フィリピンのドゥテルテ政権を追及するニュースサイトの最高経営責任者(CEO)が、同国国家捜査局に逮捕された。「報道の自由」は民主主義の一翼を担う。安易な摘発は、絶対に許されない。
逮捕(翌日保釈)されたのは、「ラップラー」CEOのマリア・レッサ氏。米CNNテレビのマニラとジャカルタの支局長を長く務め、四半世紀の間、東南アジア情勢を辛口に報じながら権力者と対峙(たいじ)してきた。真実を追求したとして昨年、米誌タイムの「今年の人」にも選ばれた。
二〇一二年、実業家と最高裁長官(故人)との癒着を報じた記事に「ネット上の中傷などを取り締まる法律」違反の容疑がかかった。記事は同法制定の前に報道されており、保釈が早かったのも含め、当局による「狙い撃ち」「見せしめ」が透けて見える。
ラップラーは、麻薬容疑者の大量殺害も辞さない捜査当局の手法を批判し「容疑者四千人が捜査途上で死亡し、一万六千人が不審死。合計の二万人は殺された」と主張。レッサ氏によると、政権は会員制交流サイト(SNS)フェイスブックへの投稿者を大勢雇って報道内容を非難し、記者に「殺す」「レイプする」との大量のメッセージを送ってきたという。
ラップラーには「企業認可の取り消し」「脱税で起訴」「大統領官邸への出入り禁止」などの圧力がかかる。ドゥテルテ大統領が「報道はフェイクニュース」「米中央情報局(CIA)の手先」と非難した末、レッサ氏は逮捕された。
レッサ氏は「(政権の)うそも十回なら真実は追いつける。でも百万回繰り返されたら真実になってしまう」と述べる。世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)と世界編集者フォーラム(WEF)は、逮捕に抗議する連名の書簡を大統領に送った。
フィリピンでは、マルコス独裁政権が倒れて以降、反権力の新聞などは比較的自由な報道をしていた。レッサ氏がCNNで東南アジア情勢を厳しく報じていたころ、権力者は顔をしかめつつも手を出すことは少なかった。
トランプ米大統領と報道機関の対立など、現代はメディアに対する当局の“敵意”が先鋭化している。日本でも「質問封じ」のような問題があった。今回のケースは、こうした対立が権力を使った「弾圧」に発展した。取材と報道は国民の「知る権利」のための活動である。力で封じ込めることがあってはならない。
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