ちょっとハイスペックなアインズ様   作:アカツッキーー
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#3 戦略会議

─円卓の間─

 

かつて40人の友たちと囲んでいた円卓に、その友たちの子供と言えるNPCたちと座ったアインズはどこか感慨深い心境だった。

円卓を囲むのはアインズ、各階層守護者、セバスを含むプレアデスだ。

 

「──では、今より戦略会議を始める」

 

アインズの号令にシモベたちが一礼する。

 

戦略会議。アインズが自ら提案した企画である。最初は「アインズ様の御心のままに」などと、自分の意見を言ってくれなかったが、回数を重ねるにつれて改善していった。やはり、自由な意見が飛び交い、意志疎通・情報共有のできる職場は素晴らしい。

 

「……では、司会はこの私、デミウルゴスが務めさせて頂きます。まずは各報告から──パンドラズ・アクター」

 

指名されたパンドラズ・アクターが、実に切れの良い動きで立ち上がる。もうアインズは諦めて、精神の沈静化は起こらなくなっていた。

 

「では!まずは私から。捕らえたスレイン法国の者たちですが『質問に三回答えたら死ぬ』という呪いがかけられていました」

「……やはり情報漏洩の対策をしていたか。……それでどうだった?」

「はい。結論から言いますと解呪には成功しました。しかし、予想以上に手間取ってしまい、残り五人まで減らしてしまいました」

「……構わん。指揮官──確かニグンだったか。そいつは生きてるのだろう?」

「はい」

「ならば良い。……死体はどうした?」

「第五階層に保管しております」

 

パンドラズ・アクターの答えに頷く。死体は使い道が多い。有効活用の機会は残しておくべきだ。

 

パンドラズ・アクターによる金貨やアイテムの消費率などの報告が終わり、次にトブの大森林を調べていたアウラからの報告へとうつる。

 

「あたしのペットたちを使って調べた限りでは強者はいませんでした。せいぜい、30あたりまでです」

 

トブの大森林には大したモンスターはいないらしい。この世界で弱いのは人間だけでないようだ。

 

(……いや、モンスターが弱いからこそ人間も弱いのか…。それほどの力が無くても命を守れる訳だからな……)

 

アインズはこの世界の人間が弱い理由を考える。効率を重視してレベルを上げていたゲームとは違い、ここは現実。命を大切にし、戦闘を避けるのも当然だ。

 

「あとは、リザードマンの集落を発見しました。あたしからは以上です」

「ふむ。リザードマンか……」

「どうかなされましたか?アインズ様」

 

少し考えていたアインズにアルベドが尋ねる。

 

「ん?いや…何でもない。次は私の番だな」

 

そう言ってアインズは思考を断ち切り、報告にうつる。アインズからはカルネ村の件と、ユグドラシルとの差異についてだ。

 

「まず、私が助けたカルネ村についてだが、引き続き保護する。これからはナザリックの窓口として利用するつもりだ」

 

『人化の指輪』を持つアインズはともかく、NPCたちは異形種ばかりであり、人間に近い姿のものは少ない。故に直接コンタクトをとるのは難しくなる。

 

「それにともない、ナザリックから人材を派遣する。──ルプスレギナ。お前に任せよう」

「はい。お任せください」

 

指名されたルプスレギナはどこか嬉しそうに頭を下げる。選ばれなかった者たちは羨望の眼差しを向ける。

 

「次にユグドラシルとの差異だが──分かっている限りだが主に召喚に出ているようだ」

 

カルネ村の件のときに作成した死の騎士(デスナイト)は、時間によって消滅しなかった。この世界のものが媒体になったのが原因だろうと推測される。

 

「他にもあるだろうから、各々確認をしておくように。……私からは以上だ」

 

 

 

 

 

「──では次に、これから行う作戦の概要説明と人選を発表します。お手元の資料をご覧下さい」

 

資料はアインズが命じて、デミウルゴス、アルベド、パンドラズ・アクターの智者三人に作らせたものだ。これは、考えるのが得意ではない者たちも、作戦の意図を理解できるようにするための措置だ。

 

 

記載されている内容はこうだ。

 

・リ・エスティーゼ王国、王都の情報収集

担当─セバス、ソリュシャン

 

・エ・ランテル、冒険者活動

担当─アインズ、ナーベラル

 

・強者の捜索

担当─シャルティア

 

・魔王作成

担当─デミウルゴス

 

・第二のナザリック製作

担当─マーレ

 

 

 

まず大切なのは情報収集だ。恐怖公の眷族を使った『Gネットワーク』も利用するつもりだが、現地で直接見なければ分からないことも多い。セバスたちは商人として、アインズたちは冒険者として、シャルティアには秘密裏に動いてもらう。

 

次に英雄を作り上げるためのデモンストレーションの準備だ。敵がいなければ英雄にはなれない。

 

最後に緊急事態時の避難所。アインズにとって大切なのはNPCたちであり、ナザリックは二の次だ。最悪の場合、ナザリックを放棄して逃げるつもりでいる。

 

「……人選はアインズ様がお決めになったものだが、何か異論は?」

「異議あり!!」

 

アルベドが食い気味で異議を唱える。

 

「なぜ私がお留守番なのですか!?冒険者のお供なら、盾である私が!!」

 

アルベドは今にも飛びついて来そうな勢いだ。

 

