破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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それの言葉は、彼の無事を心から喜んでいた人たちの和やかな雰囲気を凍らせるのに十分な威力を持っていた。
唯一人、廉姫を除いて。
「どうあっても必ず……死ぬ……」
皆が驚きで言葉を失うなか、何故かその運命の当事者たる又兵衛だけは神妙な面持ちで、ウイスに打ち明けられた自分の運命を然程驚きもせず反芻するのだった。
「そのお顔、何となく悟られていた様ですね」
又兵衛の反応に意外に思う様子を見せる事もなく、いつもと同じ微笑みを称えたままウイスが又兵衛に言った。
「拙者は……ういす殿……」
又兵衛が何とも言えないと言った様子で答えに戸惑っていると、しんのすけがその傍らから猛然と抗議してきた。
「もう、何言ってるの青色のおじさん! オマタのおじさんが死ぬわけないでしょ! ほら、ちゃんと生きてるじゃん!」
「しんのすけ……」
一度瀕死の又兵衛の姿を見てしまったしんのすけにはあの時の光景がまだ強く記憶に残っているのだろう。
珍しく本気で腹を立てている様子で衝撃の事実を告げたウイスを非難した。
そんなしんのすけをみさえが叱る。
「こら、しんのすけ!」
「だってあのおじさんが……!」
「分ったから落ち着け。ほら、ウイスさんだって意地悪で言ってる様には見えなかったろ? なにか理由があるんだよ」
ひろしとみさえがなんとかしんのすけを宥めすかそうするが、ウイスの言葉が放った火の粉は他の所にも既に飛び火していた。
「だとしても聞き捨てならんお言葉じゃ! ういす殿にはしっかり説明して頂きたい!」
「そうだ! そうじゃねぇと納得いかねぇ!」
「これお前たち……」
仁右衛門と彦蔵がしんのすけに続いて抗議の声を上げた。
又兵衛もそれを何とか宥めようとするが……。
「ウイス殿、ご説明して頂けますか?」
一人凛とした声で廉姫もウイスに質問してきた。
非難はせず、その顔からは怒りの様子こそ窺えなかったが、その表情は固かった。
「姫様……」
「ええ、いいですよ」
ウイスはそんな彼らの態度に特に気分を害した様子も見せずに明るい声で応じた。
「まず此処ですが、しんのすけ君? さっき言っていた事は本当ですか? 此処が君とマタベーさんが初めて会った場所だったのかな?」
「うん、そうだよ。おらここで鉄砲を持った時代劇の撮影してる人がオマタのオジサンの所に行くのを見たの。そしたらオジサンが自分からこっちに来て……」
「鉄砲……!」
又兵衛がハッとした表情をした。
「そうです、又兵衛さん。貴方は最初、本当はここで命を落とす筈だったんですよ」
「では拙者が大蔵井との戦の後に撃たれたのは……」
「一度確定した運命というのは絶対です。くしくも貴方はここで運命の通りになる筈だったんですよ」
「じゃが、待たれよ! 確かに若は撃たれたが、その撃った者はあの後いくら探しても見当たらなかったそれは一体どう説明されるおつもりじゃ?」
まだウイスの言葉に抵抗を隠せない仁右衛門が若干怒気を込めた声で説明を求めて来た。
「ああ、それはですね」
「少し説明が前後しますが、又兵衛さんの運命の話をした後に時空の歪みの話もした事を覚えておいでですか?」
「ええ勿論、即ちタイムパラドックスですね?」
「あなた……」
「へっ」
ひろしのドヤ顔にみさえとひまわりは揃って呆れた顔をして息を吐いた。
「ええ、そうです。くしくも又兵衛さんの確定した運命は時空の歪みまでも利用し、再び完結を果たそうとしたんです。いや、実際にはもう完結してしまいましたが」
「ウイス殿が仰ってる事はよく解らぬ。つまりどういう事なのじゃ?」
ついに理解するのを諦めた仁右衛門が困った顔で誰にともなく愚痴を漏らした。
側にいた彦蔵や儀助も全く理解できていない様子だ。
「焦らないで下さい。もう終わりますから」
ウイスはあくまでいつもの調子でにこやかに説明を続けた。
「しんのすけ君、君が初めてここでマタベーさんに会う前にここに人がいたんですね?」
