破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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それでも二人は、今は互いの思いが通じ合っただけで十分であった。
「なんだ? この賑やかな声は?」
又兵衛は廉姫を伴って、自分の部屋からは見えない庭の奥の様子を見る為に縁側へと出た。
そこには思いもよらぬ光景が広がっていた。
「んぐ……んぐ……んぐ。……ぷひゃぁ」
「よっ、社長! いい飲みっぷりですねぇ!」
まるで仕事で接待をするかのような恭しい態度でビルスの酒の飲みっぷりを褒めるひろし。
「ほぉ、これはまた美味ですねぇ♪ ちょっと味付けが濃い気がしますけど」
「あ、そうですか? 口にあってよかったわぁ。あ、味付けが濃いのは多分食材の所為だと思います」
ウイスが料理を口にして褒める度に上機嫌になって喜び、味付けに関しては食材の所為にするみさえ。
「いや、今日は本当にめでたい日じゃ! 戦には勝つし、若の命は助かるし! いや、ビルス神様、本当に感謝致しますじゃぁ!」
ひろし達と一緒に酒を飲みながら祝杯をあげる仁右衛門。
「ほんとに……ほんとに良かった……。おれぁまた、住む場所が、仕えるお方を失っちまうのかと……」
「兄貴……」
又兵衛の存命を心から喜び、男泣きをする彦蔵とそれに同調する儀助。
そんな賑やかな光景が又兵衛と廉姫の前に広がっていた。
「これは……」
又兵衛はすっかり宴会場となっている自分の庭を見渡して、驚きで声が出なかった。
「おお! 若ぁ!」
又兵衛の姿を認めた仁右衛門が嬉しそうに走り寄って来た。
「「旦那!」」
同じく彦蔵と儀助もそれに続いて又兵衛の回復を喜ぶ。
「又兵衛さん? 起きたんだ!」
「えっ、ホント!?」
ひろしとみさえも仁右衛門達の声を聞いて又兵衛のもとへと駆け寄ってきた。
「皆、お前の無事を喜んでいるな」
廉姫が微笑みながら又兵衛の方を見る。
彼女は又兵衛が生きて自分の前にいる事の幸せを改めて実感していた。
丁度その時、仁右衛門が目ざとく又兵衛と廉姫の二人距離が近い事に気付いて早速茶々を入れてきた。
「おやぁ? 若、姫様との距離が心なしか近くないかの?」
その言葉に、その場に居た一同が又兵衛と廉姫を注視してきた。
「お、おい仁右衛門! な、何を言いだすのだ! そ、そのようなことあ――」
顔を真っ赤にして明らかに動揺した声で仁右衛門を叱ろうとする又兵衛だったが、その声は黄色い声によって途中でかき消された。
「え? え? きゃぁ嘘! ねぇ、ホントに? ホントに?!」
直ぐにみさえが興味を持ち、半分確信が籠った目で噂の真偽を確かめてきた。
「本当ですかい旦那?! おめでとうございやす!!」
「おめでとうございます!!」
彦蔵と儀助は既に完全に信じて祝辞まで送る始末だった。
「こ、こやつ……!」
又兵衛が更に顔を真っ赤にして口を開こうとした時。
「おじさん!」
しんのすけが怒った声で又兵衛の名前を叫んだ。
「ぐ……しんのすけ……」
自分が怒られた意味を知る又兵衛は言葉を飲み込むしかなかった。
そして、その時自分の手を握る暖かな感触に気付いた。
はっとして隣を見ると廉姫が頬を染めながらも笑顔で彼の手を握っていた。
「又兵衛、もう良いではないか」
「いや、それは……。まだ殿にすら何も申し上げてはないので……」
「父上は暫く、私の事は何処にも嫁にやるつもりはないと言っていた。外で駄目なら内なら問題ない筈。物言いは任せろ、必ず説得して見せる」
「ひ、姫様……」
廉姫の強い決意を目の当たりにした上にそれを皆に観られた所為で、ついに又兵衛の顔はユデダコと見間違うまでに手の甲まで赤くなった。
場内の雰囲気は甘々の熱々となっていたが、そんな雰囲気を何とも思ってないような抑揚のない声が群衆の中から響いた。
「やぁ、目が覚めたんだね」
又兵衛は目を見開いた。
見間違う筈がない、目の前に現れたのは彼が気を失う寸前に見たお稲荷様だった。
ビルス様はいい加減出番が少ないのと、自分の事をお稲荷様と呼ばれるのを嫌がってるかもしれませんね。
でももう少し我慢してくださいね。
お願いします。