破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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魔法少女は既に人間とは言えない存在になっている事、その魔法少女が何れ魔女になってしまう事、自分がまどかの魔法少女化と世界の破滅を回避す為に今までずっと時間移動をしてきた事。
その話にまどか達は衝撃を受け、ほむらの孤独な戦いに同情した。
既に魔法少女となっていたマミと杏子も衝撃を受けつつも、正直に話したほむらの態度とそれでも自分達を大事な仲間だと、友達だと憚らないまどか達の優しさにのお蔭で何とか心を保つ事ができた。
そして……それから数日後。
「あれが悪プリンか」
「ワルプルギスの夜です。さやかのは間違い」
いきなり緊張感が抜けてしまいそうなビルスの天然のボケに、ほむらは何とか抵抗し間違いを補足した。
暗雲の下、黒い暴風と共に徐々に舞い降りてくる巨大な魔女を見ながらビルスは言った。
ワルプルギスの夜は確かに今まで見てきた魔女たちとは違った。
この圧倒的な力、存在感、絶望感……一体、どうしたら自分達が勝てたのだろう。
ほむら達の横でそれを見ていたマミと杏子は自分の無力さを痛感していた。
これは、いくら頑張ったところで勝てなかっただろう。
最初から諦めるのは良くないのは解ってはいるが、それでもそう感じざるを得ない程にこの魔女の存在はマミに消極的な発想しかさせない最悪の敵だった。
これが無力……。
一方まどか達は流石に魔法少女でない所為か降り立つ魔女にマミ達程の敵としての脅威は理解することができていなかったが、それでもまるで世界の終焉の様な不吉な雰囲気には恐怖を感じ、二人は固く手を握り合っていた。
「ビルスさん……今更……お願い……できるかしら……?」
ほむらは遠慮しがちにビルスに訪ねた。
彼の力を度々見てきたので信用はしていたが、それでもいざこれを目の前にすると、その圧倒的存在に対してビルスの単身で臨もうとする姿に一抹の頼りなさと不安を感じざるを得なかった。
「まぁプリンの分はちゃんとお願いはきいてあげるよ。しかし……」
ビルスは魔女を見つめながら言った。
「これは意外に大きな存在だな。前に破壊した神なんかよりずっと大きな力を持っている」
「そうですね。しかも世界に自身の能力を反映させることによって何度でも蘇る仕様のようです」
ビルスの傍らに控えていたウイスがビルスの感想を補足することでこの魔女の脅威がより明確となった。
「そう……なの?」
ほむらは自分が知らなかった新た事実に愕然とした表情で訊いた。
「ああ。こいつは君にとっては魔女かもしれないが、一種の神だよ。それも僕と一緒の破壊の部類だ」
「神……? アレが……?」
ほむらは空から降り立とうとしている魔女を改めてみた。
(あんな、あんなものが神だなんて……)
「詳しい説明は省くけど、ただ単純に圧倒的な力を持ってたら神というわけでもないよ。あんな風に圧倒的かつ、世界に干渉する力も持つ超常的な存在を神というのさ」
ビルスは特に緊張もしていないいつも通りの顔で続けた。
「神にもいろいろいる。見える者見えない者、積極的に干渉して来る者関わろうとしない者。こいつは定期的に自分の世界を破壊して楽しむのが生き甲斐らしいね」
「なんで……なんでそんな事を……」
ほむらは震える声で怒りとも悲しみともつかない表情でビルスに訊いた。
「理由? そうしたいからだよ。さっきの話と重複するけど、その理不尽を通せる存在が神って事さ」
「……あれを倒しても復活するの……?」
「ああ。あれはそれだけの力を持っている」
「じゃぁビルスさんが倒したとしてもまた何処かで……」
ほむらは自分が今まで行ってきた時間移動を思い出しながら言った。
何という事だろう。
ビルスの言葉が本当なら、例えここでワルプルギスの夜を倒してもまた何処かで復活して同じ悲劇が起こるという事だ。
これでは決定的な解決にならないではないか。
「……」
「どうした?」
俯いて悲しみに沈むほむらを見てビルスが声を掛けた。
「いえ……ただ私はこれからどうしたら……」
「ああ、君はあれを倒すために今まで頑張って来たんだっけ。あ、そうかそれでか」
ビルスはほむらが意気消沈している理由に気付いたようだ。
「大丈夫ですよ」
ウイスがほむらの肩に優しく手を置きながら言った。
「え?」
その温かさに思わずほむらは顔を上げる。
「ビルス様は破壊の神様ですから。あの方はその名の通り、有象無象問わず、全てを破壊する事が出来ます」
「それって……」
「僕がいつあいつより劣ってるだなんて言った? 例え世界に干渉する力を持っていたとしても、僕より劣る存在が僕の力に適うわけないじゃないか」
「ビルスさんそれって本当!?」
今までほむらの嘆き用に掛ける言葉が見つからずただ見守る事しかできていなかったマミがすがる様な顔で訊いた。
「心配しなくてもあいつは、能力も何もかも纏めて存在ごと破壊してあげるよ」
「ビルスさ――」
ゴッ……!!!!
