破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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初めは疑っていた少女も彼が悪魔を圧倒し、次に天使を吹き飛ばし、更には難病まで治すという約束をする様を見て来て、この人物が本当に神であることを確信した。
そして今、破壊神の本来の目的、神による神の破壊の番が来ようとしていた。
「それじゃ、生意気な神を破壊するとしようか」
「あ、その……お、弟は……」
あっさり最後の目的に移ろうとしたビルスを見て、先程の願いを忘れられてしまったのではとロゼットが不安そうに聞いてきた。
「そんなに心配しなくてもちゃんと治すよ。先ずはこっちを先にやりたいだけだ」
「いろいろと時間が掛かってしまいましたからね」
ウイスは安心させるようにロゼットに優しく笑いかけながら言った。
「そ、そうですか」ホッ
「ビルス様、一つお訊きしてもよろしいでしょうか?」
何か気になる事があるのか、神妙な面持ちでアズマリアがおずおずと問い掛けてきた。
「ん? なに?」
「私達の世界の神は姿形がない精神体だとお聞きしました。その様な手出しのできないものどやって干渉するおつもりですか?」
「ああ、その事か。じゃ、ついでだから簡単に教えてあげよう。ウイス」
「はいはい。結局教えるのは私ですか」
小さく溜め息を付きながらウイスは皆の前に立つと、よく通る声で説明を始めた。
「こほん。ではご拝聴を。まず、神には創造の力を司るものと破壊の力を司るものの2種類が存在します」
「神もいろいろな力を持つ者がいますが、その力はこの2つの系統のどちらかに帰属します。この世界の神は、その力から恐らく創造神の系統です」
「ビルス様はご覧の通り破壊の神です。それも根源、全ての破壊の神の頂点に立たれる方ですから、そのお力は皆さんの既にご存じでしょう」
「では、創造神にもビルス様の様なお力を持つ方が?」
アイオーンはビルスと対を為す存在がいる可能性について早速興味を持った様子だった。
「それについては後ほどご説明致します。今は神の系統とその存在の仕方についです」
「存在の仕方?」
クロノが不思議そうに聞く。
「さっきの姿形やらの事か?」
すっかり頭の冷えたジェナイがクロノの疑問を補足した。
「その通りです。これは神だけに限った事ではありませんが……」
「その存在は、ここの神の様に通常の手段では手出しができない精神体と、何もしなくても姿が認識できる物理的な存在の、これも2種類があります」
「前者は直接干渉する力を持たない分その存在は絶対に近く、通常は手の出しようがありません」
「では後者は?」
自身が仕えていた神が前者に該当する事を直ぐに理解したレミントンがウイスに聞いた。
「直接干渉できる分その力は圧倒的ですが、その替りに物理的な手段で自分自身も干渉されます」
「まあ、ビルス様に限ってはその様な事は……」
アイオーンがそう思うのも無理はなかった。
あれだけ圧倒的な力を持ち、破壊の神の頂点に立つビルスに干渉し得る力など彼には考えられなかった。
だがその確信は当の破壊神本人によってあっさり否定された。
「あるよ。今のところ2人だけどね」
「え!?」
驚愕の声をあげるクロノ。
こんなとんでもない人物に影響を与えることができるなんて、冗談としか思えなかった。
「まぁ、その話はまた今度で」
皆がその事に関心を持った事を理解しつつも、取り敢えずウイスはビルスに説明の続きを促した。
「でもそれじゃあどうやってここの神に干渉するつもりなのよ?」
話が戻るのを待っていたかの様に、冒頭のアズマリと同じ疑問をリゼールが疑問を口にした。
「簡単だよ。手も足もでなければ、使わなかったらいいだけの話さ」
