フリーメーソンの位階制


 フリーメーソンの位階制度は、後世の魔術結社の位階制度に非常に大きな影響を及ぼしている。いや、多くの魔術結社の位階制は、フリーメーソンのそれを改造したものと考えても良いであろう。
 ちなみに、メーソンにおいては、位階は「儀礼(rite)」と呼ばれることもある。ただ、この「儀礼」という言葉はメーソンの中に置いては複数の意味を持つので注意が必要である。ただ、メーソンでは位階と、それに伴うイニシエーションの儀式が密接に結びついたものと考えられたため、このような言葉が用いられたのであろう。

 フリーメーソンの位階制度は、時代が下がると、非正規メーソンや擬似メーソン結社等も現われ、多岐に渡って複雑化し、多種多様である。
 しかしながら、ほとんどのフリーメーソンに共通する基本となる位階制度は存在する。それが徒弟、職人、棟梁からなる基本三位階である。
 これは、あきらかに中世のギルドにおける一般的な階級制度を踏襲したものだ。すなわち、弟子、職人、親方の階級制度である。
 アンダーソン憲章が作られる前の古いフリーメーソンの規則は「陸標」とか「古代憲章」と呼ばれる。これには「1390年版」と「1420年版」(これらの年代はきわめて眉唾である)が知られているが、これには徒弟、職人、棟梁の3位階しかない。

 ところが、もっと古くなると、メーソンの規則には、徒弟、職人(あるいは棟梁)の2つの位階しか出てこない。もともと本物の石工職人からなる、いわゆる実践的メーソンには、2種類の位階しかなかったのである。
 要するに、「職人」と「棟梁」が、同じ位階を指していたのである。
 また、石工職人以外が参加する思弁的メーソンも初期のうちは、2位階しかなかったらしい。それがいつのまにか、3位階に増やされてしまった。いつ、どのような理由で、どのような経緯で、位階が2つから3つに増やされたのか、それは良く分ってはいない。
 だが、最終的には、この3つの位階からなる制度が、フリーメーソンリーの位階の基本となったということである。

 しかしながら、時代が下がると、メーソンが大流行し、組織も巨大化、多様化が進む。こうなると、たった3つしか無い位階制度に、足りないものを感じる人が増えてくる。
 その結果、後世になると、主にフランスのメーソンを中心に、位階制度が増やされることになる。
 こうして、「基本3位階」の他に、「上位位階」や「補助位階」と言ったものが作られるようになってゆくのである。

 「基本3位階」からなる団を「ブルー・ロッジ」と呼ぶ。
 基本の3位階より、上位の位階を持つ者からなる「上位ロッジ」が、この「ブルー・ロッジ」の上に置かれることもあった。
 こうした上位位階の存在は、公にはされず、秘密の存在とされることが多かった。
 魔術結社に見られる「外陣」と「内陣」の原型がここに見られることもが分るであろう。

 ただ、こうした「上位ロッジ」の扱いは、団によって異なる。勿論、これは上位幹部たちから成る、ブルー・ロッジの上部の組織として機能することもあった。
 あるいは通常の位階制度とは別次元と考えられ、通常の位階制度とは遊離したものであることもあった。こうした場合、「上位位階」とは区別して「補助位階」と呼ばれることもあった。
 このように上位ロッジは、上部組織であることもあったし、あるいは分化会、付属団体として機能することも多かった。こうした上位ロッジの仕組みや呼び名は、まちまちである。チャプターとか評議会、カレッジ、枢機卿会議、騎士団など様々な名で呼ばれた。
 こうした上位ロッジは、基本となるブルー・ロッジとは別に分派を作ることもあり、非常にややこしい。
 基本的に上位ロッジもまた、メーソンをとりまとめる大ロッジの管轄下に置かれたが、これとは別に上位ロッジだけを統括する「大チャプター」とか「大評議会」と呼ばれる組織が作られることもあった。

 例えば、古式公認スコットランドのメーソンでは、位階は実に33にもおよんだ。
 徒弟、職人、棟梁のブルー・ロッジの上に、秘密の棟梁、完全なる棟梁、親密なる秘書、警視総監および判事、建築物の管理人、9の選民、15の選民、選ばれたる崇高なる騎士、大棟梁の建築家、第9のアーチの騎士、偉大なる選民完全なる崇高な者、東方の剣の騎士、エルサレムの王子、東方および西方の騎士、薔薇十字の騎士、大司祭長、終身棟梁、ノアの長老、リナバスの王子、幕舎の長、幕舎の王子、真鍮の蛇の騎士、慈悲の王子、聖堂の大司令官、太陽の騎士、聖アンデレの騎士、カドシュの選ばれたる大騎士、大監督、王者の秘密の崇高な王子、最高大総監である。
 そして、これらのブルー・ロッジの上の上位位階は、6つの上位ロッジからなっている。
 また、アメリカ系のロッジでは、徒弟、職人、棟梁のブルー・ロッジの上に、さらに10の位階を設け、これらの上位ロッジを「ヨーク・ライト」と呼んだ。これを構成する10の位階とは、著名な棟梁、巨匠の棟梁、最優秀の棟梁、ロイヤル・アーチ、王者の棟梁、選りすぐりの棟梁、秀逸な棟梁、赤十字の騎士、テンプル騎士、マルタ騎士である。

 メーソンの団員達は、入会して徒弟になることを、「入門する(to be entered)」と呼び、職人に昇進することを「通過する(to be passed)」と呼び、棟梁になることを「昇進する(to be raised)」と呼んだ。また上位位階の例えばロイヤル・アーチになるときは「栄進する(to be exalted)」と呼んで区別した。
 こうした用語の違いにも、イニシエーションの象徴的な秘儀が隠されていると言う。

 ただ、フリーメーソンリーの位階制度は本当に千差万別であり、一概には言えない。
 また現代でも上位位階については秘密にしているロッジもあり、分らない点も多い。


「秘密結社の事典」 有澤玲著 柏書房
「結社の時代」 野崎嘉信訳 マーク・C・カーンズ著 法政大学出版局
「フリーメーソンリー」 湯浅慎一著 中公新書