破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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彼はその姿を見て直ぐに自分の命を救ってくれた神だという事に気付いた。
礼を言わなければ、そう又兵衛が考えてどう切り出すか考えていたとろこ、ウイスの方から先に又兵衛に話し掛けて来た。
「他に怪我はなかったと思いますが、どこか気になる所はありますか?」
お稲荷様の付き人であろうか、やや顔色の悪い変わった出で立ちの男が又兵衛の具合を確認してきた。
又兵衛はビルスを前にすると、即座にその場に膝を着き、深々と頭を下げながら礼を言った。
「お初にお目に掛かります。拙者、春日家家臣、井尻又兵衛由俊と申します!」
「稲荷神様、この度は拙者如き一介の武士の命をお救い頂き、誠に、心から御礼申し上げます!」
「いなり? いなりならもう食べたぞ。美味かった」
ビルスは又兵衛の言う稲荷神が自分の事を指しているとは気付かずに、先程みさえに作ってもらった稲荷ずしの感想を言ってきた。
「はっ、稲荷神ではありませんでしたか! これは失礼致しました。何処かの神かは存じませぬが、さぞかし徳の高い大神とお見受け致します」
「では改めて此処に、御神殿に御礼申し上げまする!」
「……何を言ってるんだこいつは」
「皆さんと一緒ですよ。ビルス様の事を神様だとは思っても、どういうお方なのか理解できていないんです」
「なるほど。僕は……やっぱり言わない方がいいのか?」
「“ビルス神”で問題ないかと。下手に何の神か言うといろいろと面倒な事になるかも……。例えば美味しい食べ物を食べるチャンスを失うとか」
ビルスがしんのすけ達に受け入られる過程で何があったのかは定かではないが、この時点ではビルスの事は“ビルス神”で通っている様だった。
「む、それは大変だな。よし分った。じゃ、それで通そう」
「えーっと、君は……。何て言ったっけ? いじ……?」
「井尻又兵衛由俊です。言い難いのでしたら又兵衛とお呼び下され」
「ん、そうか。マタベー、確かに君を助けたのは僕だ。だけどお礼とかはもういいよ。ここで十分に美味しい物を頂いているからね」
『治したのは私なんですけどねぇ』
『うるさい! 分かってる。一々念波で話してくるな』
「は……しかし」
又兵衛はそんなビルスの言葉を受けるも、命を助けられた恩を直接自分の手で返せていない事を気にしている様子だった。
「君の主人のカスガにもお礼の言葉を貰っている。もう十分だよ」
自分の主が礼を贈っているのならこれはもう自分が出る幕はない。
主君が礼を済ませているのにその後から家臣の自分が礼を重ねるわけにはいかなかった。
そんな事をすれば康綱様の面子を潰してしまう事になるからだ。
「はっ、左様でしたか。では、拙者からは改めて感謝のお言葉をお伝えする事で、ビルス神殿へのお礼とさせて頂きます」
「この世界の人間は一体何回お礼を言えば気が済むんだろうな」
「まあいいではありませんか。今のところここまで礼儀の正しい人たちがいる世界も初めてな事ですし」
「まあそれもそうか」
確かに、少々時代が今まで旅してきた世界と比べて原始的だが、そんな文明の低さに対して皆驚くほど礼儀正しく態度も控えめだった。
ビルスにとってもこれは中々に興味深い体験でもあった。
しかも、出てくる料理があの男がいた世界と比べても遜色がないほど美味かった。
これは、材料がないと嘆いたみさえを一時的に元の世界に返した甲斐があったというものだ。
又兵衛が意識を回復する前、彼を助けた事ですっかり皆と仲良くなり受け入れられてたビルス達は、その礼として料理を振る舞われることになった。
だがその時にはりきって料理をしようと意気込んでいたみさえが、料理をする為の材料がそもそも不足していた事に気付いて狼狽したのだ。
その時にウイスが事情を知り、彼がいとも簡単に時空への入り口をみさえたちの前に作って彼女に元の世界へ買い出しに行かせたのだった。
「ねえねえビルス様。ビルス様はどうやってここに来たの? どうやってオマタのおじさんを助けてくれたの?」
又兵衛とビルスが話しているところにしんのすけが駆け寄り、ビルスにいろいろと質問をしてきた。
そういえばそうだ。
儂は撃たれた筈だ。
では、その撃った者は?
又兵衛もしんのすけの言葉を聞いて、自分が撃たれてここで目覚めるまでの顛末が気になる様子だった。
「ん? そうだな。じゃ、美味しい食べ物もこんなにくれた事だし、そんな事でよければ教えてあげようか。ウイス」
「はいはい。では皆さん、お食事が済んで落ち着かれましたら一度ちょっとした見学会にでも行きましょうか」
ウイスはいつも通り良く通る声でその場に居た全員に声を掛けた。
次のお話が又兵衛が誰に撃たれたか、の核心になる話になる予定です。
ちょっと投稿が遅くなって申し訳ないです。
こんな作品でも待っていてくれた人がいる事が嬉しいですね。
ありがとうございますよ♪