ちょっとハイスペックなアインズ様   作:アカツッキーー
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#5 エ・ランテルの乱

ンフィーレアの依頼を終え、ようやくエ・ランテルに辿り着いた頃には街は夜の顔を徐々に見せ始めていた。

そしてアインズはと言うと──

 

(……羞恥プレイだ……)

 

──精神ダメージを多大に受けていた。これ程のダメージはパンドラズ・アクター以来だろうか。

 

現在アインズは森の賢王の背中に跨がっている。そしてそれを見た周囲の人間たちは彼を褒め称える。なんと恐ろしくも威厳のある魔獣に、あの戦士は乗るのだろう、と。

 

(胸を張るべき…なんだろうな……)

 

それは十分に理解している。彼らは森の賢王が立派な魔獣だと褒め称えるのだから。しかしアインズからしたら罰ゲームだ。ナーベラルに乗ってもらえば良かったと本気で後悔していた。

 

「それでは報酬の方をお渡ししたいので、このまま店の方までお願いします。モモンさんはこれから組合ですね」

「そういえば街に魔獣を連れ込む関係上、組合の方に登録しなければならないんでしたね」

「面倒ですが、仕方のないことですよ」

 

積み荷を下ろす作業は漆黒の剣が請け負ってくれると言うので、一度別れてアインズは森の賢王を登録するために組合へと向かう。するとナーベラルが近寄り、疑問の声を投げかけてきた。

 

「よろしかったのですか?彼らを信じても」

「……別に構わない。裏切られたとしても損失はたかが知れている。むしろ意地汚いと思われる方が損失だ」

 

アインズはこの街に有名になりに来たのだ。名声に傷が付く可能性はないに越したことはない。

 

「確かに…モモンさん程の方がその程度の金額に固執するのも変ですね。失礼しました」

「ああ」

 

ナーベラルの言葉に頷きながらアインズは懐の財布を触る。なぜ、自分は上げなくても良いハードルを上げているのだろう。

内心で肩を落とすアインズに、ナーベラルが嬉しそうに語る。

 

「そう言えば、あの下等生物(ガガンボ)たち。モモンさんの圧倒的な力の前にひれ伏していましたね」

「……あんなもの単に力で振り回しただけだ」

 

一撃必殺と言うと聞こえが良いが、実際は違う。アインズが先の戦いで見たガゼフの動きには流れがあった。ガゼフの動きを意識したり、コキュートスに稽古をつけてもらったりしたが、やはりまだまだと言わざるを得ない。

 

「やはり本職の戦士のような動きは難しいな」

「と、殿。先程から聞いておりましたが、せ、戦士ではないのでござるか?」

「モモンさんは戦士の真似事をされているだけ。真なる力であられる魔法を行使すれば、天を裂き、地を砕くのも容易です」

 

ナーベラルが優越感を滲ませて説明する。絶対的な信頼を寄せられている手前、「無理だろ……」とは言えない。

 

「……うん、まぁ、そんなところだ。本気の私と戦わなくて良かったな?」

「そ、そうでござったか。このハムスケ、より一層の忠誠を誓いますぞ!」

 

ハムスケ。それは森の賢王にせがまれて、パッと浮かんだ名前だ。なんというか、ハムスケと名付けなければいけない気がした。まぁ、本人?も喜んでいるようだし問題はないだろう。

 

そうこう考えているうちに、少し時間はかかったがハムスケの登録は無事完了した。

組合を出たアインズは再びハムスケの背に乗る。もはや慣れた。パンドラズ・アクターの時もそうだったが、人間慣れるものだ。

ンフィーレアの店に行こうとすると、一人の老婆が声をかけてくる。

 

「のぉ、おぬし。もしやわしの孫と一緒に薬草を採集しに行った者じゃないか?」

「……あなたは?」

「ンフィーレアの祖母じゃよ。リイジー・バレアレと言う」

「おお!やはりそうでしたか。おっしゃるとおり私はンフィーレアさんの警護を依頼されていたモモンと言います。そしてこちらがナーベです」

 

ペコリと頭を下げたナーベラルにリイジーが微笑む。

 

「信じられんほどのべっぴんさんじゃな。それでその魔獣は?」

「これは森の賢王でハムスケと言います」

「ハムスケでござる!以後よろしくお願いするでござるよ!」

「なんと!この精強な魔獣こそがかの伝説の森の賢王だというのか!」

 

まずハムスケが喋ったのを聞き周囲の人間が驚く。言語を扱うというだけで知能の高さを表している。そしてリイジーの大声に、森の賢王の噂を知る冒険者たちが一層驚きの表情を浮かべる。

 

「いやはや…もの凄い御仁じゃな。それで…孫は今どこにおるんじゃ?」

「ああ、お孫さんは薬草を持って先に帰っていますよ。私たちも丁度お宅に向かうところでした」

「ほう。…では一緒に行かんかね?どんな冒険だったのか興味もあるしな」

「ええ、喜んで」

 

一行はリイジーの案内に従って、エ・ランテルの街を歩む。

 

 

 

 

 

店に到着し、鍵を取り出したリイジーは扉の前に来ると、頭を傾げた。押すと、何の抵抗もなく扉は開く。

 

