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【社説】

印・パの対立 核保有国に自制求める

 インド、パキスタン両国の武力衝突に拡大の懸念が出ている。なにより両国自身が核保有国であることを忘れてはならない。これ以上の対立は避けなければならない。双方に自制を求める。

 両国の緊張が高まったのは二月、領有権を巡る係争地カシミール地方で起きた自爆テロだ。

 インド側の治安部隊へ、この地方の分離・独立を求めるイスラム過激派が自爆テロを仕掛け四十人が死亡した。それを受けてインド軍が、過激派の拠点と見なすパキスタン側の山中を攻撃した。パキスタン軍がインド軍機を撃墜し、操縦士一人を拘束した。

 操縦士はその後、インド側に引き渡されたものの、航空機同士の戦闘は異例である。

 カシミール地方は一九四七年に英領から両国が分離独立して以来の係争地で、双方が領有権を主張し三回にわたり戦場となったが、いまだに確定していない。

 今回の衝突についてパキスタンのカーン首相は演説で、インドのミサイル攻撃を予期したと明かした。自爆テロから一気に緊張が高まっている。これ以上の報復の連鎖は回避しなければならない。

 インド政府は過激派対策をパキスタン政府に求めている。テロは両国情勢をさらに不安定化させる。実効性のある対策が必要だ。

 カーン首相は操縦士を解放しインドのモディ首相に対話を呼び掛けている。だが、インド政府は慎重姿勢のままである。

 両国の応酬の背景には国内事情があるようだ。カーン首相は昨年の総選挙で軍の支援を得て勝利したとされる。軍に対して弱腰と映る行動は取りづらい。

 一方、モディ首相の与党インド人民党はイスラムと対立する勢力の支持を受けている。総選挙を控え、いくつかの地方議会選で与党が敗れている。強硬姿勢を見せ支持回復を狙っているようだ。

 だが、このまま緊張が高まればさらに深刻な事態となる。両国は核開発を競い核弾頭やミサイルを持っている。しかも双方とも核軍縮を目指す核拡散防止条約(NPT)に未加盟のままである。

 日本政府は二〇一七年に、核物質や原子力関連技術の移転ができる日印原子力協定をインドと結んだ。平和利用に限られるというが、緊張が高まれば懸念の種でもある。

 国際社会は仲裁に乗り出す構えだ。日印の首脳はほぼ毎年、相互訪問を続け関係も良好である。日本は友好国として行動すべきだ。

 

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