ゴミログ

あの千葉大学の学生です。

学生がアパートの大家と全力でバトルして敷金を全額取り返した話

みんなおはエコ!ゴミクルーン(@DustCroon)です。

今日は借りていたアパートの大家から敷金を全額取り返した話をします。

 

全額、といってもたかだか3万程度の話なのですが、「敷金 返還」などで検索してみても敷金を全額取り返したというケースは多くはないようなので

これから新年度に向けて退去、あるいは入居を考えている方などへの参考になれば幸いです。

  

退去に至るまでの経緯

【登場人物】

ゴミクルーン…僕。千葉大学に在学し千葉で3年間一人暮らししていた。春から法科大学院生。法曹の卵(受かるとは言っていない)

・大家…優しいおばあさん。直接の面識はなく、一度家賃を払い忘れた時に電話が来たくらい。でも怒らずにこちらの体調を気遣ってくれた仏(だと思っていた)。

大家の息子…おっさん。自称このアパートの原状回復部門担当。

・仲介業者…そこそこ大きい不動産会社。 このアパートは仲介のみで、管理はしていなかった。

店長…仲介業者の店長。

 

【時系列】

平成28年某月某日…自宅からの通学に限界を感じ、アパートを借りる。家賃3万5千円、敷金1ヶ月分で契約。築30年over、住民も(僕含め)色々とアレ。

平成30年某月某日…契約更新。契約書に特に変更点はなし。

 

平成31年1月19日…管理会社に出向き、同年2月20日付で解約・退去する旨を通知*1。担当者が大家にその場で電話をかけるも出ないため、後ほど連絡するとのことで、この日は終わり。

2月1日…1月分と2月分の家賃(前月27日振込だった)の振込がないと大家本人から連絡を受けて、1月分の家賃と2月分の日割り家賃*2を振り込む。

 この時、大家から「退去の話は管理会社から聞いたが、大家にも書面で連絡して欲しい」旨を言われたが、こちらが「契約書では管理会社に通知すればよいと書いてあるがそれでも必要か」と尋ねたところ、それならば書面での連絡は不要との回答。

 家賃を払い忘れてたのはこれで2回目だったが、特に文句を言われることもなく、卒業おめでとうございますと言われて終わり。この後激しく揉めるとは知る由もなかった…。

 

 

第一話 大家、襲来

 時は2月8日夕方。春休みにアメリカに旅行しに行く友達と飲んでいたら、大家の息子を名乗る人から電話が来ました。約40分もダラダラ話してきたのですが、要約すると

・家賃は2月分も1ヶ月分支払え

・そもそも解約通知を書面で出せと言ったのに届いてない

・家賃もまともに支払えない、退去の連絡もできないような人間が春から社会人とか終わっている(マジで言われた)

・え?法科大学院に入る?ふ〜ん…なおさら終わっているね(これもマジ)

・隣人から騒音で度々苦情が来ていた

・隣人から騒音で苦情が来るような人間が法科大学院とか終わっている(嘘みたいだけどマジ)

 

 それまで大家とは良好な関係を築いてきたと思っていたのでビックリ。

 アルコールを体内から一瞬で抜き、契約書を必死に思い出しながら

・日割り計算は契約書に規定されている

・退去は管理会社に書面で提出する旨が契約書に規定され、その通りに通知したし、大家にもこの話は伝えてある

・というかお前みたいな契約書もまともに読めない人間が社会人なのも終わっているのではないか(と言いたかった)

・契約書と法律でボコボコにしてやるからな(と言いたかった)

・こっちもうるさかったかもしれないけど隣人もうるさかった(これは言えた)

・そもそもそんなに音が漏れるアパートにも問題があるのでは(これも言えた)

 と反論しました。

 

 さすがにこちらが契約書に基づいて色々反論したので、息子もそれ以上文句は言ってきませんでしたが、「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然だろ、老婆心で若者に色々と教えてやってるのに…」とかボヤいてました。

