破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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ロゼット達はウイスが突然連れてきた生命体に絶句した。
ウイスはともかく、ビルスに次いで異形の者を見るのは、まだ慣れていなかったからだ。
「ば、化け物!」
「化け物……」
ロゼットはビルスの肝煎りで新しい神に選ばれたナメック星人(カルゴ)を見て、開口一番そう言った。
かねがね予想通りの反応だった。
そして彼がこの星においての新しい神だと説明を受けると、案の定これまでの経験から抵抗感を見せた。
そこではまた、ウイスがビルスに代って説明をした。
・人間は基本『心の支え』がないと暴走しがちな宇宙でも稀にみる程、精神的に弱い生き物であるという事。
・これまでの神の在り方が世界の『支配』だったの対して『守護』に切り替える事。
・形はどうあれ、神が存在することが世界の『安定』に繋がる事。
・新しい神が今までの神と違って、アズマリア達の言うところの善神に近く、加えて物理的に接する事が出来る分安心感もあるという事。
・神に選ばれたカルゴの種族であるナメック星人自体が人間と比べて遥かに性質的に優れている事。
以上の事を大まかに説明して何とかロゼット達の理解を得た。
「願い玉はどうします?」
「無い方がいいだろう。ここの人間たちは、前の所と比べてちょっと危ない気がするし」
「そうですね。あ、今まで前の神を信仰していた宗教勢は」
「伊達に時間を掛けて信仰してきた手前、その歴史をいきなり否定して廃教する事はないだろう。まぁ暫くは混乱するだろうけどその内自分たちの心の中に神をつくるはずだ。人間てのはそういうものさ」
「なるほど、ごもっとも」
「神殿は界王神達が用意してくれるんだっけ?」
「はい。近く、特定の者にしか認識できない不可視の神殿を作ってくれるそうです」
「そうか。カルゴ」
「は、はい!」
破壊神に名前を呼ばれ、緊張した声ででカルゴは返事をした。
「そんなに緊張しなくていいよ。神殿ができるまではロゼット達のお世話になるんだ。いいね」
「分かりました」
「あ、それと。ここの世界の邪気は結構深いものもあるので注意してください。何れ結界を張るにしろ、邪気に囚われて悪の分身を生み出さない様に心を鍛える事を常に心掛けるように」
一番重要な事という雰囲気でウイスが最後に補足した。
「はい!」
「さて、次は……アイオーン、レミントン」
「「はっ」」
すっかりビルスの忠実な僕と化した元天使と元悪魔が声を揃えて反応する。
「君たちは見た目は人間に戻ったとは言え、悪魔や天使だった頃の力はまだ多少は残っている『力ある者』だ。そんな君たちには神の付き人を命じる」
「畏まりました」
「お任せ下さい」
「あ、それとまだこの世界に残ってる天使や悪魔がいたら、神を支える役目をして欲しいからそれも伝えといて。アイオーン、君の仲間に関しては君に任せる。レミントン、君もだ。元天使は君がまとめろ」
「元々の存在理由がなくなって、手持無沙汰にしてる元悪魔達なら説き伏せるのもそう難しくないでしょう。お任せ下さい」
「こちらは少々骨が折れるかもしれませんが……与えられたお役目は我が命を賭して果たしてみせます」
「いい返事だ。さて、それじゃぁ……アズマリア」
ビルスは一仕事終わったとばかりに伸びをしながらアズマリの方を向いた。
「は、はい」
「いよいよ、約束の時だ。君が僕に願い出た時に何を言ったか覚えているね」
「はい」
「アズマリア、あなたビルス様に何か約束したの?」
「ごめんなさい、ロゼットさん……。私、実はビルス様に願いを叶えて貰う替わりに全てを捧げる誓いを立てたんです」
「全てを……って、まさか……命!」
ロゼットは親友をビルスから庇うようにアズマリアを抱きしめた。
「おい、破壊の神だからってイメージ悪過ぎだろそれ。僕はそんなものは望んじゃいないよ」
ビルスは少し焦った声で不満と否定の意を同時に表わした。
「え、それでは何を……」
自分の予想と違ったのか戸惑った顔でビルスを見るアズマリア。
そんな彼女にビルスは事もなげに自分の希望を少し期待が籠った声で言った。
「僕の望むものとは、プリンだ」
「申し訳ありません。プリンというのがどういう食べ物か分からなかったので、私には他のお料理で報いる事しか……。で、でも精一杯心を込めて作りました!」
ビルスとウイスの目の前には何の変哲もないパンが皿に乗っていた。
出来立てなのか香ばしい匂いがした。
「ふむ……」
ビルスは特に怒りも失望の色も表わさず、取り敢えずアズマリアが言った事が本当か確かめる為に味見をしてみる事にした。
彼がパンに手を伸ばそうとすると、アズマリアが控えめに提案をしてきた。
「あ、あの。塩を少しだけ掛けると美味しいですよ」
「ん? そうなのか、どれ……」パラパラ
パクっ、もぐもぐ……。
「どう、ですか?」
「……なるほどな。敢えて料理を簡素にしたのは、僕を必ず満足させる事に対して二心がない意思表示だったわけか」
「は、はい」
「だけどアズマリア。これ、もし美味しくなかったら正直言ってどうなっていたか分からなかったぞ?」
「そ、それじゃ……!」
「うん。美味い。ところで、これ以外にも美味しそうな匂いがするけど、それはくれないのかな?」
「あ、シチューですね。勿論お出しします! ビルス様がもしパンを気に入って下さらなかったら次にこれをお出しするつもりでした」
