2017年にBS1で配信され、最近に総合で再放送されたNHKのドキュメンタリー。さまざまなTVドキュメンタリーの賞を受けた。
NHKドキュメンタリー
アジア太平洋戦争の前後、オランダから日本またオランダへと支配者がめまぐるしく変わったインドネシア。そこで日本人の子として生まれ、オランダ国民となって放置された人々の70年を映す。
周囲との関係が断ち切られがちな立場の個々人によりそって、自己を回復するまでを描いていく。日系オランダ人という典型をつくるよりも、多様な個人の人生に落ちた影から社会の問題を見いだそうとする。
実母が再婚したオランダ人の義父に性的虐待され、逃げだした姉弟。虐待を許容させようとした家族を許すことはないが、泰緬鉄道建設のために強制労働させられた義父の過去を知る。父親が日本人と知った姉弟の葛藤が、虐待で生まれて養子に出された女性の葛藤とも重なりあう……
そうした番組の主軸とは離れて、ベトナム戦争において生まれたライダイハンやアメラジアンを連想はした。戦後は敵国の子とされて社会から疎外されがちな立場になったことも通じる。
http://www.nhk.or.jp/bs-blog/2000/280731.html
日本軍兵士や軍属と蘭印系(オランダ系インドネシア)の女性との間に子どもたちが生まれました。その数、5千〜2万人といわれています。終戦後、インドネシアでは再び独立戦争が勃発し、母子はオランダへ渡ります。こうした人々が「日系オランダ人」です。
オランダへ渡った日系人たちは「敵の子」とされ苦難の戦後を生きることになります。
どちらも推計だが、中央値で比べると日系オランダ人はライダイハンの約2倍いるようだ。放置された期間も約2倍くらい。
また、番組で紹介された日本人の父親はどれも穏健な部類だったが、取材中には性暴力があった事例とも出会ったという。
ある日系人の方は、母親が日本軍の軍属だった男性に強姦され産まれました。50歳を過ぎその事実を知った時、衝撃を受け自殺さえ考えました。
ヴェトナム系市民団体を米国で作る余裕が日本政府にあるならば、より自国と関係が深い日系オランダ人にも支援をおこなうべきだろう。
「ヴェトナム系アメリカ人団体」がヴェトナム戦争時の韓国軍による性暴力について韓国政府の謝罪を求めている件 - Togetter
番組を見ていると、補償を求めた日系オランダ人が在蘭日本公館前でデモを定期的におこなっている一幕もあった。
いやおうなく従軍慰安婦問題における韓国の水曜デモを連想したし、そのデモをウィーン条約違反という主張が世界的に通用しない証拠とも感じた。
韓国水曜デモ1000回アクション 韓国行動 報告 | 日本軍「慰安婦」問題解決全国行動
より正確にいえば、大日本帝国の責任を求める活動は世界全体でおこなわれていて、その大半が日本社会から黙殺されているわけだ。そして黙殺できない活動は、他に同種の活動がないかのような誤認を根拠にして、異常視するというわけだ。
さらに、インドネシアにおいて日本軍がオランダ人女性らを慰安婦にしたてた歴史も言及されていた。
戦犯裁判でとりあげられたこともあり、募集段階からの日本軍の直接的な強要として知られている。それを政府の抑圧を受けつづけている現在のNHKが報じたことに価値はあるだろう。
同時に、ナレーションが「連行」と表現したことは気にかかった。現在の日本社会では歴史学の用語や成果を無視して、「強制連行」を募集段階から暴力をともなう官憲の直接的な移送に限定しようとしている。
衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書(平成19年3月16日閣議決定)(抜粋) | 外務省
同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
なればこそ、発見されたインドネシアの事例は狭義の「強制連行」と表現しなければいけないはずだ。
強制連行という言葉が厳密な区別を求めて避けられているのではなく、やはり日本の国家的な責任を表現だけでも弱めようとする試みなのだろう、と思わせる単語選択だった。