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2013年にモスクワで行われた拳銃所持合法化支持の集会に参加するマリア・ブティナPhoto: AP Photo

2013年にモスクワで行われた拳銃所持合法化支持の集会に参加するマリア・ブティナ
Photo: AP Photo

クーリエ・ジャポン

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Text by Toshihiro Yamada

米国でロシアの「スパイ」が拘束されたニュースが世界的に大きく報じられている。

米紙「ワシントン・ポスト」は、「ロシア政府高官とつながりのあるロシア人女性が7月16日に、ロシア政府のエージェントとして活動していた疑いで、ワシントンDCで起訴された。彼女は全米ライフル協会やそのほかの保守的な政治組織の幹部らと関係を築いていた」と報じている。

この女性は29歳のマリア・ブティナ容疑者で、「(ワシントンにある)アメリカン大学で大学院修士過程を最近になって修了したばかりだが、15日に逮捕された」という。

米ニュースブログ「ローフェア」は、起訴状を掲載して、ブティナが「ロシア政府の目的を進めるために米政界で活動する組織に入り込んでいた」と報じている。

米ニュースサイト「スレート」は、ブティナが「まずロシアの諜報機関FSB(ロシア連邦保安庁)とやりとりがあり、さらに米共和党員の人物をセックスで手懐けて操作し、さらに特別な利益団体に属する個人にもセックスで影響を与えようと試みていた」とし、「ブティナにとって(セックスは)活動を進めるのに必要な要素であるという感じだったようだ」と書く。

ちなみにFSBとは、ソ連時代の「KGB(国家保安委員会)」の後継組織だ。

ブティナは米国内に外交官として滞在するロシアの諜報員と頻繁に「個人的な食事」をしていたことをFBIは掴んでおり、近々帰国する準備を進めていたと、米誌「タイム」は報じている。またロシア政府に近いオリガルヒ(新興財閥)とも親しかったという。

米国内で外国勢力がスパイ活動をしているというのは珍しい話ではないが、ブティナの話はトランプ大統領のプーチン大統領との会談やロシアによる米選挙への不正介入などが大きな話題になる中で、注目を集めている。

米ニュースサイト「デイリー・ビースト」によれば、ブティナがある時は「ロシアの中央銀行の職員」、またある時は「銃を保持する権利を訴えるロシア組織の代表」「大学院生」「ジャーナリスト」「トランプ陣営とロシアの橋渡し役」などと、相手によって自分の見せ方を変えていた。

そしてそれによって「ワシントンDCでさらに地位の高い人たちの人脈を築いていった」という。実際にセックスで親密になっていた既出の共和党員とは一緒にコスプレ・パーティをするほどだったという。

さらに2016年の米大統領選では、トランプ候補にラスベガスのイベントで質問に立ったビデオも公開されている。実はブティナなどロシア人たちは2017年に、米共和党に繋がろうと活動をしているとしていくつものメディアで取り上げられたことがある。

米国内で活動したロシアの女性スパイといえば、最近ではアナ・チャップマンが有名だ(2010年に逮捕)。2017年にブティナがメディアで取り上げられた際、ロシア高官とみられる人がブティナへのメッセージを送っていたことが今回の捜査で明らかになっている。

こんなメッセージだ。「君はアナ・チャップマンのお株を奪ったね。彼女はおもちゃの銃でポーズをとっていたけど、君は本物の銃でポーズをとっているのが掲載されてるよ」

そしてチャップマンのように、逮捕されてしまったのである。

PROFILE

山田敏弘 ジャーナリスト、ノンフィクション作家。米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員として国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書、著書多数。プロフィール詳細

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