人手不足がいよいよ深刻な日本の農業 自動収穫・運搬ロボットが救世主となる

2019年2月22日


農林水産省によれば、平成22年からの8年間で農業就業人口は約85万人減少した。わずか10年足らずでじつに3分の2に減ってしまったのだ。65歳以上が占める割合も平成30年には68%にまで上昇した。

人手不足や高齢化に苦しむ日本の農業について「残された時間は少ない」と端的に表現するのは、農業ロボットの開発に取り組む深尾隆則教授(立命館大学 理工学部)だ。


「人手不足の進行は生産量の減少に直結します。10〜15年後には、農作物の市場価格が大幅に上がる可能性が高い。価格が安定して味もよい日本の野菜や果物は、10年後には気軽に買えなくなるかもしれません」(深尾教授)

農業の切迫状況を打開するべく、官民を挙げて急ピッチで技術開発が進められているのが農業ロボティクス、スマート農業の分野だ。

自動運転でキャベツを自動収穫 フォークリフトはコンテナを自動積載

深尾教授は、農業の中でもとりわけ労働集約的な「収穫」と「運搬」にフォーカスし、農業ロボットの研究開発に取り組んでいる。

農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)」に採択されている研究開発計画では代表を務め、キャベツの自動収穫や自動運搬の実現を目指す。

「技術を細かく説明するより、ロボットが実際に働く様子を見れば一目瞭然です。キャベツ自動収穫の様子をご覧ください」

「露地栽培のキャベツを自動収穫機で収穫している様子です。ヤンマーとオサダ農機が開発したキャベツ収穫機を自動化すべく、オサダ農機と共同で開発しました。
AIがキャベツを認識し進む経路を決定するので、運転手は不要です。収穫したキャベツをコンテナに自動で入れる機構も開発中です。
このトラクターでは、
①AIのディープラーニングによるキャベツ検出
②収穫のための経路生成・経路追従制御
③土壌面の検出
④収穫部の高さ制御
という4つの技術が実現しています。
自己位置の推定や環境認識には、GNSS(GPS)やカメラのほかに、光の反射を利用するリモートセンシング技術のLiDARが活用されています。
白菜やブロッコリーなどほかの露地野菜でも、収穫部のアタッチメントを交換するだけで自動収穫できるようにするべく、研究が進んでいるところです。ほかの野菜収穫機の自動化も同様な原理で可能になります」


収穫後、農作物の入ったコンテナをトラックに積み込む工程も自動化の対象だという。

「キャベツで満杯のコンテナを、フォークリフトでトラクターから下ろしてトラックに載せる。この工程もオペレーターが必要ですし、高価な収穫機を本来の用途に使えないアイドルタイムです。
そこで進めているのは、コンテナをトラクターからトラックへと人の操作要らずで積み下ろしするフォークリフトの開発です

LiDARで環境認識や自己位置推定を行って畑や集荷場をシームレスに自動走行し、かつ人工知能でコンテナやトラックを認識する仕組みになっています。豊田自動織機や長田電機との共同開発です」

果実栽培もロボット化。草刈りや薬剤散布の自動化が進む

農研機構に採択されたもう一つの研究計画でも、深尾教授はサブリーダーを務めている。研究テーマは果実生産のロボット化・自動化だ。

「カメラやLiDARで果樹園内の自己位置を推定し、決められた経路を自動走行する車両を開発しています。草刈機や薬剤散布機を牽引し、これら作業を自動化することが目標です。ディープラーニング技術でAIは木の幹を正確に認識し,幹の周りまでしっかり草刈りすることもできます。

樹々が非直線型に植えられていると農機の走行は難しいので、樹々が真っ直ぐ並んだ果樹園での使用が想定されています。一直線に並んだ樹々の間を農機が走り、農薬散布や草刈りを行うのです。
農機設計も、農機使用に適した樹形や栽培場所を前提としています。こちらはヤマハ発動機とオーレックとの共同開発です」


果実の自動収穫技術も著しい進展を見せている。

「農機使用に適した樹々の配置の中で昼夜を問わず、かつ果実に傷を付けないで自動収穫するロボットを開発しました。人工知能は周りの樹や草と区別するのはもちろん、果実の成熟度までも認識して適熟期のものだけを収穫します。デンソーとの共同開発です」

収穫から市場への運搬まで 全プロセスがロボット化する日も遠くない

ロボット化がもたらすであろう農業の将来像を、深尾教授は次のように語った。

「自動運転の農機で収穫された野菜や果物が、人の作業を介さずに集荷場や選果場に運ばれ、トラックに積み込まれる。トラックは隊列を組んで高速道路を自動運転で走り、大消費地に近い市場へと農作物を運ぶ。

このような農業のあり方が実現するのも、おそらくそれほど遠い未来ではないでしょう。ロボット化で人手不足という課題が解消されれば、おいしくて価格の安定した農産物はこれからも食卓に並び続けるはずです」


もちろん、農業ロボットが普及するための課題は決して少なくない。

「自動農機はまだ高価格で、小・中規模な農家は購入できなかったり、購入してもコストに見合うほど稼働させられないでしょう。大規模な農家でないと導入は難しいのが現状。農家の大規模化や、農家同士の協働は今まで以上に重要です。

同時に、私たちはより安価な農機の開発を目指しています。果実に関する研究計画のゴールの一つは、果実農家の収益性を大幅に向上できる技術体系を作り出すこと。2025年頃までに、自動走行車両は1台で250万円以下、自動薬剤散布機と自動草刈機はそれぞれ150万円程度での市販化が目標です。自動収穫ロボットも、自動走行車両や自動収納コンテナシステムと合わせて計600万円以下で市販化させたいと考えています」


農業に対する世間の人々のイメージも変わってほしいという。

「農業は『儲からない』と思われがちですが、品種や規模次第で利益率を高めることは可能ですし、大規模化するほど利益率は高くなります。食を支えるという意義も、言うまでもなく非常に大きい。
若年層やメーカー、ベンチャー企業などの幅広い方々に農業の魅力を知っていただきたいですね。スマート農業を実現させて、日本の農業を共に再興しましょう!」

長年叫ばれてきた人手不足と高齢化は、いよいよ抜き差しならない状態になっていた。だが、ロボットやAIの目を見張る発展はこうした課題が解決される将来を確かに予感させてくれる。
農業の未来予測が明るいものに一変する日もそう遠くないはずだ。

shiRUto 編集部

教育・研究から得られる知の数々が私たちや社会とどう関わっているのかを、ビジネス、テクノロジー、グローバル、ライフ、スポーツ、カルチャーの6つの視点で取り上げています。世界を、日々の生活をよりよくする、明日のビジネスを考える、新たなイノベーションを起こす、そんなきっかけを生み出すメディアとなることを目指しています。

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