「飛翔する巻物」
GDには夥しい数の文書が存在する。それは、正式なカリキュラム文書もあれば、副読書的な文書もある。会合などで団員が発表した論文などでも出来が良いと判断されれば、そのままそれが回覧されて筆写されてゆくこともあった。
そのため、特定の支部でしか使われなかった文書もあれば、勝手に改変された文書もあり、そのためこれらの文書群には、いささか混乱も見られる。リガルディの「黄金の夜明け」収録の文書も、版によって差異が生じたりするのも、このためであろう。
ともあれ、GDの文書は、リガルディ、フランシス・キング、R・A・ギルバート、P・ザレウスキー、T・クーンツらの諸氏の尽力によって、かなりのものが印刷されて、我々が手に出来るようになっている。
「飛翔する巻物」は、GDの上級者達から成る内陣すなわち「ルビーの薔薇と金の十字架」団の中で回覧されていた文書である。これは、団の正式なカリキュラムを記した公式文書に次ぐ、いわば準公式文書である。
その内容は多岐に渡り、魔術に関する様々な内容を扱っている。例えば、実践例を挙げることによって、公式文書を補完するものもあれば、まったく独自のものもある。物によっては、わき道にそれすぎているのでは? としばしば批判の対象になるものもある。
これらの文書は、「曙の星」団の時代に入ると、内容が改変されたり、評価の低い補足的な文書も加えられ、混乱が見られる(とは言うものの、中には良質と評価される文書もあり、これはリガルディの「黄金の夜明け全書」に収録されている)。
一般に、我々が価値があると考える「飛翔する巻物」は、やはり1900年以前の、元祖GDのものであろう。これらは、全36巻からなり、その著者は、メイザース夫妻、ウェスコット、フロレンス・ファー、エドワード・ベリッジ、P・W・ブロック、ブロディ・イネスといった内陣の幹部達である。
なお、これらは「飛翔する巻物」および「黄金の夜明け全書」(国書刊行会)で、日本語で読むことができる。
その内容は、以下の通り。
1巻・・・団の管理運営上の記述。
2巻・・・瞑想および意志の力に関する論文。
3巻・・・団の運営に関する手続き等の記述。
4巻・・・タロットの「女帝」を例に挙げた霊的ヴィジョンの達成法。
5巻・・・想像力に関する論文。
6巻・・・2巻の補完。
7巻・・・カバラと絡めた錬金術の論文。
8巻・・・五ぼう星の描き方に関する数学的記述。
9巻・・・「生命の樹」の左右の柱のダイアグラムに関する記述。
10巻・・・5=6以下に含まれる自己犠牲と磔刑の象徴に関する解説。5=6イニシエーションの象徴はもちろん、祭壇図版の理解に重要。
11巻・・・霊視(スクライング)について。
12巻・・・テレズマティック・イメージの作成、実践方法。これを読まずして、護符の聖別を語るなかれ。
13巻・・・秘密保持とヘルメス的愛について。
14巻・・・護符と煌くタブレットに関する論文。
15巻・・・人間と神に関する論文。
16巻・・・薔薇十字団の歴史について。
17巻・・・儀式場「地下納骨堂」の七壁について。
18巻・・・位階の昇進について。
19巻・・・達人の目的と手段に関する論文。
20巻・・・秘教心理学について。
21巻・・・「汝自身を知れ」。内陣の小達人への演説。要するに、神性を知るには、自分自身を完全に理解し、知らなければならない。
22巻・・・自由な意志について。
23巻・・・タットワのプリティヴィのテジャス他を用いた瞑想の結果報告。
24巻・・・占星術についての講義の抄録。
25巻・・・霊視とヴィジョンに関する論文。
26巻・・・12巻の補足。
27巻・・・降霊術および高等魔術の原理。
28巻・・・占術における魔術道具と記章について。
29巻・・・内陣団員への通知書。
30巻・・・タットワを用いた霊視とハイエロファントのサインについて。
31巻・・・エノク文字とコプト文字の照応。
32巻・・・テーベ文字(グリモワールにも現れる魔術用の文字)について。
33巻・・・エノキアン・タブレットの区画のヴィジョンについて。七例が解説される。
34巻・・・追灘について。
35巻・・・Z1文書の序文に関する講義。
36巻・・・霊視とアストラル体投射に関する論文。
これらの文書は、いわば上級者たる内陣の小達人(Adeptus Minor)を読者対象に書かれた文書であり、基本的な部分は省略され、難解な専門用語も頻繁に登場する。さらに、わき道的な記述もある。そのため、あまり初心者向きではないという部分もある。
だが、これは、実例などを挙げて解説した、実践を主眼に置いた文書でもあり、GDの教義を実践面から理解するには、必携の書であることには変わりない。
「飛翔する巻物」 フランシス・キング篇 国書刊行会
「黄金の夜明け魔術全書 上・下」 国書刊行会
「黄金の夜明け」 江口之隆・亀井勝行 国書刊行会