「さっきみたいに、ですか?」
アイオーンの態度を見て、ビルスが自分達より目上の存在だと認め始めたヴィドが口調を改めて彼に確認する。
「いや、あれは直接姿があるのにしか通じない」
「じゃ、じゃあ一体どうやって……」
ロゼットがお手上げと言った顔でビルスを見る。
手も足も使わずにどう干渉しろというのか。
それに対してビルスはそんな彼女の疑問などどこ吹く風といった様子でこう答えた。
「簡単な事さ。神をこの星ごと僕の力で取り囲んで消滅させる」
一同「……」
全員が押し黙った。
対処法があまりにも自分たちの想像を超えていたからだ。
「ほ、星ごと……?」
クロノが信じられないという表情で言った。
「そ。さて、それじゃ実践してみせようか」
ビルスはそう言うと宙に浮き、ロゼット達が点に見えるくらいの高さにまで上昇した。
一同はこれから何が起こるのか固唾を飲んで地上からビルスを見つめていた。
「……慌ててるな。だが、もう遅い。お前は僕の機嫌を結構損ねたからな」
ビルスは目に見えない何かに話し掛けているような素振りを見せながら、ふと言葉を切った。
ビルス「……」
その時、地上からビルスを見守っていたロゼット達はビルスの体が炎のようなオーラを放ち始めたのに気付いた。
「あれは……」
レミントンは自分たちの世界が変わりつつあるのをひしひしと感じながら、ビルスの変化に目が離せないでいた。
次の瞬間――
ブン
一同はそんな音が聞こえた気がした。
実際には音自体はなかったが、それでもビルスの体から一瞬でそのオーラが球状に広がって空が夕焼けの様に真っ赤に染まると、その現象に対する驚きから、やはり音を聞いたと錯覚した。
「姿がないから逃げられると思っていたのか?」
ビルスが抑揚のない威圧の籠った声で神に話し掛ける。
そして片腕を前に伸ばしまるで何かを捕まえるかのように手を広げた。
「今更謝るとは……ダメだな。やっぱり君は根本的に僕が気に入らいないタイプだ」
姿の見えない神は必死にビルスに何かを懇願しているらしかったが、残念がらそれはロゼット達には認識できなかった。
「……じゃあな」
そういうとビルスは伸ばした手を握り締めた。
すると真っ赤に染まっていた空が一瞬でビルスの手に凝縮されて直ぐに青い空に戻った。
「……この手の奴はいつも呆気ないな」
ビルスは何事もなかった様な顔で、誰にともなくつまらなそうに一人そう呟いた。
神様はあっけな消滅した。
最初は何が起こったのか全く理解できなかったロゼット達だったが、その事を感じ取ったウイスのある指摘によって彼女たちは世界の変化を明確に自覚する事となった。
「何か信仰の依代にしているような物はありますか?」
「え? ロザリオ、かしら。これが?」
「それを見てみて下さい」
「?」
ロゼットは言われた通りにロザリオを見た。
そして直ぐに違和感に気付いた。
「!」
「そのネックレス、今はどう見えますか?」
「見慣れてるはずなのに……まるで初めて見た感じがする……」
ロゼットの言葉にアズマリアも同じく驚きの声を上げた。
「これは……」
「今まで信仰の依代として一番身近に感じていた物なら、その変化がよく判りますよね?」
ウイスの言う通りだった。
常に祈りを捧げる際に使っていたロザリオが今はただの装飾品にしか見えなかった。
既にそれを見ても『何か』に祈ろうという気持ち自体が起こらなかった。
「どうだい? ここの神が如何に君たちに影響を及ぼしていたかよく解るだろう?」
いつの間にか地上に降りていたビルスが面白いものを見るような目で少し愉快そうに話し掛けてきた。
「これが神を失うって事、なの……?」
「違う。それが自由だ」
ロゼットの言葉に横から訂正してきたアイオーンを見て彼女は息を飲んだ。
アイオーンが人間になっていた。
人間の姿をしているのではなく、間違いなく人間そのものだった。