「!!」
ほむらが再びビルスに話しか掛けようとしたその時、凄まじい暴風が彼女達を襲った。
暴風の強さはまどか達が動けなくなるほど重く、明らかに風だけによるものではなくい何か別の力が働いているは間違いなかった。
気付けば魔女はもう目の前まで来ており、その周囲からは人間の様な形をした使い魔が形成され攻撃の準備を整えつつあった。
「少し話し過ぎてしまったか。じゃ、ちょっと試してみようか」
ビルスは人差し指を一本魔女へと向けた。
一体何をするのかとまどか達が見ていると、彼の指先が赤く光りだし次の瞬間には凄まじい光を放ちながら赤い光線が魔女へと放たれた。
ズドッ……!
光線は一瞬で魔女へと直撃し、直撃した衝撃によって拡散したエネルギーが魔女の周囲にいた使い魔も捕えて一瞬で消滅させた。
「!?!?!?!?!?!??? ……っっ!!」
ほむらが初めて聞く悲鳴の様な声だった。
その声の主は明らかにワルプルギスの夜だった。
「は……あ……」
ビルスの光線によって赤く染まった空を見つめながらさやかは呆然としていた。
こんな戦い、力見た事ない……!
「へぇ」
ビルスは光線を放ちながらそれでもあり続ける魔女に少し感心した顔を見せた。
だが、それでも攻撃はやめることなく続け、ついには魔女は赤い光と共に空から見えなくなった。
「……え? 終わり……?」
まどかが再び戻った晴れ渡った青い空を見てポカンとした顔で言った。
「いや、あいつ中々やるよ。今はただ僕の攻撃で星の外へ押し出しただけさ。ウイス」
「はい」
「というわけだ、ちょっと行ってくるぞ」
「行ってらっしゃいませ」ニコッ
そう言うとビルスは一瞬で姿を消した。
場所は変わって宇宙、成層圏どころか本当に星の外へと押し返された魔女はビルスの攻撃を受けつつもまだ形を完全に保っていた。
だが、それでも先程の攻撃によってダメージを受けたのは間違いないようで、魔女の動きは地球で見た時よりも無重力に関係なく鈍くなっていた。
ビルスが魔女の前に再び姿を現したのはそんな時だった。
シュンッ
「ほぉ。全然壊れてないじゃないか。やるな」
「!!」
魔女が反転した。
いや、反転することによって本来の態勢になり、本気になったのだ。
「ああ、今から本気なのか」
ビルスはまた感心するような顔をしたが、次に出た言葉はそれとはまるで反対のものだった。
「でも、今から本気になったところでそのダメージじゃあまり意味ないんじゃないか?」
「……っ!!」
その言葉に反発する様に魔女の周囲に再び使い魔たちが出現し、そして自身も本体を構成している一部である歯車から黒い靄のようなものを発生させ、それを幾つもの触手の様に枝分かれさせてビルスを襲ってきた。
「ま、そうくるとは思っていたよ」
ビルスはあくまで動じず、不動のまま魔女の攻撃が自分に迫って来るのを眺めていた。
そして、その攻撃が彼に届かんとした時――。
「……」
不意にビルスが今度は片手の掌を魔女に突き出した。
そして――
ヴ……ッ
ビルスの周りから突如として巨大な炎の塊の様なオーラが出現し、彼を中心に広がると間近まで迫っていた魔女の攻撃を全て触れた瞬間に消滅させていった。
「っっ!?」
「悪いが、お前がいるとまたここに来た時にプリンが食べられなくなるんでな」
ビルスは無表情に魔女を眺めながら自分が魔女を討伐するあんまりな理由を投げ放った。
「そうなると迷惑なんだ。だから消えろ」
ボッ
ビルスを取り巻くオーラが一瞬消えたと思うと、次の瞬間にはそれが全て彼の掌に集まって巨大な球体となって放たれた。
魔女は自分に向ってくる破滅の力に全力で抵抗し、直撃を回避すべく反攻したが……。
ボッ…ボッ……
球体に触れた魔女の攻撃は悉くく消滅し、そのまま勢いを失することもなく直撃した。
ズッ……
「――!」
魔女は最早何も言うことができなかった。
直撃した球体がどんどん自身を浸蝕し、そしてついには完全に取り込まれてしまった。
そして次の瞬間――
ド……ォォオオオン!
宇宙空間なので音はしなかったが、まるで炎の花がその大輪を咲かせように爆発し、魔女は消えてしまった。
ビルスはそれを見つめながら誰にともなく呟いた。
「……ふむ。まぁ例え1%くらいでも僕に力を出させたのはよくやった方だ」
魔女退治終了です。
やっぱりこれで終われなかったですね。
次回、エピローグ的な話にて「まどマギ編」は終了です。