「なんだい、あの子、無用心じゃないか。ンフィーレアやーい。モモンさんが来たよー」

 

店の奥に向かってリイジーが声をかける。しかし店内は静まり返り、人がいる気配はない。しかしアインズのスキルはある存在を掴んでいた。

 

「……厄介だな」

 

アインズは呟く。それを聞き、不可解そうな顔をしたリイジーを無視し、アインズはグレートソードに手をかける。その意味を理解したナーベラルが鞘を外す。

 

「な、なんだい!」

「いいから急いでついて来い」

 

短く答えを返すと、武器を抜き払い、アインズは店の奥に歩き出した。その足取りに迷いはない。

通路奥の扉まで来たアインズは、遅れてきたリイジーに問いかける。

 

「この奥はどうなっている?」

「こ、この奥は薬草の保管庫で、裏口にも繋がっておる」

 

何が起こっているか分からないものの、異様な空気を感じて不安げなリイジーを無視し、アインズは扉を開けた。

漂ってきたのは薬草の臭いではなく、もっと生臭いもの──血の臭いだった。

手前にペテルとルクルット、少し離れた所にダイン。そして最も奥にはニニャ。一目で分かる。もう、息はない。

 

「な、なんてことだい……」

 

驚愕したリイジーがよろよろと踏み込もうとするのを、肩を掴んで止めると、代わりにアインズが足早に踏み込む。

突如、倒れていたペテルとルクルットが動き出し、立ち上がろうとする。しかしそれよりも早く、一瞬の迷いもなくグレートソードがその首を切り飛ばす。リイジーは目の前で起こった惨劇に仰天している。すると、すでに立ち上がっていたダインが襲いかかってくる。

 

「ゾンビ!」

 

リイジーの叫び声が上がる。アインズは他の二人と同様に首を切り飛ばす。もはや誰も動くものはいない。

 

「ンフィーレア!」

 

何が起きたかようやく理解し、孫を求めて駆け出すリイジー。その後ろ姿にチラリと視線を向けると、アインズはナーベラルに命令する。

 

「守ってやれ。私の“不死の祝福”に反応がないから、アンデッドはいないと思うが、生きている者がいる可能性もある」

「畏まりました」

 

頭を下げ、ナーベラルはリイジーを追って走り出す。それを確認したアインズは、ゆっくりとニニャに近づく。

ニニャの姿は酷いものだった。顔は何度も殴打された上に、刺突武器で何度も刺されているようだった。知り合いでなければニニャだと判別できなかっただろう。体の方も酷いありさまだった。アインズは静かにニニャの目を閉ざす。

 

「……少しだけ…不快だな」

 

ポツリと呟いた言葉は虚空に消えていく。

 

 

 

 

 

リイジーが探し回った結果、ンフィーレアの姿はどこにもなく、今回の件はンフィーレアの誘拐を目的としたものだと分かった。アインズは事を進めるために発見したものを伝える。

 

「これを見てくれ」

「血文字?これは…地下下水道?地下下水道に攫われたということか!」

「犯人の偽装工作の線も捨てきれないがな。そもそもニニャがこれを書く余裕があったとは思えない」

 

リイジーが皺だらけの顔により一層皺を作る。やけに冷静なアインズに対する八つ当たりにも似た感情が噴き出そうとしていた。

 

「この者達は一体?」

「……私と一緒にお孫さんの依頼を受けていた冒険者だ。私と別れて、薬草の積み下ろし作業をしているはずだったんだがな」

「なんと!ではおぬしの仲間か!?」

 

アインズは首を振った。横に。

 

「……今回、共に旅をしただけの存在だ。それよりも依頼したらどうだ?」

 

リイジーの瞳にアインズの言いたいことを悟ったと思しき光が宿る。

 

「幸運だな。リイジー・バレアレ。お前の目の前にいる私こそ、この街で最高の冒険者であり、孫を連れ戻すことのできる唯一の冒険者だ。依頼するなら引き受けよう。彼を失うのは私としても惜しいからな」

「た、確かにおぬしならば…あのポーションを持つおぬしならば…それに森の賢王を従えている以上、実力も折り紙付き。……雇おうとも。汝らを雇おう!」

「そうか…対価の覚悟はしているな?」

「いかほどなら満足してくれる!?」

「──全てだ」

「なに?」

「お前の全てを差し出せ。その対価としてンフィーレアを助けよう」

 

リイジーが大きく目を見開き、一度大きく震えた。

 

「……悪魔は人の魂を対価にどんな願いも叶えるという。まさかとは思うがおぬしらは悪魔ではないだろうな?」

「……もしそうだとして何か問題があるのか?孫を助けたいのだろう?」

 

リイジーは何も言わず、唇を噛み締めたまま一つ頷く。

 

「……雇おう。わしの全てを差し出す。孫を救ってくれ!」

「……契約成立だ」

 

アインズはリイジーに手を差し出す。リイジーは少し躊躇ったあと、その手を力強く握った。

そこから先は早かった。漆黒の剣の冒険者プレートが無くなっていたことから、犯人が持ち出したと断定。ナーベラルに魔法で調べさせたところ、やはり血文字はフェイクであった。場所は共同墓地。