「うん! 映画の撮影をしてた!」
「その人達は又兵衛さんを撃とうとしてたのですか?」
「うん。撃ったよ! でもおじさん、逃げないで自分から走って来てそれで……」
「しんのすけ、もう良い」
しんのすけがその時の様子を興奮して喋ろうとしていたのを横から又兵衛が全てを悟った様子で遮った。
「おじさん?」
「ウイス殿、ではその者らが拙者を撃ったのだと?」
「半分正解です」
「半分?」
今まで黙って聞いていた廉姫が疑問の声を漏らした。
元々聡明だった彼女は自分なりにウイスの話を理解しようとしていたが、それもそろそろ限界が見えて来ていたようで、その漏らした声には少しだけ疲労が感じて取れた。
「こほん、皆さん。ここには先ほども申しましたが、時空の歪みがあります。今は大分安定していますが、ここは常に時空の安定が不安定で見た目こそ変わりませんが、結構いろんな世界に繋がったり切れたりしています」
「繋がったり、消えたり……まさか!」
本日二度目のハッとした表所を又兵衛に続いてひろしがした。
しかしその顔は又兵衛と違って、明らかに作られた演技顔だった。
「流石はひろしさんですね。そうです。実は又兵衛さんが撃たれた時、ここには最初に又兵衛さを狙っていた兵隊がいたんでしょう」
又兵衛は思い出した。
そういえば自分が初めてしんのすけと出会った時も自分を狙っていた兵を見失っていた。
いや、あの時は自分から見逃したというのもあるし、仁右衛門らと話していて気を取られていたというのもあるが。
「勿論彼らが見ていた光景とは違いますから、最初は戸惑ったかもしれません。しかし場所は同じで狙っていた標的も同じ、ともすれば状況を理解するより彼らは目的を果たすことを優先したはずです」
「……」
「残念ながら彼らは撃った弾が又兵衛さんに命中したのを見届ける事ができずに元居た場所に戻ってしまったみたいですね」
「なるほど。だから誰も……」
果たして完璧に理解しているのかは不明だが、少なくとも傍から見たら全てを理解したように見える顔でひろしは一人うんうんと頷いた。
「申し訳ございません。不出来な私ではまだウイス殿のお話が理解できていないのですが、一つだけ理解できたことがあります。それを確認……お教え頂いても宜しいでしょうか?」
明らかに緊張した面持ちで廉姫がウイスに再び質問してきた。
その表情は今までの中で一番固く、寧ろ青ざめてさえおり、発する言葉も何かの事実に耐えるようにどこか震えていた。
そんな廉姫を安心させるようにウイスは柔らかい声で応じた。
「勿論です。どうぞ」
「ウイス殿は又兵衛が必ず死ぬ運命にあると申されました。それは……やはり今後も変わらないのでしょうか……?」
「ああ、その事ですか。大丈夫ですよ。安心してください。その運命もう終わってますから」
ウイスは事もなげにあっさりと更に衝撃的な朗報を皆に伝えた。
「……暇だな」
ビルスは一人原っぱで横になり空を眺めていた。
そんな彼に話しかけているように思えなくもない音が耳に入って来た。
「たー」
「うん?」
「わんわん!」
身体を起こすと、ひまわりが小さな手に握りしめた光る石のような物をビルスに差し出し、横に居た白いワタの様な犬もそれに倣って口に咥えていた野花をビルスの足元に置いた。
「たーぁ?」
「なに、くれるの?」
「あぃっ」
「ワン♪」
「玩具の宝石と花……あの男を助けたお礼?」
「たーあ、うっ」
「わん!」
「ふーん……赤ん坊と犬なのにしっかりしてるねぇ。うん、礼を言う」
「たっ」
「ク~ン」
「そだね。ま、もう少しだから我慢してなよ」
犬と赤ん坊の意思が解るのか、ビルスはウイスの話に退屈して自分にお礼を伝えに来た二人に感謝と、珍しく気遣いの言葉を送った。
ちょーっと長くなりました。
いろいろ大事なところだったの詰め込んだ感がしますね。
でも次でこの話も終わりの予定なんで少しくらいはいいかな。
ネタバレするとちょっと某タイムりープものの作品を参考にしました。
ていうかまんまですけど、これ以外に適当な展開が思いつかなかった筆者の平凡さをお許しください。