破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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説明をする手間が省けたほむらは今後の行動を考えながら、複雑な気持ちでその光景を黙って眺めていました。
「……」
マミはキュウべぇとほむらから自分が知らなかった真実を聞かされショックのあまり黙り込んでいた。
「……」
それはまどかとさやかも同じであり、もしかしたら魔法少女になっていたかもしれなかった可能性に震える身体を落ち着かせるように抱き締め合っていた。
「……」
キュウべぇはといえば、今まで自分がやってきた事が一瞬で否定され水泡に帰した事で生きる気力を無くし一人(全員)うなだれていた。
(なにこの状況……)
ほむらは一人この状況に困惑していた。
自分が一番望む状況に近づいたと言うのに、目の敵にしていたキュウべぇまでも何故か哀愁を漂わせてしまっている所為で調子が狂っているのだ。
「……キュウべぇ」
「……なんだい?」
「落ち込んでいるところ悪いけど、私は貴方を許すつもりはないわよ」
「そう。じゃぁ好きにしなよ。もう何も抵抗もしないよ」
「……」
「どうせ今この場にいる僕が死んでも他の世界にも同じ僕がいるし。だとしても、もう何か生きる意味がなくなっちゃったから全部屍と同じなんだけどね」
「自滅はしないのかしら?」
「そういう思考自体がないからね。いくら自分の生涯に絶望しても自滅が生産的な行動でない限りする事はないと思う」
「私には有益なのだけど」
「それは君にとってだろう? 暁美ほむら、抵抗はしないけど精々手に届く範囲の僕らを狩るといいさ。嫌がらせにしかならないだろうけど、今となってはそれが唯一の存在理理由かな。はは……」
(ほんと、どうしてこうなったのかしら)
ほむらは改めてこのキュウべぇに調子を狂わされた。
効率と合理性を何よりも優先し、感情などないかのように思っていた機械的な彼のここまで落ち込んだ姿を見る時が来るなんて思ってもみなかった。
だがこのまま流れに流される気はなかった。
何より確認しないといけない事があったからだ。
「ワルプルギスの夜は来るのかしら?」
「来るよ。まぁそこにいる破壊神だったら難なく倒せると思うけどね」
「そうなの?」
「ちょっと機嫌を損ねただけで銀河系の一部を破壊できちゃう無茶苦茶な存在なんだよ? できないと考える方がおかしくない?」
ほむらはそんなキュウべぇの言葉に未だ自分がビルスの事の存在を疑っている事に気付いた。
それも無理はない事だった。
いくら嘘を言わないキュウべぇの話でも、話のスケールが一般的な人間の感覚からしたら冗談としか思えない内容だったからだ。
(彼もキュウべぇと同じ異星人というだけの内容だったらまだ素直に事実を受け入れる事ができたんだけど……)
ほむらは横目でビルス達を流し見た。
退屈そうに欠伸をしながらうとうとし、それをウイスが「寝る前に歯磨きはして下さいね」とかコントのようなやり取りをしていた。
(……聞くしかないか。いえ、事実ならここで運命を終わらせないと……!)
「ちょっといいかしら?」
「んぅ?」
「はい?」
「あの……自己紹介が遅れました。私、暁美ほむらといいます」
「これはご丁寧に。私はウイス、ビルス様の付き人をしております」
「僕の自己紹介はいいよね。信じてるかどうかは分らないけど」
子供っぽい感じのビルスに対してウイスという人物は随分常識がある感じだった。
物腰も柔らかく、話しもし易い印象だ。
交渉をするなら彼を通した方が良さそうだ。
そうほむらは判断した。
「破壊神ビルス……様、と呼んだ方がいいかしら。貴方にお願いがあるの」
「様付けは絶対ではありませんが、付けてあげると多少機嫌がよくなりますよ」
「おい、ウイス!」
「ほほほ、冗談ですよ。それで、ビルス様にお願いと言うとどのような事でしょう?」
「もう直ぐこの町に……この星に、ワルプルギスの夜と言う絶大な力を持った魔女……災厄が訪れるの。だからそれを……」
「ビルス様に退治してもらいたいと?」
「そうです。貴方が本当に破壊神だというのなら、本当に気まぐれで宇宙に異変を起こすくらいの凄まじい力を持っていると言うのなら、どうかお願いです。私の願いを聞き届けて頂けてほしい」
ほむらはそういうとビルスとウイスに深く頭を垂れた。
「どうします? ビルス様」
「なんか前にも同じ光景を見た気がするな。まぁそこまでお願いするならやってあげなくもないけど……」
「本当?」
「でもタダじゃやだな」
(な、なんか見返りを求めてる? 神様って案外世俗的なのね……)
「何かしら? 私にできる範囲の事ならお礼はさせてもらうわ」
「プリンを食べさせてほしい」
「……は?」
ほむらは目を丸くして言葉を失った。
まさか世界の滅亡から救う見返りにプリンという言葉が出てくると出てくるなんて誰が予想できるだろう?
そんな意表を突かれ呆然としているほむら達をキュウべぇは眺めていた。
(破壊神ビルス……。神かどうかは確かにまだ判らないけど、気まぐれで宇宙を破壊するような存在は改めて考えれば危険な事には変わりはない。決して僕の星を壊された恨みが動機ではないけど、ここは宇宙の救済者として一念発起する必要があるかもしれない。いくら強大な力を持っていても個として存在するのなら不意を突くことができればもしかして……)
異星人は異星人で存在価値を破壊されたことによって思考が捻じれ始めていた。
魔法少女の運命にショックを受け悲観にくれる者、新たな未来に可能性を見出す者、自分が暴走し始めている事に気付いてい居ない者、単純にプリンが食べたい者。
それぞれ異なる思惑思考が混ざり合うこのなか、果たしてどんな結末が彼らを待っているのだろうか。
今度はQBが再び悪役になりそうな流れになってきましたね。
でも、あくまで敵役に徹しようとするその姿もなかなか素敵だと思います。