 

「……どうなさいますか?転移で一気に攻撃を仕掛ける、あるいは〈飛行(フライ)〉で強襲でしょうか?」

「馬鹿を言うな。それでは問題が静かに解決してしまうだろう?」

 

不思議そうな顔をしたナーベラルにアインズは語る。

 

「せっかくの機会だ。名声を高めるのに利用したい。問題を秘密裏に処理しては、それができなくなる」

 

ナーベラルが納得の相づちを打つ。しかし早く解決しなければンフィーレアの命が奪われるかもしれない。さて、どうするかと考えていると〈伝言(メッセージ)〉が入った。

 

『アインズ様』

「エントマか?」

『はい。少しお話ししたいことが』

「──すまないが、今は忙しい。時間ができたら私から連絡を入れる」

『畏まりました。ではその際はパンドラズ・アクター様にお願いいたします』

 

魔法が消え、アインズはリイジーに声をかける。

 

「リイジー!準備は整った。私たちはこれから墓地に向かう」

「地下下水道は!?」

「敵のブラフだ。本命は墓地、アンデッドのおまけ付きだ。その数は数千」

「なっ!」

 

リイジーがその情報に驚く。数は正確ではないが多いのは確かだ。

 

「そう驚くな。私たちは中央突破をはかる。リイジーはできるだけ多くの者達にこの事を伝えてほしい」

「救援を要請すれば良いのか?」

「溢れ出てくるアンデッドを押さえてほしい。この街で有名なお前であれば耳を傾けてもらえるだろう?」

 

騒いでもらわなければ困る。騒ぎが大きいほど、解決したときの名声は高まるのだ。

 

「話は終わりだ。時間が差し迫ってることだし、早速向かおう」

「アンデッドの軍勢を突破する手段を持っているのか!?」

 

アインズは静かにリイジーを眺め、グレートソードを指差す。

 

「ここにあるだろう?」

 

 

 

 

 

エ・ランテル西部地区共同墓地。そこに配備されている衛兵たちは目の前の出来事が信じられなかった。まるで悪夢だ。

 

「なんなんだ、この数……」

「百とか二百とかじゃ済まないぞ……。千は…いるのか……」

 

地面を埋め尽くすアンデッドの群れ。それが異臭を漂わせながら、門目掛けて雲霞のごとく押し寄せてくる。

この場にいる衛兵たちの顔が絶望一色に染まったとき、がちゃりと金属音が響いた。

全員が反射的に音のした方を向く。そこには、伝説と唱われるであろう強大な魔獣に乗った漆黒の戦士と、場違いなほど美しい女だった。

冒険者だ!と誰かが叫ぶ。微かな希望を得た衛兵たちだったが、銅のプレートだと分かるや、わずかに膨らんだ希望の灯火は小さくなった。最低ランクの冒険者に打破しうる力があるはずがない。

 

「おい!ここは危険だ!直ぐに離れろ!」

「お前達、後ろを見ろ。危ないぞ?」

 

衛兵の怒鳴り声を無視し、戦士は静かに忠告する。衛兵たちの背後には四メートルを越えるアンデッドが迫っていた。

 

「うわぁあああああ!」

 

絶叫し、我先にと逃げ出そうとした時、驚くべき光景が目の前に広がった。漆黒の戦士が槍を投げる姿勢で剣を構えたのだ。

次の瞬間、戦士は剣を信じられない速度をもって投擲する。そして、たった一撃で倒してしまう。衛兵たちは声が出せない。

 

「門を開けろ」

「ば、馬鹿を言うな!向こうにはアンデッドの大群がいるんだぞ!」

「それが?この私、モモンに何か関係があるのかね?」

 

圧倒的な自信に溢れた漆黒の戦士の姿に、衛兵たちは誰もが威圧され口ごもった。

 

「まぁ、門を開けたくないと言うならそれでもいい。勝手に行かせてもらおう」

 

そう呟くと漆黒の戦士は信じられない跳躍力で門を飛び越えていく。魔獣と美女もそれに続く。

まるで台風が通り過ぎたようだった。どのくらい呆気にとられていただろうか。一人の衛兵が、震える声で誰にともなく問いかける。

 

「おい…聞こえるか?」

「何が?」

「アンデッドの上げる音が、だ」

 

耳をそばたてると、先程まで聞こえていた扉を叩く音は聞こえなくなっていた。そのかわりに微かな戦闘の音が聞こえてくる。

 

「なぁ、信じられるか?あの戦士は…あれだけのアンデッドを相手にして、いまなお戦い続けているんだ」

 

衛兵たちは驚愕と崇拝の念に襲われる。

 

「……モモンと言ったか…あれが銅のプレートなんて嘘だよ、絶対に」

「俺たちは…伝説を目にしたのかもしれないな…漆黒の戦士…いや『漆黒の英雄』だ……」

 

ポツリと零れた声に誰もが頷いた。

 

 

 

 

 

