPなど)での心理臨床は、これまで臨床心理士と産業カウンセラー、シニアカウンセラーなどがその役目を担ってきました。まだまだ産業領域において、カウンセリングが十分浸透したとは言えず、2015年の12月に始まったストレスチェック制度のほか、国家資格としての公認心理師が生まれたことで、産業領域での活性化が望まれます。
企業という文化の中に、直接的に経済が潤うことのないカウンセラーが配置されることはなかなか難しいのですが、うつ病や企業内の人間関係の不和などによって、企業が受けている経済的損失は莫大な額になっていると考えられます。そのような観点から、公認心理師国家資格がさらに活躍する領域として、産業領域を考えていくことができるのではないでしょうか。
4.福祉領域での公認心理師の役割
福祉領域(児童相談所や障害者福祉施設など)
福祉領域(児童相談所や障害者福祉施設など)での心理臨床は、これまで臨床心理士や無資格の人、その他福祉系の資格を持つ人によって担われてきました。福祉領域は、医療領域以上に金銭的に困窮している領域ですので、公務員として任用されている方はともかく、なかなか公認心理師や臨床心理士などの心理職にお金をかけることが難しい側面もあります。また、産業領域のように経済的損失を減らすために心理職を雇用するという形も取りづらいため、公認心理師国家資格ができた際に、心理職として福祉領域にどのように関わっていくのがいいのでしょうか。
今後、公認心理師国家資格ができることによって、福祉領域でもさらなる心理職の活躍が期待されます。
5.司法領域での公認心理師の役割
司法領域(家庭裁判所や少年院、少年鑑別所など)
司法領域(家庭裁判所や少年院、少年鑑別所など)では、家庭裁判所調査官や法務教官、法務技官などに、臨床心理士が任用されている例があります。司法領域も臨床心理士の活躍する領域としてはどちらかというとマイナーですが、非行少年少女の教育やケア、犯罪加害者の再犯防止や犯罪被害者のケアなど、公認心理師や臨床心理士などの心理職が活躍できる余地は十分にあると思われます。警察においても、青少年課などで臨床心理士が子どもに関わることがあります。
今後、公認心理師国家資格ができることによって、司法領域でもさらなる心理職の活躍が期待されます。