「……落ち着け、アルベド。お前以外にナザリックの運営を任せられる者はいないだろう?」

「し、しかし──」

「──アルベド、少し良いかい?」

 

アインズの説得にもなかなか納得しないアルベドを、デミウルゴスが連れていく。何やら小声で言い聞かせているようだ。

暫くして二人が戻ってくる。アルベドは頬を上気させ、羽をパタパタと忙しなく動かしている。

 

「申し訳ありません。アインズ様の留守の間、ナザリックはおまかせください」

「……あ、ああ。頼んだぞ、アルベド」

 

掌を返したような態度におどろくが、納得してくれたならそれで良い。

 

「──他にはありませんか?」

「はい!あたし的にはシャルティア一人っていうのは心配だなぁー…補佐を付けるべきだと思います」

「どういう意味でありんすか!?」

 

アウラの進言にシャルティアが噛みつく。茶釜さんとペロロンチーノさんもよく言い合いをしていたなぁと、アインズは懐かしくなる。

 

「……落ち着け二人とも。その件だが、ニグレドとパンドラズ・アクターにナザリックから支援をさせる。任務の性質上、シャルティアは危険な役目になるからな」

「ア、アインズ様…!妾のことをそんなにも想って(・・・)くださるなんて…!」

 

シャルティアが涙を浮かべながら感動している。アルベドが凄い顔になっているが、見ない振りをする。

 

「──とにかくだ。私にとって一番はお前たちだ。命を大切にしろ」

『ア、アインズ様!!』

 

全員が今にも泣きそうな顔で見てくる。いや、数人はもう泣いているか。

 

「ゴホン!……それでだ。危険度の高い任務につく、シャルティアとデミウルゴスには世界級(ワールド)アイテムを渡しておく」

世界級(ワールド)アイテムをですか!?』

 

 

世界級(ワールド)アイテム』

ユグドラシルの中でも二〇〇しか存在しない、オンリーワンの力を持つ究極のアイテム。文字通り「世界のバランスを崩す」壊れアイテムだ。アインズ・ウール・ゴウンはユグドラシルのギルドの中で最多の、十一個を保有している。

 

 

プレイヤーの影がある以上、世界級(ワールド)アイテムの存在を無視する訳にはいかない。世界級(ワールド)アイテムの中には『二十』と呼ばれる、特に狂ったアイテムも存在するのだ。

 

「その通りだ。先程も言ったが、お前たちの安全が一番だ。世界級(ワールド)アイテムの危険に晒す訳にはいかん」

「──畏まりました。慎んでお受け取りします」

 

アインズはパンドラズ・アクターに持ってこさせていた世界級(ワールド)アイテムをシャルティアとデミウルゴスに渡す。

 

(とりあえずはこんなものか…。あらゆる可能性を考慮する必要がある。気は抜けないな……)

 

 

 

 

 

「──では最後に質問の時間を取ります。会議の内容以外でも何かある者はいますか?」

 

会議は滞りなく進み、自由な発言の時間にうつる。認識の齟齬を防ぎ、また次回の議題などを決めるための時間だ。

 

この時間に発言するのは、やはり智者三人が多い。今回も質問をしたのはアルベドだ。

 

「アインズ様。現地戦力の調達についてですが、基準はどのあたりに設定されるのでしょうか?」

「ふむ、基準か……」

 

いい質問だ。アルベドやデミウルゴスなら上手く判断できるだろうが、他の者は上部だけで判断してしまう可能性が高い。何よりナザリック基準はハードルが高いだろう。

 

「そうだな。まず第一に役に立つか立たないかだ。この世界の基準で強者であれば、それは役に立つ」

 

この世界はユグドラシルに比べて脆弱であり、ナザリックの戦力を投入しすぎると悪目立ちする。だからこそ、この世界での強者ぐらいが丁度良いのだ。

 

「次にレアな存在だ」

「れあ…でございますか?」

「ああ。ユグドラシルにはいなかったモンスターや変わった存在。特殊な異能(タレント)や武技を持つ者でもいい」

「……つまり、ナザリックにはない戦力、という訳ですね」

「その通りだ」

 

この世界にプレイヤーの影がある以上、ユグドラシル以外のものでアドバンテージを作る必要がある。レベル100(カンスト)プレイヤーなど珍しくもないのだから。

 

「取り敢えずはこんなものだ。判断に困れば私に連絡するなり、ナザリックに連れてくるなりすればいい」

『はっ!』

 

 

 

 

 

会議を終え、自室に戻ったアインズはベッドで横になっていた。

 

(ふぅ…しかし世界征服かぁ……。ウルベルトさんが語っていたのを思い出すな……)

 

かつての仲間の一人、ウルベルト=アレイン=オードルは悪にこだわった人だった。アインズ・ウール・ゴウンの方針を決めるときにも──

 

『悪のギルドらしく、世界征服を目指しましょう』

 

と、主張し続けていた。まあ、彼と犬猿の仲だったたっち・みーと意見が対立して、世界征服案は頓挫していまったけれど。

 

(ふふっ…ウルベルトさんがいたら今の状況をとことん楽しむんだろうな……)

 

自分と同じ不治の病にかかっていた彼なら、この状況はたまらなく楽しいに違いない。そうだ、難しく考えすぎるのは勿体ない。

 

 

「……せっかくだ。思う存分楽しむとしよう」

 

 




ついにナザリックが動き出す──

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