アインズはアンデッドの大群を蹴散らし、ナーベラルだけを従えて、最奥にある霊廟の付近に到着した。ちなみにハムスケは木上でアンデッドほいほいとして頑張っている。

霊廟の入り口付近には、全身を覆う黒色のローブを羽織った男たちが円陣を組み、何やら唱えている。アインズは真正面から近づいていく。

 

「やぁ、良い夜だな。つまらない儀式をするには勿体なくないか?」

「ふん…儀式に適しているか否かは儂が決めることよ。それより、おぬしは何者だ。どうやってあのアンデッドの群れを突破してきた」

「依頼を受けた冒険者でね。ある少年を探しているんだ…名前は言わなくても分かるだろう?」

 

集団は微かに身構える。これで無関係であるという線は消えた。

 

「それで…お前たちだけではないだろう?刺突武器を持った奴がいるはずだが」

「ふふーん、あの死体調べたんだー。やるねー」

 

突如、霊廟から女の声が響く。ゆっくりと姿を現した女からは、歩くたびにチャラチャラと音が聞こえた。

 

「おぬし……」

「いやー、バレバレみたいだしさー。隠れてもしょうがないじゃん」

 

わずかに険を含んだカジットの声に、女は苦笑いを浮かべた。

 

「それでそちらさんの名前を聞いても良いかな?あ、私はクレマンティーヌ。よろしくね」

「……モモンと言う」

「うーん。聞いたことないなー。しかしどうやってここが分かったのさー。せっかくダイイングメッセージ残したのにー」

「そのマントの下に答えがある。それを見せてもらおう」

「うわー変態ー。えろすけべー」

 

そこまで言ってからクレマンティーヌは顔を歪める。マントを捲ると、無数の冒険者のプレートで敷き詰められた鎧が現れる。

 

「それが…お前の場所を教えてくれたんだ」

 

何を言っているか分からないという顔をするクレマンティーヌ。アインズもそれ以上説明する気はなかった。

 

「……ナーベ。お前は魔法詠唱者どもを相手にしろ。私はあの女だ」

「畏まりました」

 

アインズはナーベラルが了承するのを確認し、ゆっくりと歩き出す。クレマンティーヌも付いてきている。

少し離れた所でクレマンティーヌが話しかけてくる。

 

「そーいや、あのお店で殺したのはお仲間だった?うぷぷぷ、大爆笑だったよ、あの魔法詠唱者。最後まで助けが来るって信じてたみたいよー。……もしかして助けってあなた?ごめんねー、殺しちゃって」

「……謝る必要はない。所詮は私の名声を広めるための道具だ。だが…計画を邪魔されたのは非常に不愉快だ」

 

アインズの口調に何かを感じ取ったのか、クレマンティーヌはニンマリと笑った。

 

「ふーん。まぁどっちでもいいけどねー。ちなみにこっちに来たのは間違いだよー。あの美人さん、魔法詠唱者でしょ?それじゃカジッちゃんに勝てないなー。逆ならワンチャンあったかもだけど。まぁ、私に勝つのは無理でしょうけどねー」

「ナーベでもお前程度には勝てるさ」

「ばっかだなー。魔法詠唱者ごときが私に勝てる訳ないじゃん。スッといってドス!これで終わりだよー。いつもねー」

「なるほど。お前は戦士としての自信があるようだな。……なら、良い練習相手になるか」

 

練習相手と評したアインズに、クレマンティーヌが不快感を顕にする。

 

「てめーのヘルムの下にどんなくそったれな顔があるか知らねぇが、この!人外──英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様が負けるはずがねぇんだよ!」

 

劇号したようなクレマンティーヌに、アインズは静かに答える。

 

「素晴らしい。では、ご教授願おう」

 

 

 

 

 

「はぁー。私、疲れちゃったなー」

 

クレマンティーヌの軽口が響く。未だにアインズのグレートソードはクレマンティーヌを捉えられていない。それどころかクレマンティーヌは攻撃すらしてこない。

 

「確かに凄い身体能力かも知れないよー。戦士としての技術も一応はある。あと数年頑張れば、いい線いくかもねー」

「……褒め言葉として受け取っておこう。そういった評価はとてもありがたい」

「………………」

 

クレマンティーヌは顔を歪める。皮肉った言葉を無視して、未だにあの男は自分を練習相手として扱う。不愉快なことこの上なかった。

クレマンティーヌがようやく臨戦体勢に入ろうとした時、大地が揺れた。

 

骨の竜(スケリトルドラゴン)か……」

「せいかーい。よく知っているね。魔法詠唱者には最悪な敵」

「なるほど、あれがナーベでは勝てない理由か」

 

骨の竜(スケリトルドラゴン)は魔法詠唱者にとっては強敵だ。今のナーベラルには勝算はないだろう。だが──

 

「──問題はないな。で、お前はこの距離を詰める手段があるのか?」

「あらー?結構薄情だねー。ま、いっか。そうだねー、どう思う?」

 

そう言いながらクレマンティーヌが腰を落としていく。まるでクラウチングスタートのようだ。アインズは剣を前に構える。

 

「うんじゃー、行きますよー」

 

