第四話:暗殺者は忠告する
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翌日、俺は王都にあるゲフィス公爵家の別荘にやってきた。
一流どころの貴族たちは、王都に別荘を用意する。
公爵家だけあって、別荘だというのに立派なものだ。
茶会はその広大な庭で行われている。
武で名を馳せているせいか、この庭園には訓練場としての側面もあり、木剣を打ち合い、汗を流しているものたちもいた。
ここの集まっているもののほとんどは、若く才能がある貴族たち。
力と自己顕示欲を持て余した若者たちは、ただの茶飲み話では物足りないのだろう。
これだけの猛者が集まっているのだから腕試しをしたいという気持ちもわかる。
「もう、ルーグもタルトもどうしてぎりぎりまで起こしてくれなかったんだよ。おかげで、大慌てでメイクする羽目になったよ」
ドレスを身にまとったディアが恨めしそうにこちらを見る。
「ディアの寝顔が可愛くて見惚れていたんだ」
「あの、その、昨日、二人は愛し合っていましたし、ルーグ様とディア様の部屋に入っちゃだめかなって」
それはうれしい気遣いなのだが、気を遣うのであれば行為の最中に鍵穴から覗いたり、ドアに耳を当てたりしないでほしい。
俺はタルトの覗きに気付いていたが、それを注意するとディアが恥ずかしがって、そういうことをやる空気じゃなくなる。
他にも、タルトが覗きながらやっていることに俺が気付いていると知られれば、タルトも恥ずかしさのあまり、しばらく使い物にならなくなる危険性があった。
そのため気付かぬ振りをした。
ただ、ずっとこのままでいいわけでもないので、折を見てタルトに言おう。俺には見られて燃える趣味などない。
タルトがやっていることは、あまりいい趣味とは言えないし、タルトの教育係として止めさせねば。
「うっ、そんなこと言われたら、二人のこと怒れないよ」
タルトに見られていたことを知らず、ディアは平常運転だ。
もし、ディアが見られたことを知っていれば、こうはならなかっただろう。
「それにしても、ドレスを着たディア様はやっぱり可愛いです。妖精みたい」
今日のディアは可憐だ。
ディアは普段、魔法のことばかり考えていてお洒落をしないが、こうして着飾ると、誰もが見惚れるほどに美しい。
露出控えめで水色のドレスが良く映える。
パーティに参加している若者たちの眼を釘付けにしている。恋人として誇らしいが、害虫がつくのは避けたい。
「ありがと。タルトだって着飾ればもっと可愛くなるよ。ルーグ、聖騎士でお金いっぱいもらってるでしょ。タルトにドレス買ってあげなよ」
聖騎士の手当て金はかなり高額だ。騎士団長とほぼ同じだけの給金が払われている。
まあ、別にそんな金がなくても化粧ブランド、オルナ代表としての収入がその数十倍あったりするが。
万が一のことを考えて、その資金は海外も含めた各所に分散してプールしてある。
何かのトラブルがあって、ルーグ・トウアハーデとして生きられなくなっても、タルト、ディア、マーハ、それに家族を死ぬまで養うぐらいはできる。
「そうだな、ドレスを着たタルトも見てみたいし、取り寄せよう」
「そっ、そんなダメです。私、使用人ですし。それに、ドレスなんて似合わないですから」
「使用人がドレスを着てはいけないなんてルールはない。貴族の中には美しい使用人にドレスを着せて侍らせるものも少なくないよ。よし、決めた。次のパーティはタルトにドレスを着せよう。今のうちにムルテウのマーハに頼んで、タルト専用デザインにした最高級のドレスを手配してもらおうか」
そうやって手配したのがディアのドレスでもある。
これほどのドレスは名門貴族が集まる王城のパーティでもなかなか見られない。
単純に金を積んでどうにかなるものではなく、相応のコネや根回しがいる。
「あの、ほんとうに、もったいないです。私、美しくなんてないです」
「タルトは可愛いよ。王都でのパーティすら、タルトより美人の使用人はいなかった。何より、俺がドレスを着たタルトをみたい」
「うんうん、謙遜はよしなよ。タルトは可愛いいよ。それにおっぱい大きいし、おっぱい大きいし、おっぱい大きいから、色っぽいドレスが似合うよ」
「あははは、ありがとうございます」
おっぱいを連呼するディアにタルトが引きつっている。
ディアは胸にコンプレックスがあるし、ドレスを選ぶとき、一番気に入った胸元が開いたドレスを名残惜しそうにずっと見ていた。
そうこうしているうちに、庭の中央、ノイシュとその取り巻きがいるところにやってくる。
「よく来てくれたね。ルーグ」
「ノイシュが開くパーティに興味があってね」
嘘ではないが、本当でもないセリフ。
興味がなくはないが、俺の最大の懸念はノイシュではなく、彼の後ろで若い騎士たちに囲まれ、微笑を浮かべている妖艶な女性。蛇の魔族、ミーナにある。
まだ、若者たちは篭絡されてはいないようだが、ミーナの色気に当てられて、熱を上げている。
さきほどまでディアに見惚れて、遠巻きに見ながらついてきたものもミーナに意識がもっていかれた。
ミーナのほうが美人だというわけじゃなく、フェロモンの力だ。……これだから油断できない。
