安倍晋三総裁(首相)は自民党大会で憲法改正への意欲を重ねて示したが、統計不正や児童虐待など急ぎ対応を要する問題は山積している。改憲よりも優先すべき課題が本当に見えているのか。
きのう東京都内で開かれた自民党大会は、さながら四月の統一地方選や夏の参院選に向けた総決起集会という趣だった。
今年は十二年に一度、この二つの選挙が重なる亥(い)年。ましてや安倍氏は同じ亥年の十二年前、参院選で惨敗して首相退陣に追い込まれており、今年は雪辱を期す「政治決戦の年」なのだろう。
安倍氏は統一選について「地方の力こそ自民党の力の源泉。力を合わせて勝ち抜いていこう」、また十二年前の参院選惨敗に言及して「政治は安定を失い、悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない。厳しい戦いになるが、私は戦い抜く先頭に立つ決意だ」と強調した。
対立勢力をおとしめて支持を固めたり、広げようとする政治手法は対立をあおり、不毛な論戦に拍車を掛けるだけだ。特に権力の座にある者は慎むべきだろう。
そもそも悪夢と言うが、統計不正という悪夢は、旧民主党への政権交代前の自民党政権時代に始まり、自民党が政権復帰した第二次安倍内閣以降も長く続いた。
この期間の半分は安倍政権だ。安倍氏は党大会で「徹底的に検証し、再発防止に全力を尽くすことで責任を果たす」と述べたが、危機意識が足りないのではないか。
統計は政策の立案、遂行の基礎である。間違った統計に基づく政策なら、作り直さねばならない。すべてに最優先すべき課題だ。
安倍政権の経済政策には今、厳しい目が向けられている。野党側は、政府がいう高水準の賃金上昇が「偽装」だと指摘する。実質賃金が上がったと反論するなら、政府はデータを示すべきだ。出し惜しみは疑念を招くだけである。
安倍氏は「いよいよ立党以来の悲願である憲法改正に取り組む時が来た」とも述べた。九条への自衛隊明記など改憲への決意は不変ということなのだろう。
しかし、衆参両院で圧倒的多数という政治的資産は本来、改憲のような切迫性を欠く課題でなく、国民を長年欺いた統計不正を正したり、社会保障政策の充実や国家財政立て直しなど、政治力を要する課題に活用すべきではないか。
児童虐待の根絶も、政治の力を結集すべき困難な課題である。優先順位を間違えてはならない。
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