クレマンティーヌが一本の矢のように突っ込んでくる。その速度は相当なものだ。

アインズは打ち落とすためにグレートソードを振るうが──

 

〈不落要塞〉

 

──武技によって防がれる。しかしそれを予測していたアインズは一撃目とは違った軌道でもう一本のグレートソードを振る。しかし、それよりも早くクレマンティーヌが武技を展開する。

 

〈流水加速〉

 

以前の戦いでガゼフが使っていたものだ。まるで時間の進みが遅くなったような間ができ、その中でクレマンティーヌはスピードを落とさない。見事に二撃目を避け、スティレットをヘルムのスリットに突き刺してきた。

 

「ぐっ!」

「んー?何で今の一撃でダメージを受けてないの?……防御系の武技かなー?」

 

少し慌てた様子を見せるアインズと、呑気に首を傾げるクレマンティーヌ。

 

「練習相手とか言ってないでさー、本気で来なよ。死んじゃうんじゃないかなー」

「……そうだな。時間も差し迫っていることだし、そろそろ終わりにしよう」

 

クレマンティーヌが顔を歪めるが、無視してアインズは叫ぶ。

 

「ナーベラル・ガンマよ!ナザリックが威を示せ!」

 

 

 

 

 

ナーベラルは苦戦していた。カジット以外の雑魚は速攻で片付けたが、突如出てきた二体の骨の竜(スケリトルドラゴン)が厄介だ。第三位階までの魔法しか許可の出ていないナーベラルにとっては倒せない相手だ。

カジットは嘲笑を含んで問いかける。

 

「降伏するなら助けてやっても良いぞ?」

 

当然、ナーベラルは怒りに表情を歪める。

 

「……げ…ふ…いが」

「……何?」

「人間風情が舐めた口を叩くな、ゴミが」

「っ!潰せ、骨の竜(スケリトルドラゴン)!」

 

二つの前足が動こうとする中、ナーベラルは笑った。崇拝する御方の声を聞き逃すはずがない。

 

「ナーベラル・ガンマよ!ナザリックが威を示せ!」

 

「……御心のままに。ではこれよりナーベではなく、ナーベラル・ガンマとして対処を開始します〈転移(テレポーテーション)〉」

 

骨の竜(スケリトルドラゴン)の前足が降り下ろされた瞬間、ナーベラルは魔法を唱える。すると瞬時に視界が切り替わった。

ナーベラルが飛んだ先は上空五百メートルの地点。轟々と風が全身に吹き付け、地面が迫ってくる。ナーベラルは呵々と笑う。

 

〈──飛行(フライ)

 

ナーベラルの体は空中に固定される。

ようやくナーベラルに気がついたカジットは警戒心を持って睨み付ける。

 

「……まさか〈飛行(フライ)〉まで使えるとは。だが、骨の竜(スケリトルドラゴン)を相手になぜ逃げなかった?勝算でもあると言うのか?魔法への絶対耐性を持つ骨の竜(スケリトルドラゴン)に?」

「勝つ方法ならいくらでもあるんだけど…その前に……」

 

ナーベラルはローブの肩口を掴むと引き剥がす。

 

「喜びなさい。下等生物(ニンゲン)風情がナザリック地下大墳墓の絶対支配者、至高の御方であられるアインズ・ウール・ゴウン様に忠誠を捧げる戦闘メイド、プレアデスが一人、ナーベラル・ガンマにお相手してもらえるということを」

 

身に付けていた物が一切変わっていた。

突如目の前に出現したメイドに対して、カジットはパチパチと瞬きを繰り返す。目の前の魔法詠唱者が突然、メイドになれば当然だ。

 

「そして終わりにしましょう。至高の御方をお待たせする訳にはいかないの。……骨の竜(スケリトルドラゴン)には魔法が効かないと思っているようなので、下等生物(アメンボ)に知恵を得る機会を与えましょう──お代はあなたの命ということで」

 

そう言ってナーベラルがパンッと手を合わせ──離した両手の間には龍のごとく荒れ狂う白い雷撃。周囲の空気がバリバリと放電して、輝く。

 

「かっ!ま、魔法に対する絶対耐性を持つ骨の竜(スケリトルドラゴン)が倒せるものか!行け!殺せ!」

 

カジットは叫ぶ。ナーベラルの使おうとしている魔法の力を直感的に感じ取ってしまったカジットは、自分を奮い立たせて叫ぶしかない。理解してはいけないのだ。

だが、そんなことを無視してナーベラルの冷たい声が響く。

 

「魔法への絶対耐性?そんなものはありはしない。骨の竜(スケリトルドラゴン)の耐性は第六位階までの魔法にしか適応しない。つまりそれ以上の魔法を使える、このナーベラル・ガンマの攻撃は防げない」

「なぜだ!!この儂が五年かけて作り上げた、努力の結晶が、全てがこの短時間で崩壊すると言うのか!!」

 

喚き声をあげるカジット。

カジット・デイル・バダンテール。彼の願いは純粋だった。彼の願いは自分のいない内に死んでしまった母親を生き返らせることだけ。その研究のために自らをアンデッドにしようとした。

 

しかし、そんな下等生物(カジット)の事情など、ナーベラルには関係のないことだ。

 