 はあ〜〜〜????本当に親も同然の大家ならば、たかだか1万程度の日割り分の家賃でゴタゴタ文句を言うかよ。まあ、これでアパートだけでなく大家の考えも古かったというオチがついたというわけですね。

 

 そしてその後、息子が「明渡しは私がしっかり確認して、借主がどれくらい負担するのかを決めるから」というので

こちらは「では、こちらも、法律と契約書に則って検討します」と答えたところ

「20万も30万も取ってやろうってわけじゃないのに!大家に感謝はないの?3年間も貸してあげたのに、そういう言い方はどうなのかね〜」と捨て台詞を吐かれて終了。

 しかも電話の向こう側には大家本人もいるとのことで、おばあさんもグルでした。裏切ったな…僕の気持ちを裏切ったんだな…!

 

 

よろしい、ならば戦争だ

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 気持ちよく退去できると思った矢先に、大家側からのいきなりの宣戦布告。というより布告無しでの奇襲じゃん。

リメンバー・チバ、目指せ敷金全額返還。この時大家との全面戦争を開始することを決意します。返ってきた敷金でアメリカで豪遊してやるからな。

4年間の法律学習の集大成は、大家からの敷金返還に注ぎ込まれることになりました。

 

 

第二章 見知らぬ、ガイドライン

 まずは、帰宅してすぐに契約書を確認します。すると、原状回復規定として

・本契約が終了と同時に、借主は本物件に設置した造作その他の設備及び借主所有の物件を自己の費用を持って収去し、本物件を原状に復してこれを貸主に明渡しするものとする。

・原状回復に関しては、貸主又は貸主の指定するものが必要と認めた修理又は取り替え、張り替え等を行うものとし、その費用は借主の負担とする。

とともに、特記事項として

・退去時のハウスクリーニング代及び故意過失の汚損破損は借主負担とし敷金相殺にて支払う。

との記載がありました。

 

 ハウスクリーニング代の相場をググってみるとワンルームでおおよそ15,000~30,000円前後

 なるほど、大家側は汚損破損が見つからなかったとしても、ハウスクリーニング代を理由に敷金返還を拒むだろうと予測されます。

 実際、友人たちからも、退去時にハウスクリーニング代として敷金の半額〜全額が相殺されたという話を聞きました。

 

なんとかできないものか…調べていくうちに、あるヒントに辿り着きます。

 

借主のリーサル・ウェポン原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

 

 そもそも、民法上、敷金は担保に過ぎない以上、使う必要がなければ返すのが原則*3です。

 例えば、壁紙が破けてるなど借主側に原状回復義務が発生している場合には、大家は借主にこれを直すよう請求することができ、敷金を使うことができます。

 しかし、この原状回復義務とは、借りる前の状態にすべて元に戻さなければならない、というわけではなく、通常の使用で生じた損耗や経年劣化を除いたもののうち、借主が原因である損傷に限定*4されています。

 要するに、借主がそこで生活を営む以上、どうしても発生せざるをえないキズならば大家が負担する、というわけです。

 例えば、タバコのヤニで発生した壁紙の汚れは借主負担ですが、冷蔵庫などの熱を持つ家電を設置してできた壁紙の黒ずみは大家負担という感じです。

 

 ちなみに、なぜこのような考え方を取るのかというと、借主が毎月支払う賃料の中には、既に通常使用の損耗や経年劣化による費用も含まれていると考えるからです。

 つまり、退去時にこうした費用が改めて請求されるとなると、借主は二重の負担を強いられてしまうことになる、というわけです。*5

 

 もっとも、何が通常の使用で生じた損耗や経年劣化に当たるのか、というのは非常に難しい問題です。

そこで、国土交通省のもとで数多もの裁判例を集積・分析したものが、このガイドラインです。

平成8年から2度の改定を経て、借主としては非常に頼もしい武器となっています。

  

 ガイドラインは170ページに渡り、色々と書いていますが、基本的な考え方としては以下の通りとなっています。

・アパートの設備(壁、床など)は6年か8年で価値が1円となるように計算する

例えば壁紙を故意に汚してしまったような場合であっても、壁紙を新品にしてから3年が経過していた場合には、借主の負担は50%程度になる

・賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものガイドラインでは「A」とされている)大家負担が原則となる

・賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものガイドラインでは「A(+B)」とされている)発生・拡大部分について借主負担が原則となる

・賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるものガイドラインでは「B」とされている)借主負担が原則となる

・最新の設備への交換など、原状回復ではなく、価値を増大させるような修繕等ガイドラインでは「A(+G)」とされている)大家負担が原則となる

・原状回復は、損傷箇所に限定させる

・これらの原則に反した特約を設定する場合には、以下の要件を満たす必要がある

1 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

2 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

3 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 

 そこで、今回のハウスクリーニングの規定について考えてみましょう。

・退去時のハウスクリーニング代及び故意過失の汚損破損は借主負担とし敷金相殺にて支払う。

 まず、この「ハウスクリーニング」が、専門業者が実施するハウスクリーニングを意味するのであれば、退去時に通常の清掃が行われていた場合には、原状回復ではなく、価値を増大させるような修繕に当たるため、大家負担が原則です。そのため、原則に反した特約ならば、先述の3つの要件を満たす必要があります。

  しかし、この文言と今回の契約書だけでは、要件2の「賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識している」かどうかが判然としません。

 実際に、ガイドラインでは、この要件2を満たすために、契約書とは別に原状回復についての説明書を用意し、これにサインさせること*6が望ましいとされていますが、

 自分の契約の際にはこのような書類は渡されることはありませんでした。

 さらに東京都の場合には、条例でこのような説明をすることが義務付けられたりするんですが、ここは千葉県なので用意されていなかったみたいです。

 

 そもそも、この「ハウスクリーニング代」が専門業者の実施を意味するものなのかどうかという点も微妙です。*7

 判例を見る感じでも、「専門業者」の文言があるか、なかった場合には具体的なクリーニング費用が併記されている場合に、専門業者による実施を念頭に置いたものと解釈されることが多いみたいですが*8今回はいずれの記載もありません。

 

 要するに、今回の契約書の文言から大家がハウスクリーニング代として敷金返還請求を拒んだ場合には、僕が勝つ見込みが十分にあると踏みました。

 

 さらに、実際に法的手続きに至った場合の費用についても考えてみます。 

 まず、大家の息子の言動から、法律の知識は皆無と見受けられたことと、大家本人が明渡しに立ち会えないくらい高齢であることから、実際に法的手続きとなった場合には大家が弁護士に依頼することが考えられますが、大家側が弁護士を代理人として立てると、弁護士費用だけで大赤字になることが予想されます。

 仮に、簡易裁判所*9で訴えを提起し、大家側が息子を代理人*10としたとしても、二審に入った時点で、大家側は弁護士を立てなければなりません。

 つまり、法的手続きに入った時点で

一審でゴミクル勝訴→大家が控訴したとしても弁護士費用で赤字

一審でゴミクル敗訴→僕が控訴すれば大家は弁護士費用で赤字

と、結果がどっちに転んでも大家が弁護士費用で損する展開というわけです。

 そもそもこちらは「本人訴訟で司法試験の勉強してみるか」くらいのノリなので、和解などするつもりは毛頭なく、徹底的にやる気満々です。負けても勉強代として高くはないくらいにしか考えていません。

 ということで、最初から裁判上等敷金返還夜露死苦というスタイルで明渡しに臨むことにしました。

 

 ちなみに、騒音について契約書の特約に

・騒音などの入居者のトラブルは入居者間で解決する事。

という条項も見つけました。

 隣人の騒音を大家に言わなかった僕のほうが契約守っているじゃん、というか親のくせに子供同士で解決しろとは一体どういうことなのでしょうかねえ…

 

 

第三章 仲介業者、逃げ出した後

 一通りの戦略が整ったところで、仲介業者に電凸します。

・大家の息子を名乗る人物が契約書に違反した家賃の支払いを要求してきたこと

・その他にも契約書に違反する要求を受けていること

・大家ではなく、大家の息子が退去の立会いをすると主張していること

・そもそも大家の息子は今回の契約で全くの無関係な人間では?

