四大陸フィギュアへ挑む岡山勢 田中刑事と小松原・コレト組
「氷上の社交ダンス」と呼ばれる、フィギュアスケートのアイスダンスの強化に岡山スケート界が取り組んでいる。単独で滑るシングルが男女とも高い人気を誇る国内では普及、育成とも遅れている種目。県内二つの通年リンクがある好環境の下に実績のあるコーチが集い、「地元から世界で戦える選手を」と合宿開催や元五輪選手を指導に招く。選手層の薄さは依然課題ながら、有力選手が出てきている。
「動きを合わせて」「エッジワークを意識しよう」―。岡山国際スケートリンク(岡山市)で昨年末に行われたアイスダンスの合宿。小学生から日本代表まで県内外の男女約50人が3日間滑り込んだ。
主宰するのは、元世界選手権代表で同リンクを拠点に指導する有川梨絵コーチ(38)。「始めたくても機会がない、という声に応えたかった」と、2013年から毎年開く。全国でも珍しいという試みに、参加者は年々増加。スキルアップに加え、技術レベルや相性を確認しながらパートナーを選べる貴重な場にもなっている。
■ シングル偏重
フィギュアの国内競技人口は、五輪などで日本勢の活躍が際立つシングルに偏重し、アイスダンスは極端に少ない。日本スケート連盟によると、今季の競技者登録数5200人のうち、全日本選手権と各地であったその予選に出場したのはジュニア・ノービス(11~19歳)を含め、計11組しかいなかった。
1回転半を超えるジャンプが禁止のアイスダンスには、高難度のジャンプ習得に苦しんだ女子がシングルから転向するケースが多い。一方、「男子は特に意識がシングルに向き、数が増えない」(同連盟強化部)。パートナーが見つからず、練習リンクやコーチの不足もあって、欧米に渡る女子選手は少なくない。
倉敷市出身で17年に現役引退した平井絵己さん(32)=翠松高出=も、その一人。シングルから転向して日本の男子選手と組んでいたが、高いレベルを求めて強豪国のフランスに渡り、グランプリシリーズや四大陸選手権に出場した。
現在、岡山とフランスで指導に携わる平井さんは「海外では小さい頃からアイスダンスに取り組ませている。氷上以外にもタンゴなどフロアダンスの専門指導者がおり、表現力も鍛えられる」と環境の違いを指摘する。
■ 恵まれた環境
選手に早い段階からアイスダンスの魅力を伝えているのは、平井さんもOGとして指導に訪れる倉敷FSCだ。五輪に2度出場したキャシー・リードさん(31)を16年から毎月、招へい。練習会場のヘルスピア倉敷(倉敷市)で小中学生らにシングルにもつながるスケーティング練習、フロアでのダンスを通して身のこなしや表情のつくり方まで教える。
公式戦に出られない子どもたちにはクラブ主催のエキシビションに出場させる。倉敷・郷内小4年の小河原泉颯(いぶき)、笠岡・神内小2年の吉田菫は「踊りの動きが合った時は楽しい。将来はオリンピックに出たい」と目を輝かせる。
県内クラブでアイスダンスを主戦場とする選手は10人ほどにとどまるが、昨年末の全日本選手権では、ともに倉敷FSCの小松原美里(学芸館高出)、平山姫里有(岡山南高出)がそれぞれ海外パートナーと組みワンツーフィニッシュ。小松原は世界選手権(20日開幕・さいたま市)に初出場する。
恵まれたリンク環境を基盤に、男子シングルで高橋大輔(関大KFSC、翠松高出)と田中刑事(倉敷芸科大大学院)の2人のオリンピアンを輩出している岡山。県スケート連盟の藤原利章理事長は「アイスダンスでも普及と強化をサポートし、男子シングルに続いて五輪に選手を送り込みたい」としている。
アイスダンス 男女一組で音楽に合わせてステップ、リフト、スピンなどの技術や互いの動きの一致性を競う。約2分50秒のリズムダンス、約4分のフリーダンスの合計得点で順位を決定。同じ男女一組の「ペア」と異なり、基本的に男女が離れて滑ることはできず、1回転半を超えるジャンプや女性を頭より上に持ち上げるリフトなどが禁じられている。日本勢の最高順位は五輪が15位、世界選手権は11位。2014年ソチ五輪で始まった団体戦の種目にも当初から採用されている。
キャシー・リードさん「教え子を五輪や世界選手権に送り込みたい」
アイスダンス元五輪代表で現在プロコーチとして活動するキャシー・リードさんに選手育成や競技普及への思いを聞いた。
―倉敷で指導に携わるようになったきっかけは。
「2015年4月の引退後、関大を拠点にコーチや振り付けを行う中で縁あって倉敷FSCの佐々木美行監督に声を掛けてもらった。現役時代に一時、同じコーチについていた高橋大輔選手の出身クラブでもあり、オファーはうれしかった」
―2016年からほぼ毎月レッスンに訪れている。
「倉敷の子どもたちは初めはシャイだったけど、少しずつ成長している。私も小さい頃は恥ずかしがり屋で表現をするのが苦手だった。表現力は生まれ持っての素質のように思われるが、練習で上達する。表情をつくったり、音楽に合わせて体を動かすトレーニングの積み重ねが大事」
―国内ではシングルに選手が偏り、アイスダンスの普及はこれからだ。
「エッジを深く倒して滑るアイスダンスのスケーティング技術や、フロア(床)でのダンス練習はシングルの選手にも役立つ。日本はみんながシングルに取り組み、練習もジャンプ重視になりがち。タレント(才能)や将来性のあるスケーターが多いので、アイスダンスにも挑戦してほしい」
―岡山で指導してみて感じることは。