「そんな爆笑の努力に言葉を贈りましょう。……アインズ様の踏み台、本当にご苦労様」

 

二重最強化(ツインマキシマイズマジック)連鎖する龍雷(チェインドラゴンライトニング)

 

ナーベラルの両手からそれぞれ一本ずつ、のたうつ龍のごとき雷撃が撃ち出された。

それは一瞬にして骨の竜(スケリトルドラゴン)を崩壊させ、なお最後に残った獲物へと空中を駆ける。直後、光に飲み込まれるようにカジットは雷撃に貫かれる。カジットはそのまま焼け焦げ、大地に転がった。

 

下等生物(ムシケラ)でも焼けると良い匂いがする。……エントマのお土産にどうかな」

 

人間を捕食する妹の名前を出しながら、ナーベラルは嘲りの笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ終わらせるとしよう」

「あぁん?ろくに攻撃も当てられないヤツが何言ってやがる」

 

クレマンティーヌは苛立ちを隠せない。確かに身体能力は一級品だ。戦士としての技術も一応はかじっている。だがこの男は自分よりも弱いはずだ。

 

「まぁそう怒るな。では──本番といこうか」

 

漆黒の鎧とグレートソードがまるで最初からなかったかのようにすぅっと消え、漆黒のローブを羽織った黒髪黒目の男の姿が顕になる。それを見たクレマンティーヌは目を見開いて驚く。

 

「なっ!?まさか魔法詠唱者!?」

「正解だ。どうだ?魔法詠唱者と剣で戦っていた気分は。確か、スッといってドス!で終わりだったんじゃないのか?」

 

アインズは嘲笑の混ざった言葉をむける。

クレマンティーヌはギリッと歯を鳴らし、臨戦体勢に入る。

 

「舐めやがって!その面貫いてやる!」

 

〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉。先程と同様に四つの武技を同時に展開させ、クレマンティーヌは突っ込む。アインズは何もしない。

 

「死──ね!」

 

突き出されたスティレットがアインズの顔に刺さる。それでもクレマンティーヌは手を止めず、〈雷撃(ライトニング)〉〈火球(ファイヤボール)〉を解放する。クレマンティーヌは殺ったと確信した。

だが──

 

「なるほど。こんな武器はユグドラシルにはなかった。これも収穫だ」

 

頭にスティレットを突き立てたまま悠長に喋る男に、クレマンティーヌは薄ら寒いものを感じる。

クレマンティーヌは得体の知れない恐怖から、急いでもとの位置まで下がる。

 

「ありえない!何で死なない!」

「上位物理無効化──レベル60…あぁ、君たちは『難度』というのを使うのだったな。このスキルは、難度180以下の攻撃を防ぐというものなんだが…つまりは、君はそこまでの強者ではなかったということだな」

 

顔に刺さっていたスティレットを抜きながら紡がれるアインズの言葉を聞き、クレマンティーヌは愕然とする。難度180以上のものなど自分が所属していた漆黒聖典の隊長か、大嫌いな「あの女」ぐらいしか知らない。

 

「・・・では、次は私の番だな。〈時間停止(タイムストップ)〉」

 

クレマンティーヌが呆然としている間にアインズが魔法を唱える。クレマンティーヌが我に帰った時には、彼女は地に伏していた。立ち上がろうにも首から下の感覚がない。

 

「──っ!いつの間に!一体何をした!」

「……時間を止めただけだ。その間に近づき、遅延効果を付けた魔法を唱えた。口で言えば簡単なことだろう?」

 

クレマンティーヌは言葉を失う。時間を止めるなど世界の理に反している。そんな事ができるのは神ぐらいしか──

 

「まさか……神──ぷれいやー!?」

「ほぅ?」

 

クレマンティーヌの言葉にアインズは興味を持つ。プレイヤーを神と言ったところから考えると法国出身だろうか。プレイヤーを知っているとは良い情報源となるかもしれない。アインズはクレマンティーヌに問いかける。

 

「お前はプレイヤーを知っているのか?」

 

クレマンティーヌは無言で頷く。

それをうけアインズは思案する。かつて捕らえたニグンからはプレイヤーという言葉は出なかった。クレマンティーヌはより上層部に近いところでいたに違いない。アインズはすぐに考えをまとめ、クレマンティーヌに提案する。

 

「私はお前が言うようにプレイヤーだ」

「やっぱり……」

「そこで提案なのだが…私の配下にならないか?」

「へ?」

 

クレマンティーヌから気の抜けたような反応が返ってくる。アインズはそれを無視して、言葉を続ける。

 

「お前は中々の情報源であり、この世界では強者に入る。私はそういった人材を探しているんだ」

 

呆然とするクレマンティーヌ。気が付くと四肢の傷が癒え、痛みがなくなっていた。

 

「私を裏切らない限りは安全を保証しよう。本来は洗礼を行うところだが、お前はこの世界の人間としては初めての配下になるかもしれないからな。初回サービスと言うヤツだ」

 

クレマンティーヌは考える。自分は追われている身だ。神と呼ばれる、プレイヤーだと言う男の庇護下に入ることは願ったり叶ったり。身の安全の保証が本当かどうかは知らないが賭けてみる価値はある。