ということで、明渡し当日に仲介した業者も立ち会うことを要求しました。

 別に必要というわけではないのですが、一応その場に当事者以外の第三者を用意したいというのと、仲介業者がいれば大家側への抑止力になるんじゃねくらいの期待です。

 

 すると、仲介業者の子会社で原状回復部門が存在し、そちらを利用することもできたが、大家が利用することを拒否したので業者は一切立ち会えないとの返事。

ちなみに利用料は1万円くらいらしいのですが、それすら使わないってどんだけケチなんだ。

 

 しかも、退去については、僕が仲介業者に退去の用紙を渡したあと、仲介業者側が大家にFAXで送ろうとしたところ、大家の家にFAXがなかったため、郵送することになったが、郵送するのを仲介業者側が忘れていたというマヌケな話でした。

 

 もう本当に登場人物どいつもこいつも全員悪人って感じですが、電話口で「はあ〜〜〜〜〜〜◯◯さんたちがミスらなければこんなことにならなかったのになあ〜〜〜〜」騒いだら仲介業者の店長が来てくれることになりました。僕も悪人です。

 

  

第四章 決戦、敷金3.5万を返せ

 

 さて、明渡し当日の日がやってきました。

 電話口での大家の息子の話し方からして、いかにもな老害という感じが予想されたので、こちらは両親を連れて行くことにしました。

 特に我が父は某某庁某某某某某というお固いところに勤務、好きな番組は噂の東京マガジン、口癖は「最近の若いやつは〜」という汎用人型決戦老害と言わんばかりのキャラクターです。

 自分もとっくに成人しているので、あまり親を使いたくはありませんでしたが、目には目を、歯には歯を、老害には老害をという戦法です。

 

 そして、予定時刻の10分前、大家の息子がやってきました。

 ところが、その時その場にいたのは僕だけ。

 両親はどこかに散歩に行ってしまいました。これだから年寄りは…

 しかも、大家の息子は当日も強気に出てくるかと思いきや、「今日はわざわざありがとうございます〜」と無駄に低姿勢。

 なぜその態度で電話に出れなかったのかと突っ込みたいところですが、こちらも低姿勢にならざるを得ません。僕は善良な若者なので、丁寧な対応をされると強気に出れないのです。

 「住んでいて気になるところとかありましたか?」とか「それでは一緒に確認していきましょう」とかもうとにかく丁寧。

 しかも、仲介業者の店長まで到着してしまって、完全になごやかな雰囲気になってしまいました…まずい、これではまずいぞ…

 

 「いやいや、おたくどちらさん?」

 なごやかな雰囲気を全力でブチ壊しにかかったのは、帰ってきた我が父でした。

 「大家ですけど…」

 「いや、大家はおばあさんなんでしょ?だからおたくどちらさん?」

 「大家の息子です」 

 「本当に?証拠は?名刺でも出してよ」

 「あなたこそなんなんですか!」 

 「借主の父親だよ!!」

  なんというか、総武線でよく見る車内トラブルみたいな光景が目の前で、というか自分の借りてた部屋で繰り広げられていました。

 

 「ちょっといい加減にしてください!」

  この言い合いを止めたのは店長でした。

 「今日は原状回復の確認のための立会いなんですから、まずそちらを優先してください!」

  まあ、店長は周りの不手際に巻き込まれて駆り出された被害者だから、そりゃそう言いたくなりますわな…

 「そうですよ、店長さんは今日ボランティアで呼んで来て頂いたんですから、まずそれに感謝しないと」 

 「いや、呼んだのはお前のせいだよ」 

 

  正直、ドリフのコントかよって感じで、の存在が薄くなってきてしまったので、ここらで一発ジャブをかましておきます。

 「その原状回復についてですが、こちらとしては国土交通省ガイドラインで貸主負担とされているものについては負担しませ「君は黙ってろよ!!!!」

 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????!!!!