短期間とはいえ常に身近に悪魔たちを感じてきた彼女にはその雰囲気で直ぐに判った。
ジェナイ・リゼール・ヴィド、彼の仲間達も同様に同じ変化が起こっていた。
ということは……。
「ロゼット」
ロゼットは声がした方を振り返った。
そこには子供ではなく、本来の、成人の姿をした人間のクロノがいた。
「クロ……ノ?」
「ああ、僕だよロゼット。君も……良かった」
クロノは優しい表情でロゼットを見つめながら自分の胸元を指で叩いた。
「え?」
ロゼットが首から下げていた懐中時計を見る。
ロゼット「っ!」
時計の針が、止まっていた。
それが何を意味するのかロゼットは瞬時に理解したが、それ以上に今まで押し込んでいた感情が溢れ出すのを止められず、彼女はその場に泣き崩れた」
「う……あ……あぁ」
覚悟はしていた。
何れはそうなるだろうと承知していたつもりだった。
でも……それでも怖かった。
自分の人生の終わりが明確に、そして確実に迫っていた事が怖くて堪らなかった。
それは、人前では気丈に振る舞っていたロゼットの紛れもない本心だった。
「ロゼット……」
「ロゼットさん……。ロゼットぉぉ!」
「ロゼット……良かったですね。本当に……」
仲間達が彼女を温かく抱きしめてくれた。
皆、彼女が救われたことを心から喜んだ。
ビルスが起こしたこの天変地異は、ロゼット達以外の場所にも当然影響を与えたていた。
~マグダラ修道会N.Y.支部近郊
「こ、これは......?」
悪魔公爵のデュフォーは突如自分の身に起こった変異に驚愕した。
傍らにいた側近のカルヴとグーリオも同様に、驚きの目で自分の体を見る。
「に、人間......?」
「カルヴ、デュフォー様……!? いや、お、俺も!?」
~とある場所
「フィオレさん? どうかしたんですか?」
スー……。
ヨシュアの前に突如見知らぬ女性が現れた。
「え? あ、貴女は……?」
「私は……私は、何? 私は……サテ……ラ?」
「これは……どういう事……? ……っ! フ、フロレット!? 何故!?」
「「え?」」
フロレットと呼ばれた元フィオレとヨシュアは、またしも見知らぬ人物が現れて事に目を丸くするしかなかった。
~再び元の場所
「おや?」
何かを感じたウイスがふと人の街がある方角を向いた。
「ん? どうした?」
「いえ、悪魔の依代になっていた人間達の体に行き場を無くして彷徨っていた魂が元の場所に還ったようです」
「魂まで貯めこんでいたのかアイツは……」
ビルスはちょっと前に消滅させた神を思い出して呆れた顔をした。
ロゼット達はまだこの時点では、大切な仲間の一人であるサテラにとんでもない幸運を土産に持ち帰る事になるとは知る由もななかった。
「そういえば、ビルス様」
ウイスはロゼットの救済を喜ぶクロノ達と新しい世界とその体に興奮する悪魔達をぼんやり眺めていたビルスにウイスが話しかける。
「ん?」
「ここの神を破壊したのはいいのですが、このままになさるおつもりですか?」
「あー……でも、そういうのはどっちかというと界王神達の仕事だしなぁ」
ビルスは面倒臭いと言わんばかりに頭を掻きながら言った。
「面倒そうですね。では、やはりこの星ごと破壊しますか?」
「ウイス、僕はそんなに性格は悪くないつもりだぞ?」
ウイスの言葉に拗ねるような目で睨み返すビルスにウイスは予想通りの反応を得る事ができて満足そうに笑った。
「では、私はちょっと界王神の所に行って新しい神の選定を頼んできます」ニコッ
「ナメック星人でいいよ。あいつら超真面目だし」
「了解致しました。では、第一候補はナメック星人ということで」
「任せた」ヒラヒラ
ロゼット達の預かり知らぬところで新しい世界は急速にその形を築きつつあった。
神様お疲れ様でした!
破壊神といえどもちゃんと仕事はします、よね?
次回でラストになります。