 

「……分かった。あんたの下についてやる」

「契約成立だ」

 

アインズはスカウトに成功した達成感を感じながら、最後に重要なことだと付け加える。

 

「それと、口の聞き方だが…気を付けた方が良いぞ。私は気にしないが、今の口の聞き方が配下たちに聞かれれば、即刻殺される」

「……マジで?」

「マジだ。彼らの忠誠心は重すぎるくらいだからな。そして力もある。私と同じレベル──難度300以上の配下も数人いるから、私でも守ってやれないぞ?」

「難度300?……数人?……は、はは、ははは……」

 

クレマンティーヌは現実逃避気味だ。「人外領域すら超越した漆黒聖典最強のアンチクショウ」でも難度300には届いていない。それなのにこの男を含め、そんな化け物が数人いると言う。世界が揺れる思いだった。

 

「……畏まりました。これでいい?」

「ああ。普段は今まで通りで良いが、私の配下の前では気を付けろよ。私の連れているナーベラルですら、難度180以上だ」

「……あの美人さん、そんなに強かったんだー」

 

クレマンティーヌはもう驚かない。こんなことで驚いていたらやっていけないと悟ったからだ。

 

「それで、これからのことだが…お前には囚われていた女を演じてもらう。できるな?」

「それくらいなら大丈夫。潜入任務くらいはやったことあるからー」

「ほう、それは素晴らしい。良い人材が手に入ったな」

 

ナザリックの者たちは異形種ばかりで、人の姿をしたものは少ない。その上、人間を嫌ってるとなると潜入などできるはずもなかった。

アインズは演技のために、虚空から服を取りだしクレマンティーヌに渡した。

 

「では頼んだぞ。それと…ンフィーレアは無事なんだろうな?」

「あぁー、あの子なら大丈夫だよー。儀式に使ったアイテムを、外す前にこわせば問題ない」

「それなら良い。では行くとしよう」

 

 

 

 

 

アインズがクレマンティーヌを連れ、霊廟に戻るとナーベラルとハムスケが待っていた。

 

「お待ちしておりました、アインズ様。それで…その下等生物(アリ)はどうされたのでしょうか?」

 

当然のごとく、ナーベラルはクレマンティーヌのことについて尋ねてきた。

 

「……中々の情報を持っていたし、我々では難しいこともできるようだからな。配下として迎えることにした」

「難しいこと?アインズ様にそんなものが有るとは思えませんが……」

「……潜入調査。私自身は問題ないが、シモベたちには人間を嫌っているものも多い。その点においてこの世界の住人はうってつけだ。それにクレマンティーヌはこの世界では十分な強者に入る」

「なるほど。畏まりました」

 

ナーベラルは理解したと、頭を下げる。

 

「それでは、クレマンティーヌ。ンフィーレアの所まで案内してくれ」

「畏まりました」

 

先程とは別人のようにクレマンティーヌは返事をする。順応力も高いが、もともとの育ちが良いのだろう。つくづくいい拾い物だったと思う。

ナーベラルとハムスケを入り口に待機させ、クレマンティーヌに付いていくと開けたところに出る。中心にはンフィーレアが突っ立っていた。目は潰されており、その頭には蜘蛛の巣のようなサークレットが載っている。

 

「その頭に載っかってんのが、儀式のためのアイテムだよー。私が法国抜け出すときに掻っ払って来たんだー」

「……これか。〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・アイテム)〉」

 

アインズの頭の中にアイテムの情報が流れてくる。情報量はユグドラシル以上だ。

 

「……叡者の額冠…なるほどな。コレクターとしては勿体ないが…仕方のないことか。〈上位道具破壊(グレータ・ブレイク・アイテム)〉」

 

アインズが魔法でサークレットを破壊すると、ンフィーレアがぐらりと崩れ落ちる。

目の治療はあとの方が良いと判断し、そのまま担ぐ。

 

アインズが霊廟の外に出ると、アイテムなどの回収作業を行っていたナーベラルが、作業を中断して近寄ってくる。

 

「アインズ様。少しご相談が。これを」

「これは?クレマンティーヌ、何か知っているか?」

「あぁー──ゴホン!それはカジットが使っていたアイテムで、確か『死の宝玉』と言っていたはずです。儀式の核となるものでした」

『その通りでございます。偉大なる死の王よ』

 

クレマンティーヌの説明を受けていると、突如、頭の中に声が響く。どうやら死の宝玉から発せられているようだ。聞くとインテリジェンス・アイテムらしい。

 

「……死の王?お前には私の力の本質が分かるのか?」

『はい。あなた様のその絶対なる“死”の気配に、敬意と崇拝を』

 

アインズは思わず笑ってしまう。まるでナザリックのNPCのようだ。

 

「それで、早く本題に入れ」

『はっ。単刀直入に申し上げます。偉大なる“死の王”よ。私の忠誠をお受け取りください。あなた様のシモベの末席に、私も並べていただきたいのです』

 

真摯な態度だ。体があるなら深く頭を下げているだろう。アインズは考える。そして判断を下す。

 