 この場で一番の当事者は僕だよ?家賃も敷金も全部自分で払ってたんだよ???なんで僕が黙らなきゃいけないんだ???

 しかし、ここで黙るわけにはいきません。無視して話を続けます。

 「床にできた家具の設置跡についてはガイドラインで貸主負担とされてるので、負担しません。あと契約書でハウスクリーニング代は借主負担とされていますが、専門業者による実施とは書かれていないですし、見ての通り通常の清掃は実施したので、専門業者が実施したとしても負担しません。」

 オタク特有の早口で場を制しました。

 「いや、私も30年以上大家やっているけど、修繕費やハウスクリーニング代を借主が負担しないなんておたくらが初めてだよ?次に借りる人だって気持ちよく借りたいでしょ?」

 「つまり30年以上もの間、借主から搾り取っていたってことですよね〜。次に借りる人が気持ちよく借りてほしいなら大家が修繕費やクリーニング代を出せば良いんじゃないですか?3年間ずっと賃料だってもらってたでしょ?」

 「…。」 

 一気に形勢逆転。気分は完全にリーガル・ハイです。この4年間で一番「法律勉強しといてよかった〜!」と思った瞬間でした。

 

 その後、こちらが事前に用意していた原状回復の立会いチェックリストに確認の上で、サインするよう伝えると

 「そんなおたくらの態度でサインなんてできるか!そんなにガタガタ騒ぐなら裁判でも起こしてみろよ!息子さんのいい勉強になるだろ!」

と拒絶。このチェックリストは国土交通省ガイドラインにも添付されているもので、この場できちんと確認してサインしたほうが大家にとっても有利になるはずなのですが、サインしないならそれはそれでオーケーなので

 「え〜〜〜〜〜〜!じゃあ訴えますわ〜〜〜〜〜〜!」

 「やったな!いい勉強できるじゃん〜〜〜〜!!!」 

と言っておきました。まあ本当にいい勉強だと思っているので。

 

 もうダラダラ話しててももったいないので、店長に鍵を渡して撤退することに。

 そして帰り際に、「最後だから言っておきますが、この前の電話で僕の部屋の音がうるさいと苦情が来ていたとかおっしゃっていましたが、契約書には「騒音トラブルは入居者間で解決すること」って書いてあるんだから、大家に苦情を入れる入居者の方が間違っていますよね?どうして契約書のルールを守って、最後まで我慢していた僕が責められなきゃいけないんですか?というか契約書ちゃんと読んでますか?ねえ?ねえ?ねえ〜〜〜〜????」

 「いや契約書とかは関係なく、隣人から苦情が出るような音を出すことに問題があるのであって…」

 「え〜〜〜〜じゃあ隣人の咳すら聞こえてくるような壁の薄い建物には問題がないんですか〜〜〜〜〜????」

 「その話は原状回復と関係ないでしょう!!!」

  「そうですね〜〜〜〜なので敷金1ヶ月以内に全額返してくださいね〜〜〜〜よろしく〜〜〜〜!」

 グッド・バイ。呆然と立ち尽くす大家の息子と店長を尻目に、3年間過ごした部屋から立ち去りました。

 こうして書き起こしてみるとこっちの方が悪質なクレーマーなんじゃないかって感じですが、言いたいことを最後にちゃんと言うのは大事です。もう会わないかもしれないしね。

 

 こうして、アパートの明渡しはまさに修羅場という感じに終わりました。

 しかし一番の修羅場は帰り道、インターネット上での僕クルーンを一切知らないはずの父が「最近はインターネットのSNS?とかいうので炎上させるのは流行っているんだろ?あのアパートをネットで晒して炎上させちまえ!」と言ってきたことでした。そういうのはよくないエコ

 

第四章 最後の請求

 一応、契約書によれば敷金は明渡し後1ヶ月以内に返還するとのことだったので、1ヶ月間、特に動きがなければ訴えることになるのかな〜とか考えていたのですが、意外にも1週間後には仲介業者側から連絡がきました。

