物体が浮遊する様子
地上でのガラスの作り方
TVで宇宙飛行士が空中に丸い水の玉を浮かべている映像を一度は見たことがあると思います。そのイメージに限りなく近い装置が浮遊炉です。浮遊炉は、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の無重量環境を利用して、ガラスなどの材料を浮かせた状態で溶かしたり、また固めたりすることができる材料実験装置です。
なぜ浮かせた状態で実験をする必要があるのでしょう? 地上でガラスをつくるには、材料の物質を混ぜた後、それをルツボと呼ばれる容器に入れ、ルツボごと加熱して溶かし、冷やして固めます。高温でガラスの材料を溶かしているとき、ルツボをつくっている物質が、ごくわずかですがガラスの材料に混ざってしまいます。つまり、容器から不純物が入ってしまうのです。
容器のルツボから不純物が入るなら、容器を使わなければよい。つまり、材料を空中に浮かせたまま、周囲から加熱して溶かせばよい。まさに無重力ならではの製造方法なのです。この方法によって、これまでにない純粋な結晶を生成することが期待されています。
宇宙で材料を浮かし加熱するなんて重力がないのだから簡単だと思うかもしれません。しかし、実際に浮かせようと考えると様々な問題が宇宙では発生します。
うまく材料が空中に飛び出しても、重力が全く無く、なにも材料を動かす力が無い場合はふわふわと空中に止まっているのですが、実際は宇宙でも少し重力があります。しかも宇宙飛行士が動いたり、スペースシャトルがドッキングしたりすると色々な方向に力がかかります。うまく材料を空中でコントロールしないとすぐにはるかかなたに飛んで行ってしまいます。これでは全然実験になりません。この状況の中、実験を成功させるために様々な技術が開発されています。
静電浮遊の原理
静電気による物体浮遊
静電浮遊炉はその名前にも使われていますが、静電気を使って物を浮かせます。この方法は、材料を電気が帯びた状態にします。この状態で電圧をかけると物はクーロン力という力を発生し、反発するようになります。静電浮遊炉はこの電気的な反発力を使って物を浮かせています。この方法を用いることによって金属のみならず、セラミックやガラス等、はては水まで幅広い材質を浮遊させることができます。例えば、空中に浮かんだ水槽を作ることもできてしまいます。
高速フィードバックによる空中制御
ただ浮かせただけではどこかに飛んでいってしまいます。そこで静電浮遊炉は、浮遊位置をセンサーで検出し、その位置信号を上下の電極電圧へ高速でフィードバックさせることによりコントロールしています。つまり、材料が右に動いたらその情報をすぐに電極に渡して左に動かすように力をコントロールします。
この方法により材料を好きな位置に移動して止めることもできます。また、レーザーをあてる位置を中心からずらすことで、材料を回転させることも可能です。
レーザーによって材料を溶かす
セラミックの融解・凝固
浮いた状態の材料に向けて、独立したコントロールができる複数のレーザーを照射することで材料を加熱することが可能です。そして材料が溶ける様子や再度結晶化する様子を周辺に装備されている放射温度計及びCCDカメラというような機器を使って観察することができます。
項目 | 仕様 | |
---|---|---|
寸法 | 本体 590(高さ)×887(幅)×787(奥行)mm UVランプ 226(高さ)×259(幅)×347(奥行)mm | |
軌道上質量 | 約220kg | |
最大消費電力 | 約550W | |
試料直径 | φ1.5~2.1mmの球状試料(試料カートリッジの交換により直径5mmまで対応可能) | |
試料 | 酸化物が主な対象。金属、合金、半導体も対応可。 | |
試料位置制御 | 3軸制御、制御周期:最大1KHz、位置制御精度:±100μm以内 | |
雰囲気制御 | 空気2気圧(酸素濃度10%)、窒素2気圧、アルゴン2気圧、真空(「きぼう」排気系統使用) | |
加熱方法 | 加熱レーザ(半導体レーザ、波長980mm、最大光出力40W×4) | |
温度計測 (放射温度計) | 測定周期:100Hz、測定範囲:300~3000℃ | |
表面張力・ 粘性測定 | 融液の共振周波数により表面張力を、振動の減衰率により粘性を計測する。 振動励起(1~600Hz) | |
密度計測 | UV背景光を利用し、高温時に発行する試料外郭を、直径2mmにおいて140画素/半径以上で観察可能 | |
凝固状態観察 | 解像度640×480ドット、フレームレート30fps、ダイナミックレンジ120dB以上 |
静電浮遊炉(ELF)は、微小重力環境を利用して融点が非常に高い物質を浮かせた状態で溶かして物性を計測し、過冷凝固させる材料実験装置です。
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