「ハムスケ」

「なんですかな、殿」

「お前が持っておけ」

 

アインズはハムスケに死の宝玉を投げ渡す。ハムスケはそれを器用にキャッチする。

 

「私に忠誠を誓うのであれば、ハムスケの足りない知識を補ってやれ」

『……畏まりました。いつか直接あなた様の力になれることをお待ちしております』

 

少し不満そうだが納得したようだ。ナーベラルが「なぜこのようなものに下賜されるのですか!?」と尋ねてきたが、上手く答えた。

 

「さて、回収作業が終わったならばンフィーレアを連れて──」

 

アインズは再び鎧を纏い、マントを翻す。

 

「──凱旋だ」

 

 

 

 

 

現在、アインズは先日泊まった宿屋にいる。その部屋にはナーベラルとクレマンティーヌも一緒だ。

 

「あいつらの態度。傑作でしたね」

「いやー、あれが普通だと思うよー?」

 

ナーベラルが誇らしげに語るのに対し、クレマンティーヌは呆れたように呟く。口調が普通なのは目立たないためとアインズが指示したからだ。

ナーベラルの言った「あいつらの態度」とは宿屋に集まっている冒険者たちのことだ。そしてその理由は──

 

「まぁ、そうだろうな。ついこの前まで銅だった者が、ミスリルになっていたら驚くだろうよ」

 

アインズとナーベラルの首にはミスリルのプレートがかけられている。つい先程まで組合の方で昨晩の墓地の件についての事情聴取を受けていた。そこで急遽与えられたのだ。

 

「まぁ、モモンちゃんの実力を考えれば、それでも不足だとは思うけどねー。ナーベちゃんも相当な実力者だし」

 

クレマンティーヌがケラケラと笑う。こいつの順応性には驚かされる。昨晩まで殺し合いをしていたとは思えない。

 

「同意です、モモンさん。さっさと最高位だというアダマンタイトを渡せば良いものを…それでもモモンさんには不十分だというのに」

 

ナーベラルは不機嫌そうにブツブツ言っている。冷静でなくてもアインズ様とか言わないあたりは成長しているのだろうか。

 

「そう言うな、ナーベ。組合としてはこれが限界だったのだろう。我々はまだ実績が少ない。あと一つ二つ実績がほしいところだな」

 

そう実績が少ないのだ。そして今回の件は調査が不十分。慎重をきしてのことなのだろう。つまり、功績自体はアダマンタイトと認められているということ。案外早く事が進められるかもしれない。アインズはニヤリと笑う。するとナーベラルが不思議そうに声を発した。

 

「それであの二人はどうするのですか?報酬の件は後で連絡すると言っていましたが、クレマンティーヌもいることですし面倒だと思うのですが」

 

ナーベラルの言葉にクレマンティーヌは肩を竦める。クレマンティーヌはンフィーレアを連れ去った張本人だ。その懸念は最もだが、その辺は解決済みだ。そしてリイジーとンフィーレアの処遇は決まっていた。

 

「クレマンティーヌに関しては問題ない。ンフィーレアの記憶は既に改竄している」

「おぉ!流石はアインズ様!」

「……だから…名前…まあ良いか。少々魔力の消費が多かったがな。確かめられて良かった。それで二人のことだが、カルネ村に移ってもらい、そこでポーションの研究をしてもらう」

「あの村ですか。しかし、ポーションならナザリックの者たちにも作っている者はいますが?」

「私は新たな力を求めているんだ」

 

ポカンとするナーベラル。

 

「簡単に言うと、ユグドラシルになかった力だ。他にいるかもしれないプレイヤーと差をつけるためには必要なのだよ。それに材料が枯渇する可能性がある以上、この世界のポーションをユグドラシルポーションに少しでも近づけなければならない」

 

ようやく納得したようにナーベラルは頭を下げる。クレマンティーヌは割りと早くから察していたようだ。法国でも似たような話しを聞いたことがあったのかもしれない。

 

「ひとまずは後回しだ。それよりも先にやるべきことがある」

 

アインズは〈伝言(メッセージ)〉を発動させる。相手はパンドラズ・アクターだ。エントマから連絡を受けていたのに、時間に余裕がなく後回しにしていた。〈伝言(メッセージ)〉がパンドラズ・アクターに繋がる。

 

『──アインズ様っ!お待ちしておりました!』

「……少し落ち着け。耳が痛い」

 

繋がった瞬間にいつも以上にハイテンションなパンドラズ・アクターの声が、アインズの鼓膜に直撃する。

 

『申し訳ありません!』

「……もぉ、良い。それで、何かあったのか?」

『はぁぁい!とんでもないことがありました!もちろん良いことですよ?』

「前置きは良いから、早く言え」

 

焦らしてくるパンドラズ・アクターに催促をする。そして一拍溜めたあとにパンドラズ・アクターが報告する。

 

『──アインズ様!シャルティア・ブラッドフォールン殿が大手柄です!』




・漆黒の剣は原作通り
・クレマンティーヌが生存し現地人配下一号に

次回は原作フラグをぶち折っております、シャルティアサイドのお話です。

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