 「大家がハウスクリーニング代以外は請求しないことになりました。」

 …お?大家側が譲歩したように見せかけている雰囲気でしたが、ハウスクリーニング代でかさ増しされれば結局変わらない可能性もあります。

 そもそも、どうしてハウスクリーニング代のみを請求することにしたのでしょうか。

 というのもハウスクリーニング代を請求するよりも、床のキズ等を借主の故意過失だと主張したほうが、大家的には勝ち目がありそう*11な気もします。

 まあ、契約書の文面は仲介業者側が用意したものだったとのことだったので、おそらく仲介業者側がハウスクリーニング代を請求できることに自信があり、大家を説得したのかもしれません。

 とはいえ、ここで少しでも譲歩すると不利になりかねないので、改めて反論しておきます。

  「前にも言いましたが、契約書に「専門業者がやる」とは書いてないですよね?それなのにどうして請求できるんですか?」

 「確かに「専門業者がやる」とは書いてないですが、「借主本人がやる」とも書いてないからです。」

  「じゃあ誰がやるんですか?」

  「専門業者です。」

 もうどこから突っ込んで良いのかわからなくなったので、「じゃあ大家の言う通りに裁判起こしますとお伝え下さい」と言って切りました。

 

 

第五章 All/しききんを、君に

  大家側がその他の修繕費の請求を放棄しハウスクリーニング代のみを請求してくるとなると、かなり終わりは見えてきました。

 ハウスクリーニング代はかかったとしてもワンルームで3万円前後。とすれば、大家側が弁護士を立てたとしても費用倒れを起こすことが確実になったからです。

 そして、件のハウスクリーニング特約の文言を仲介業者側が事前に作っていたものであるならば、同様の被害者は多数いるはずなので、その有効性について争うことにも、それなりに価値がありそうです。

 もっとも、あの明渡し時の小競り合いだけで、(一応は)ハウスクリーニング代だけに譲歩してきたのならば、支払督促立てるだけでも全額返してくれるかな〜とか色々考えている内に、またもや仲介業者側から連絡が来ました。

 

 「大家はハウスクリーニング代も請求しないことになりました。敷金は全部返すとのことです。」

 

 こうして、約1ヶ月に渡る小さな戦いは幕を閉じました。

 

 

まとめ

 正直、ブログのネタ的には、裁判までやったほうが面白かったのかなという感じですが、敷金が全部返ってきちゃった以上、裁判の起こしようがないので、これで終わりです。ラスベガスのカジノでたくさん遊べます。

 

なぜ敷金は泣き寝入りのケースが多いのか…敷金トラブルの本質的な問題

 実際トラブルに遭ってみて痛感したことは、「敷金は返ってこないものだ」と考えている人たちが大多数だということです。

 大家だけでなく仲介業者すらも、敷金返還でここまで騒いだ人は初めてだったらしく、僕を完全に「ヤバい奴」という目で見ていました。

 この考えを蔓延させる一つの原因は「敷金トラブルで弁護士に依頼したとしても費用倒れを起こすリスクがある」ことです。

 今回、僕が強気の対応を取れた理由に、仮に訴訟提起に至ったとしても、大家側の戦力からして、弁護士費用で費用倒れになることが予想できたことが挙げられます。

 しかし、これは逆に、もし、借主である僕が、弁護士に頼んだとしても、その費用だけで費用倒れになる危険性があったということでもあります。

 実際に弁護士費用としてどの程度かかるのかと言いますと、1時間の相談だけで5000円〜1万円程度(無料で行う弁護士もいる)、正式に依頼した場合には着手金として10万円程度(事案によっては無料で行う弁護士もいる)がかかると言われています。

 そして千葉県の家賃なんて、ましてや学生が借りるような物件であればなおさら、たかが知れているので、大家も借主も敷金で騒ぐなんて…と考える人は多いのかもしれません。

 実際、ガイドラインに添付されていた資料(P121〜参照)でも、敷金が満額返ってきたケースは全体のたったの約7%、半額まで返ってきたケースを合わせても約45%であるということを踏まえると、かなりの方が諦めているのではないでしょうか。