「岡山県はリンク環境が素晴らしく、アイスダンスの選手でもじっくり練習できる。ダンスレッスンができるフロアもリンクに併設されている。教え子を五輪や世界選手権に送り込むのが私の夢。岡山の若い選手たちと一緒に頑張りたい」
「動きを合わせて」「エッジワークを意識しよう」―。岡山国際スケートリンク(岡山市)で昨年末に行われたアイスダンスの合宿。小学生から日本代表まで県内外の男女約50人が3日間滑り込んだ。
主宰するのは、元世界選手権代表で同リンクを拠点に指導する有川梨絵コーチ(38)。「始めたくても機会がない、という声に応えたかった」と、2013年から毎年開く。全国でも珍しいという試みに、参加者は年々増加。スキルアップに加え、技術レベルや相性を確認しながらパートナーを選べる貴重な場にもなっている。
■ シングル偏重
フィギュアの国内競技人口は、五輪などで日本勢の活躍が際立つシングルに偏重し、アイスダンスは極端に少ない。日本スケート連盟によると、今季の競技者登録数5200人のうち、全日本選手権と各地であったその予選に出場したのはジュニア・ノービス(11~19歳)を含め、計11組しかいなかった。
1回転半を超えるジャンプが禁止のアイスダンスには、高難度のジャンプ習得に苦しんだ女子がシングルから転向するケースが多い。一方、「男子は特に意識がシングルに向き、数が増えない」(同連盟強化部)。パートナーが見つからず、練習リンクやコーチの不足もあって、欧米に渡る女子選手は少なくない。
倉敷市出身で17年に現役引退した平井絵己さん(32)=翠松高出=も、その一人。シングルから転向して日本の男子選手と組んでいたが、高いレベルを求めて強豪国のフランスに渡り、グランプリシリーズや四大陸選手権に出場した。
現在、岡山とフランスで指導に携わる平井さんは「海外では小さい頃からアイスダンスに取り組ませている。氷上以外にもタンゴなどフロアダンスの専門指導者がおり、表現力も鍛えられる」と環境の違いを指摘する。
■ 恵まれた環境
選手に早い段階からアイスダンスの魅力を伝えているのは、平井さんもOGとして指導に訪れる倉敷FSCだ。五輪に2度出場したキャシー・リードさん(31)を16年から毎月、招へい。練習会場のヘルスピア倉敷(倉敷市)で小中学生らにシングルにもつながるスケーティング練習、フロアでのダンスを通して身のこなしや表情のつくり方まで教える。
公式戦に出られない子どもたちにはクラブ主催のエキシビションに出場させる。倉敷・郷内小4年の小河原泉颯(いぶき)、笠岡・神内小2年の吉田菫は「踊りの動きが合った時は楽しい。将来はオリンピックに出たい」と目を輝かせる。
県内クラブでアイスダンスを主戦場とする選手は10人ほどにとどまるが、昨年末の全日本選手権では、ともに倉敷FSCの小松原美里(学芸館高出)、平山姫里有(岡山南高出)がそれぞれ海外パートナーと組みワンツーフィニッシュ。小松原は世界選手権(20日開幕・さいたま市)に初出場する。
恵まれたリンク環境を基盤に、男子シングルで高橋大輔(関大KFSC、翠松高出)と田中刑事(倉敷芸科大大学院)の2人のオリンピアンを輩出している岡山。県スケート連盟の藤原利章理事長は「アイスダンスでも普及と強化をサポートし、男子シングルに続いて五輪に選手を送り込みたい」としている。
アイスダンス 男女一組で音楽に合わせてステップ、リフト、スピンなどの技術や互いの動きの一致性を競う。約2分50秒のリズムダンス、約4分のフリーダンスの合計得点で順位を決定。同じ男女一組の「ペア」と異なり、基本的に男女が離れて滑ることはできず、1回転半を超えるジャンプや女性を頭より上に持ち上げるリフトなどが禁じられている。日本勢の最高順位は五輪が15位、世界選手権は11位。2014年ソチ五輪で始まった団体戦の種目にも当初から採用されている。
キャシー・リードさん「教え子を五輪や世界選手権に送り込みたい」
アイスダンス元五輪代表で現在プロコーチとして活動するキャシー・リードさんに選手育成や競技普及への思いを聞いた。
―倉敷で指導に携わるようになったきっかけは。
「2015年4月の引退後、関大を拠点にコーチや振り付けを行う中で縁あって倉敷FSCの佐々木美行監督に声を掛けてもらった。現役時代に一時、同じコーチについていた高橋大輔選手の出身クラブでもあり、オファーはうれしかった」
―2016年からほぼ毎月レッスンに訪れている。
「倉敷の子どもたちは初めはシャイだったけど、少しずつ成長している。私も小さい頃は恥ずかしがり屋で表現をするのが苦手だった。表現力は生まれ持っての素質のように思われるが、練習で上達する。表情をつくったり、音楽に合わせて体を動かすトレーニングの積み重ねが大事」
―国内ではシングルに選手が偏り、アイスダンスの普及はこれからだ。
「エッジを深く倒して滑るアイスダンスのスケーティング技術や、フロア(床)でのダンス練習はシングルの選手にも役立つ。日本はみんながシングルに取り組み、練習もジャンプ重視になりがち。タレント(才能)や将来性のあるスケーターが多いので、アイスダンスにも挑戦してほしい」
―岡山で指導してみて感じることは。
「岡山県はリンク環境が素晴らしく、アイスダンスの選手でもじっくり練習できる。ダンスレッスンができるフロアもリンクに併設されている。教え子を五輪や世界選手権に送り込むのが私の夢。岡山の若い選手たちと一緒に頑張りたい」
(2019年03月04日 17時25分 更新)