そのミーナがにっこりを笑いかけ、手を振ったので会釈する。ディアの俺に絡めている腕に力が入り、タルトが袖を強く引く。
そんなふうに、彼の背後を気にしていることに気付かず、ノイシュは俺の背中を押して、一段高い場所へと案内する。
「みんな、紹介するよ。僕の学友にして魔族殺しの【聖騎士】、ルーグ・トウアハーデだ」
その言葉で、このパーティに参加するすべてのものの視線が集まる。
その目に込められているのは憧れ。
若い男ばかりであり、彼らにはまだ純粋さが残っている。
政治や保身なんてものはなく、絵本の騎士を見る、そういう子供っぽい感情が俺に向けられている。
そういうノリが俺に求められているものだろう。
少々サービスをしよう。
……まあ、そんな中に微笑をしつつ、意味ありげな笑みを浮かべる女が一人いるがそっちは無視だ。
「紹介に預かった、ルーグ・トウアハーデだ。【聖騎士】に任命され、魔族と戦っている」
この中にいるものたちは俺より身分が高い貴族たちばかりだが、あえて普段の口調を選んだ。
ここで求められている役割は偶像。彼らは俺がへりくだることなど求めていない。短い挨拶なのに場の熱は上がっている。
「みんな、聞いてくれ。ルーグ・トウアハーデを呼んだのは、彼らに僕たちのことを知ってもらうためだ。……アウグイド騎士団、抜刀準備」
ノイシュの号令に合わせ、集まった青年たちが一糸乱れず整列する。
「総員、抜刀!」
「カロア、抜刀!」
「クルーシュ、抜刀!」
「ヤータラ、抜刀!」
「ホマリタ、抜刀!」
「クルルギ、抜刀!」
まるで波のように端から、名乗りと共に剣を抜き、胸の前で掲げぴたりと止める。
美しい所作だ。鍛え上げられた肉体で体幹がしっかりしているからこそできることだし、この所作を数千回繰り返したからこその無駄のなさ。
この場にいるもの全員が、かなりの技量を持つ剣士であることは間違いないし、いい師匠がいる。たぶんノイシュが手配したのだろう。
「我らアウグイド騎士団! この剣を世界の平和に捧げる」
ノイシュが最後にそう言って締める。
若い貴族たちの顔にあるのは自己陶酔。
……ああ、なるほど、そういうことか。
アウグイドとは、おとぎ話に出てくる理想の騎士。その名を冠するあたり、この騎士団に集まるものたちがどういう意識を持っているかわかる。
「ルーグ、これが僕の騎士団、アウグイド騎士団だ。ここにいるのは、王都に別邸を持つことが許された名門の子息と学園で見つけた家柄は良くないが僕が有望だと認めた才能あるものたちだ。彼らを束ね、ゲフィス家がスポンサーになり、国に第二の騎士団として認めさせたんだ」
大よそ事情は察することができる。
今、魔族の復活によって魔物の出現頻度が大幅に増していた。
本来、魔物は各領地が保有する戦力で対応しなければならないが、現実問題、手にあまる。そこで各地領地は国に救援を求め、騎士団が各地に派遣されているのが実情。
しかし、騎士団のリソースは有限であり、手が回り切っていない。
そのタイミングで、ノイシュが動いた。
ようするにまだ家を継いでおらず、なおかつ領地を人に任せ、王都に滞在しているようなボンボンたち。
もしくは領地を持たず、かといって学園を卒業しておらず騎士ではないため命令をできない、平民生まれの魔力持ち。
ノイシュは力を持つが使い道がないものを集めて使えるようにした。
しかも、金をゲフィス家が出すのなら中央が新たな騎士団の設立を拒む理由もない。
ましてや曲りなりにも勇者パーティの一員であるノイシュの発案だ。確実に許可される。
「この騎士団はまだ小さい。だが、いずれも力と情熱がある騎士ばかりで先日も大活躍したんだ。これからも実績を積み上げていくよ。いずれは、この国の正規騎士団すら超える力と名声を手に入れる」
……そして、その力を背景にしてノイシュは国を変えるつもりなのだろう。
おそらく、ノイシュ本人は他の者のようにおとぎ話の騎士様に憧れているわけじゃなく、自尊心の塊で力はある若い者たちをうまく操る方便に使っている。
いつの時代も正義や憧れというのは若者を操る便利な道具だ。
「それで、俺にもアウグイド騎士団に入れと?」
「そうは言わない。だけど、いずれ魔族が出現したら、僕たちは君と一緒に戦うことになる。だから、今日はみんなに君を紹介したかった。勇者が王都を離れられない以上、君こそがこの世界を守る切り札であり、僕たちの任務は君を助けることだ」
アウグイド騎士団の面々が誇らしげな顔で頷く。
魔族を聖騎士と共に倒した実績があれば、それこそいっきにアウグイド騎士団の名は上がるだろう。
うまくやれば本来の騎士団以上の発言権を得る。
ノイシュの考えはわかる。
だから、俺は友のためを思い言葉を選ぶ。
「必要ない。俺たちと魔族の戦いに首を突っ込まないでくれ。邪魔だ」
そう、もっとも彼のためになる言葉を。
空気とノイシュの表情が凍る。
こうなるとはわかっていた。それでも言わざるを得なかった。
こうでも言わなければ、早晩彼らは命を落とす。
嫌われたとしても、彼らが死ぬよりマシだ。
彼らはわかっていない、所詮彼らのやっていることは騎士ごっこにすぎないことを。
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