  

敷金返還関係のトラブルで入居者が気をつけるべきこと

 まず、トラブルが発生する前の前提としては、

・入居前に契約書、物件の状態等を確認し、必要に応じてやり取りの録音や写真撮影を行うこと

国土交通省の原状回復ガイドラインを把握しておくこと(その名を出すだけでも相手は警戒する)

・そもそも借りるものは丁寧にキレイに扱うこと

の三点に集約されると思います。

 というか一番最後が大事です。キレイに使っていれば大家も文句を言いません。

 

 そして、トラブルが発生してしまった場合、発生しそうな場合は、まずは弁護士に相談すべきです。

 素人が弁護士を使わずに、自分で対応してしまうということは、素人が医者を使わずに自分で手術してしまうくらい危険なことです。

 言うなれば、今回はたまたま医学部生が自分で手術したら成功したくらいの話です。それも医者になれるかわからないレベルの人間です。

 たしかに、弁護士に依頼すると費用倒れする可能性がありますが、無料で相談を受けてくれる方もたくさんいらっしゃるので、まずは相談するだけでも大きな助けになるはずです。

 

 

 

おわりに 

 じゃあなんで、僕が記事にしたかといえば、ブログのネタ的に面白かったってのもあるんですが、世間の借主と大家の不条理な関係に一石を投じたかったからでもあります。

 世の中には、僕が当たってしまった大家たちのように、「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」という考えを持った人間はまだまだたくさんいるはずです。

 もし、そういう大家に当たってしまったとしても、決して大家の言いなりになる必要はない、借主として権利を主張することは決して間違ってはいないということを知ってもらえたのであれば幸いです。

 

 大事なのは間違っていないということです。今回、僕が借主として正しかったのかなんて知りません。というか普通にタチの悪い借主だったと思います。さんざん友達呼んで飲み会したり、部屋に傷とかもたくさんつけていたので。

 ただ、こちらが持っている借主としての権利で大家を殴ったら敷金が返ってきた、それだけです。

 「敷金くらいで争うなんて…」と考える方はそれはそれで良いと思います。

 しかし、「敷金はもしかしたら返ってくるかもしれない」ということを知ってもなおそう考えるのか、知らずにそう考えてしまうのかは大きな違いがあると思います。

 

 これからアパートを出ていく方、アパートを借りる方は、是非敷金について、一度考えてみてはいかがでしょうか。

 もし、この記事がきっかけで敷金が少しでも返ってきたとかがあれば、ぜひご連絡ください。そしてそのお金で焼肉をおごってください。

 

 

 

*1:契約書では借主側からの解約は管理会社に通知し、管理会社が大家に連絡する旨が規定されていた

*2:契約書で日割り計算と規定されていた

*3:改正民法622条の2で明記

*4:改正民法621条で明記

*5:最高裁平成17年12月16日判決参照

*6:http://deguchi.gyosei.or.jp/saiban/bepyo3.pdf

*7:東京地裁平成21年5月21日判決(ガイドライン事例33)は、特約に「専門業者のハウスクリーニング代を(借主が)負担するとの記載があることを挙げて、専門業者による実施が一義的に明らかとした。一方で、東京地裁平成21年1月16日判決(ガイドライン事例30)は、「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約は、一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えないと判断したものと考えられている。

*8:この点の全体の考察については、右記の文献参照 http://www.retio.or.jp/attach/archive/80-096.pdf

*9:請求金額が140万円以下の場合に用いられる裁判所、一審が簡易裁判所の場合には、二審(控訴審)は地方裁判所、三審(上告審)は高等裁判所と移行するのが原則

*10:民事訴訟法54条で、簡易裁判所に限り、弁護士以外も代理人になることができる場合がある

*11:実際、他のブログなどを見ても、ハウスクリーニング代よりもキズ等で争うケースの方が多く見受けられ、その場合、証拠能力などの点(例えば写真は加工が容易であり、そもそも別の部屋の写真を使われるリスクもある)でも事案がややこしくなりがち