「ほほ。用心深い事ですね。あ、それ私も下さい。ついでにパンもおかわりを」
こうしてアズマリアとビルスとの間に交わされた契約は呆気なく事なきを得た。
その他の大まかな事の顛末。
ロゼットはアイオーンに弟を住まわせている場所に案内してもらい、約束通りビルスに弟の病をウイスに治療してもらった。
その際に弟はアイオーンの仲介もあってお互いに和解することが出来た。
だが、実はその時点で自分の弟に既に恋人らしき人物ができていた事までは流石に予想できておらず、彼女はそれを知って大変驚いた。
更にそこに死んだ筈のサテラの姉のフロレットまで無事な姿で出て来てきたのでその場は一時、本当に混乱した。
次にアイオーンはサテラの家族に行った事に対する謝罪をしたいと言ってきた。
彼なりの目的があったとはいえ、アイオーンがサテラに対して行った事は許さる事ではなく、面会したサテラも一時は激しく敵対心を露わにして攻撃も辞さない構えだった。
そこで生きて戻ってきたフロレットが緩衝材の役割を果たす事となり、サテラはアイオーンを赦しこそしなかったものの、二度とお互いに関わらないという条件で和睦する事となった。
元悪魔に対する新しい神への守護奉仕の打診は、アイオーンが言っていた通りスムーズに事が運んだ。
悪魔にとっては存在意義そのものが自己のアイデンティティであり重要らしく、デュフォーはアイオーンの提案を二つ返事で引き受けた。
後に彼は自分を筆頭に元悪魔を中心とした神の守護組織を立ち上げ、この世界の安定に大きく貢献する事となる。
それに対して元天使への打診は、これもレミントンが言っていた通り簡単にはいかなかった。
元々仕えていた神に忠誠心が強かった彼らは、鞍替えのようなその行為に抵抗があったらしい。
特に頭の固い連中は、あろうことかカルゴの実力を試すとまで言いだし、レミントンの静止も聞かずにカルゴがいる場所に乗り込んでいった。
だが、結果的にその行動が功を成した。
カルゴは挑んできた天使たちを戸惑いながらも全てワンパンで叩き伏せて見せたのだ。
戦闘族では無いとは言え、それなりに鍛えたナメック星人と天使との実力の差は大きかったらしく、それをまざまざと見せつけられた天使たちはあっという間に彼に心酔して忠誠を誓った。
どうも、天使たちは強い者に憧れる性質があるらしい。
レミントンはその様子を見て、どっちが悪魔でどっちが天使だったのか分からなくなったと一人溜め息を付いた。
世界は新たな変化に戸惑いつつも、新しい神の影響か、人間の唯一優れた順応力のお蔭か、徐々に落ち着きを取り戻していった。
そして――ついにビルスとの別れの時が訪れた。
「世話になったね」
「そんなことありません。お礼を言うのはこちらの方です」
アズマリアが心からの御礼を述べる。
「そうね。うちで何かを食べてる時以外は殆ど外で寝ていた気がするけどね」
サテラも最初こそビルスに対してロゼットと同じ反応を見せたものの、今では親しみのこもった目で見つめながらそんな皮肉を笑いながら言った。
「クロノはやはり俺達とは一緒に来ないんだな」
「うん。僕は、ロゼットと同じ時を歩みたいんだ」
クロノはそう言うと、ロゼットの手を優しく握った。
「クロノ……」
クロノはこれより少し前にビルスにお願いして悪魔として残っていた力を破壊してもらい、今では完全に中身も人間となっていた。
「妬けるわね。私が知らない間に色々と……。式には呼びなさいよ?」
なるべくアイオーンの方を見ない様にしながらサテラが優しい笑みを浮かべてそう言った。
傍らには同じく笑みを浮かべた姉のフロレットとヨシュア、そして改めて恋人となったフィオレもいた。
「し、式ってまだそんな……」
ロゼットは顔を赤くして慌てたが、その顔は幸せで満ちていた。
「ほほ。皆幸せそうで何よりです。ビルス様、流石ですね」
「僕はただ神を破壊しに来ただけなんだけどね」
「ねぇ、また何かを破壊しにここに来てくれる?」
「物騒な事いうなぁ。ま、不味い料理が出たら破壊するけど」
「ふふ、気をつけなくっちゃ。待ってるわよ、ビルス様!」
「ビルス様、どうか元気で……ご無事をお祈りしています」
「ビルス様、貴方には感謝してもしきれない恩を頂きました。本当にありがとうございます」
「わ、私はあまり殆ど関わってないけど……姉を返してくれてありがとう。本当にこれは心から感謝致します」
「サテラ……」
ビルスに深く感謝するサテラにフロレットも一緒になって彼に頭を下げた。
ヨシュアとフィオレもそれに倣い、新たな生を与えてくれたビルスとウイスに感謝の意を込めてお辞儀をした。
「神よ。今度は何処へ行かれるおつもりですか?」
アイオーンが真面目な顔をしながら子供の様なキラキラ輝く目でビルスに尋ねた。
「適当。取り敢えずここと似た星を探すよ」
「アズマリアと……アイオーンともどもビルス様の安全をお祈り申し上げます」
まだ若干のぎこちなさが残っているものの、元悪魔の横でレミントンはビルスの旅の無事を祈った。
「ふっ、またね」
レミントンの少し成長した姿を面白く感じたビルスは、軽く笑いながら別れの言葉を口にした。
「では、皆さん。ご縁があればまたお会いしましょう」
ウイスの杖が輝きだし光が溢れて二人を包み込むと、一瞬の後に天高く昇り、そして消えた。
「ビルス様! バイバイ! 待ってるわよ! また絶対、来なさいよ!」
既に何も見えなくなった晴れた青空に、ロゼットは大きな声であげていつまでも手を振った。
ビルス様お疲れ様ぁ!
さぁ、次は何処にしようかな。
意外に長くなってしまったので直ぐに終わる話もいいかな、と思っています。