韓国軍はどうなるのか 米朝首脳会談後もU-2Sドラゴンレディは嘉手納展開を継続
- トランプ大統領、国防費の増額を誇示
- 米韓合同演習縮小で起きること
- U-2Sドラゴンレディ高高度偵察機は、韓国ではなく嘉手納に展開
トランプ米大統領、米朝首脳会談直後、“世界最強”F-22Aラプターを背景に演説
事実上、物別れに終わった第2回米朝首脳会談を終え、ワシントンDCへの帰路、トランプ米大統領は、アラスカのエルメンドルフ=リチャードソン基地に立ち寄り、集まった兵士たちを前に「素晴らしいことに、米国の自由の壮大な響きを奏でるF-22とともに、この格納庫に立っている」として、世界最強と言われてきたF-22Aラプター・ステルス戦闘機の前に意図して立っていることを強調。そして、米国防予算を7000億ドルから7160億ドルの増加させたことを自らの政権の実績として誇った。
その理由について、トランプ大統領は「皆さんは私がコストカッターであることを知っているが、我々には選択肢がない。軍がなければ、我々は何を持ちえるだろうか?我々は偉大な軍を持っている必要がある。米軍は、米国を絶対に攻撃するなという世界への強力な警告なのだ」と述べた。
米朝首脳会談直後の発言である。米国は、力を背景に行動することを言葉だけでなく、自らの背景に世界最強とされてきたラプター戦闘機を配することによって示し、『米国を絶対に攻撃するなという警告』が誰に向けられたものなのかは判然としないが、発言は、米朝首脳会談からの帰途という興味深いタイミングであった。
米韓国防当局、大規模軍事演習「フォール・イーグル」と「キーリゾルブ」を終了
3月2日、シャナハン米国防長官代行と韓国の鄭景斗・国防相が電話会談を行い、米韓両軍が朝鮮半島有事を想定して毎年春に行ってきた大規模軍事演習「フォール・イーグル」と「キーリゾルブ」を終了させることと発表した。
理由について、米国防総省のプレスリリースには「(米韓の)決定は、緊張を軽減し、朝鮮半島の完全な非核化を達成するための外交的努力を支援するという我々(米韓の国防当局)の願望を反映している」と説明していた。
米軍、韓国との上陸訓練「双竜」に参加せず
そして、3月3日、韓国統合参謀本部と米韓合同司令部は、翌4日から12日まで「DONG MAENG」という聞きなれない名称の共同演習を実施すると発表した。
DONG MAENGとは、「同盟」を意味する韓国語。恒例の米韓合同指揮所演習「キーリゾルブ」を名称変更し、実施期間を短くするのだという。
今回、実施されるのは「同盟19-1」となるが、韓国の聯合ニュースなどによれば、韓国・国防省では「実質的な米韓連合態勢には全く問題ない」と評価。米韓軍が大規模に実施してきた「フォール・イーグル」の名称を廃止し、例年、フォール・イーグルのヤマ場として、実施されてきた米韓合同の上陸訓練「双竜訓練」では、隔年で米軍が大規模に参加してきたが、今年は、米軍が参加せず、韓国軍単独の訓練になるという。
米軍が、韓国で、韓国軍と共同での上陸訓練を行わないのは、今年だけかどうか不明だが、年内に、米海軍・海兵隊は、米海兵隊のF-35Bステルス戦闘機の運用可能な揚陸艦ワスプをアメリカに交代させるとみられている。
F-35Bは、米海兵隊の上陸作戦を空から支えるキモとなる存在だが、極東の米海軍で唯一、F-35Bを運用してきたワスプがアメリカに交代することで、米海兵隊の揚陸作戦の運用がどのように変わるのか。従来なら、韓国軍は、双竜訓練で、つぶさに見ることができたはずだが、今年からは、どうなるのだろうか。
特に米海軍・海兵隊は、F-35Bが、ステルス能力を活かして敵に気づかれぬよう、遠距離の敵情をその遠距離まで捕捉できるEO-DASセンサーで捕捉。その情報を、他の部隊にデータリンクで伝達。イージス艦の巡航ミサイルや、その他の部隊の能力を使って叩くという能力・戦術を発達させていくとみられるが、その最新の能力を米軍は、韓国軍に掌握させる機会をどのようにつくるのだろうか。興味深い点である。
トランプ大統領:米韓軍事演習縮小は「節約」のため
ところで、トランプ大統領は、3日、米韓の大規模演習を止める理由について、SNSを通じ、自ら説明した。「韓国との軍事訓練を望まない理由は、返済されていない数億ドルを節約するためだ。これは、私が大統領になるだいぶ以前からの立場である。それにこのタイミングで、北朝鮮との緊張を緩和するのはよいことだ!」というのである。
北朝鮮との緊張緩和の前に、「節約」を掲げているが、その2日前には、アラスカのF-22ラプター戦闘機を背景に、米国防費を誇っていたのである。米国防費は、全体としては増え、米韓合同演習は、「節約」を掲げて、規模が縮小されるということになる。
U-2Sドラゴンレディの嘉手納展開継続と米韓の情報の流れ
だが、米韓演習の規模が縮小されれば、米軍から、韓国軍への情報、特に米軍自身の情報の流れも変わるかもしれない。
さらに気になる動きもある。
従来、韓国内の米軍基地には、U-2Sドラゴンレディ高高度偵察機の分遣隊が、派遣されてきたが、1月23日、24日に、あわせて4機のU-2Sが沖縄・嘉手納基地に飛来。以降、嘉手納基地を足場に離発着を行っているため、日本周辺の情報集活動をおこなっているとみられる。
以下は、推定だが、韓国内の基地から運用されていれば、U-2Sドラゴンレディが高高度から収集した膨大な情報は、米韓合同司令部に渡され、韓国側でも利用可能だったかもしれない。その中には、北朝鮮に関するモノもあったろう。しかし、日本国内からの運用となれば、ドラゴンレディが収集した画像情報などは、そのままの形で、韓国側に渡されているのかどうか。
このままならば、結果として、北朝鮮など、極東の軍事情勢について、米軍が掌握する情報と、米軍自身の能力・運用に関する情報などの韓国への流入が減ることになるのだろうか。日本にとっても、韓国にとっても、気がかりなことになるかもしれない。
(フジテレビ 解説委員 能勢伸之)