ドイツ戦闘機隊エースとの対話


 元ソ連兵へのインタビューを紹介している「兵士たちとの対話」の中でも初の番外編として、ソ連と戦った側の兵士の声をご紹介することにしたい。証言者の名はアルフレート・グリスラフスキ、ドイツ空軍の戦闘機パイロット。通算撃墜機数133機の大エースで、これまで「兵士たちとの対話」で取り上げてきた人物の中では一番の有名人だろう。数多くの撃墜王を輩出したJG52(第52戦闘飛行団)の一員として、2年にわたり東部戦線で戦っているから、ソ連とは縁が深い戦歴の持ち主なのである(ちなみに撃墜機数のうち実に109がソ連機によって占められている)。
 このグリスラフスキ氏に対し、ロシアの空戦史研究家がインタビューを行ったのが2003年4月13日。原テキストの前書きによれば、ロシア人がグリスラフスキ氏から取ったインタビューとしては初のものになる。さらにグリスラフスキ氏は同年9月19日に83歳で逝去しているから、その人生において最後のインタビューであった可能性が高いという。
 収録の場にはグリスラフスキ氏の子息であるユルゲン・グリスラフスキ氏が同席し、通訳の役割を果たした(質問者は英語で問いかけ、ユルゲン氏がこれをドイツ語に翻訳)。このため意思疎通に多少の齟齬があったらしく、一読すればそのことがお分かりいただけると思う。さらに、そのテキストをロシア語化したものを、今度はここで日本語に訳して皆様にご紹介しているわけだから、重訳もいいところである。無論、本稿の読みにくさに関しては日本語役者が最終的な責任を負うわけであるが、上記のような履歴を持つ文章だということを一応言い訳しておく。
 また、ユルゲン・グリスラフスキ氏は数度にわたって父の言葉を訳すのではなく、自らの意見を述べている。その部分は分かりやすくするため斜体表示にしておいた。

 数え切れないほどのドイツ軍戦記が提供されている今の日本では、ドイツ空軍エースの談話の掲載などはそれこそ屋上屋を架すが如き試みであるかもしれない。しかし、かつての敵手であるロシア人からのインタビューという点で、多少なりとも新鮮味はあると思う。談話の中に表れたグリスラフスキ氏の人柄にも魅かれるものがある。独ソ航空戦史の愛好家のみならず、あの時代を生きた人々の個性に関心を持つ方には、読んでいただくだけの価値はあると思う。

アルフレート・グリスラフスキへのインタビュー

 他方、これまでソ連側の体験談に触れる機会の多かった訳者にとり、ドイツ軍人の談話の翻訳は様々な意味で興味深く、刺激的な体験であった。折角の機会であるから、簡単に所感をまとめておきたいと思う。研究というほどの内容はなく、言ってみれば読書感想文的な代物である。たった一人のインタビューを種に、ここまで風呂敷を広げてしまっていいの?という突っ込みを自分で自分に入れながら。無理して読む必要はないと思いますが、もしも関心がおありなら…

グリスラフスキ談話に関する所感


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