破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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周りは全て霞がかっており、何も見えない。
そんな中で彼は自分を呼ぶ声を聞いた。
「おい、青空侍いつまで寝ているつもりだ?」
声が聞こえた。
懐かしくも、その声を耳にするだけで心が温かくなる声が。
「ついに空を眺めるだけでなくごろ寝までするようになったか」
誰であったか、その声を知っている筈なのに思い出せない。
「いい加減に起きぬか」
忘れられない……いや、忘れたくない声だ。
「おい、起きろ」
誰だ、儂を呼ぶのは……その声の主は?
「起きぬか! 又兵衛!!」
「廉姫様!!」
又兵衛は自分を呼ぶ声の主を思い出して目を覚ました。
「……儂は」
又兵衛は自分の置かれた状況を理解できず、辺りを見回した。
頭はまだ混乱していたが見間違える筈もない、そこは自分の部屋だった。
(儂は何故ここに……?)
自分の身に起こった事を思い出そうとする。
すると頭の中で一発の銃声の響きを思い出した。
『パァーン!』
(そうだ、儂は……)
「おじさん?」
聞き慣れた声がした。
声がした方を向くと、そこにきょとんした顔で自分を見つめる少年がいた。
「しんのすけ……?」
又兵衛は直ぐに少年の名を思い出した。
忘れる筈もない。
僅かの間ではあるが、この屋敷で生活を共にし、そして共に武士の誓い(金打)をした仲だ。
果ては共に戦場まで駆け抜け、敵大将を追いつめる手柄まで立てたこの勇敢な少年は、紛れもない自分の戦友だった。
「おじさん!」
しんのすけは靴を脱ぎ散らかすと、縁側に飛び乗って転がるように又兵衛の元に走り寄って来た。
「おじさん、おケガはもう大丈夫なの?」
「怪我……? っ!」
又兵衛はしんのすけの言葉を聞いてハッとして腹を押さえた。
そうだ、自分は何者かに狙撃されたのだ。
「……?」
又兵衛は撃たれた辺りを押さえている手に違和感を覚えた。
傷の感触がない。
それどころか痛みすら感じなかった。
ふと、着物をはだけてその箇所を見ると又兵衛は驚いた。
撃たれた箇所になんの手当てもされてないどころか、そもそも傷自体が見当たらなかったからだ。
「これは、一体……」
唖然としている又兵衛を余所に、その元気な様子を確認して嬉しそうな表情のしんのすけが興奮した様子で話してきた。
「あのねあのね。おじさんが撃たれちゃった時に青色の変なおじさんと猫みたいな怪人の人がね、おじさんを助けてくれたの!」
「青色? 猫みたいな……。っ!」
又兵衛はまたハッとした。
そうだ自分は死の間際にお稲荷様の顔を見たのだ。
「すると、しんのすけ。儂の傷はその方達が治してくれたのか?」
「そうだよ! んとね、青色のおじさんが持ってた杖がピカーって光ってあっという間に治しちゃったの」
「なんと……」
しんのすけの話を聞いて又兵衛がまだ自分の命が助かった事に驚いていると。
「又兵衛!!」
凛とした声が聞こえた。
「廉姫様……」
部屋の前に廉姫が来ていた。
余程急いで来たのか彼女の息は切れ切れで、肩を大きく揺らしていた。
又兵衛は何を言っていいのか分からずただ廉姫を見つめる事しかできなかった。
だが、やがてふと我に返ると慌てて居住まいを正して帰陣の報告と撃たれた自分の不甲斐なさを詫びようとした。
そんな又兵衛を見ると廉姫は、目を鋭くしてこう一喝した。
「いらぬ!」
「は、はっ」
廉姫の言葉にビクりと頭を垂れようとしていた背中が止まった。
廉姫はそのまま動けないでいる又兵衛にズンズンと近づくと、いつかの時の様に彼の胸に飛び込んで涙した。
「れ……姫様……!」
「又兵衛、よくぞ……よくぞ……。う、うぁぁぁぁぁっ」
驚愕に固まる又兵衛を他所に廉姫は涙で息を詰まらせながら強く、強く彼を抱きしめた。
対する又兵衛は林檎の様に顔を真っ赤にして、そして口は鯉の様にパクパクさせて何とか自分を落ち着かせようとしていた。
そんな彼の目に、珍しく真剣な顔のしんのすけが自分を睨んでいる姿が映った。
しんのすけは何も言わずただ、強く目の前で抱き締める動作をして廉姫にもそうしろと伝えてきた。
(そんなことでき……)
心の中で否定しようとした又兵衛の目に再びしんのすけの姿が映った。
よく見るとしんのすけは目尻に涙を溜めていた。
悔しさや嫉妬からではない、今こそそうすべきだと抱き締めた後の感動を先に又兵衛に伝えていたのだ。
しんのすけは自分が廉姫に恋心を持っている事を言わないと誓っていた。
だから彼女がどんなに又兵衛に恋い焦がれる姿を見せている時でも、敢えてその背中を押さずにいたのだ。
又兵衛はそれを瞬時に理解した。
ならば、どうすべきか。
又兵衛は心の裡に溜まっていたあらゆるものを認めて、そして吐き出すことにした。
決するは今ぞ。
「姫様……!」
又兵衛は廉姫がしていたように自分も彼女の背中に手を回し、そしてその手を、固く結んだ。
「っ、あ……」
廉姫がその感触に、明らかに驚きではない感情で目を見開く。
「姫……唯一言のみ申し上げます」
「な……んだ……?」
震える声で廉姫は先を促す。
「……お慕い、申しております……」
「あ……、またべ……え……。あああああああああ!」
待ちに待った言葉だった。
もう聞けぬものだと思っていた。
だが、やっとその言葉を聞いた瞬間、廉姫の中であらゆる感情が喜びへと変わり、涙となって溢れ出た。
「れんちゃん、よかったね……」
廉姫の歓喜の鳴き声は何時までも響き、そしてその光景を見て涙していたしんのすけの顔は、本当に嬉しそうだった。
はい、ビルス様の「ビ」の字も出てきませんね。
ただの恋愛小説になってしまいました。
でもごめんなさい、割と満足してます。
次はビルス様出るので許してください。