スーパー官僚が語る、管理職の3つの心得

経産省 製造産業局 生物化学産業課長 江崎禎英(下)

 最初は名刺交換もしてくれない相手が、同じ目的に向かって協働する仲間になり、最後は互いに満足のいく結果を得る。経済産業省の江崎禎英課長はこうした流れを作って、いくつもの難題を解決してきた。現在、取り組んでいるのは、再生医療の制度整備。その過程には、仕事に生かせるヒントが詰まっている。体験から学んだリーダー論にも注目したい。

※前編:「机を蹴飛ばされても前に進む『異色の官僚』」はこちら 

当初、厚生省との交渉は惨憺たるもの

三宅:江崎さんは、みんなが絶対に無理と言っていた改革を次々と成し遂げてきました。そして今、取り組んでいるのが、再生医療の制度整備ですね。

江崎:はい。再生医療はヒトの細胞や組織を用いた治療法です。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞されたように、日本でもトップレベルの研究が行われており、社会的な期待も高いのですが、実用面では欧米にかなり後れを取っています。

というのも、現在、再生医療は薬事法で規制されていますが、薬事法はもともと薬や医療機器を対象にした法律ですので、生きている細胞や組織を使って治療する再生医療には合わない部分が多いのです。

三宅:ヒトの細胞は薬でも医療機器でもないのに、従来の法律に無理に当てはめようとすると、どんな問題が起きるのですか?

江崎:まず、「薬」であれ「医療機器」であれ、薬事法ではまったく同じ品質のものを製造することを前提としています。このため、材料は均質でなければならないとか、製造工程は無菌状態にしなければいけないとか、さらには、有効性を確認するため、何百人もの治験者を使った比較試験が求められます。したがって、薬事法が適用されると、患者自身の細胞を使って治療する再生医療にも同じ審査基準が適用されるわけです。

実際のところ、生きている細胞を無菌にはできないし、他人の身体を使った比較試験はできません。それでも薬や医療機器と同じ審査を行おうとしたため、第1号の承認がおりるまでに7年もの時間がかかってしまいました。日本ではいまだ2品目しか承認されていません。日本には高い技術があるのに、今の制度ではそれが生かせないのです。そのため再生医療に合った制度を作ろうと動き始めました。

三宅:関係する厚労省などと調整が難航したでしょう。

江崎:ええ。最初は惨憺たるものでした。名刺も受け取ってもらえません(笑)。課長に就任した当初、すでに「再生医療」は政府や与党の会議でも重要なテーマになっていて、その対応策も最終取りまとめの段階に入っていました。しかし、議論を聞いていると「何かおかしい」と感じました。主要テーマは、薬事法の中で「再生医療」の定義をどう書くかということ。そこで、初めて出席した与党の会議で手を挙げて、「そもそも議論が違うのではないですか」と発言しました。

三宅:国会議員の会議で、役人がいきなりそういう発言をするのはタブーですよね。

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