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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 無名の外国人タレントをドイツの技術者だと偽り、新幹線の運転席を視察させたという。本物を知るためだった。映画監督の佐藤純弥さんが、それから約四十年後に明かしている

▼『新幹線大爆破』。タイトルだけで当時の国鉄はいっさいの協力を拒否している。主役が新幹線と言われた映画には致命的であったが、「活動屋はだめだと分かるとやりたくなるもの」。執念の製作が始まる。何度か見た方もいるだろう。スピード感とスリルに満ちた迫真の場面の連続である

▼高倉健さんら俳優陣の花も引き立てている。経済成長に乗り損なった男、学生運動に挫折した若者らの悲哀も描き出した。家族で楽しめる娯楽性に文明批評の要素なども見事に同居する。希有(けう)の映画は、海外でも高く評価された

▼少年時代、疎開先で同級生による暴力の標的にされた。逃げこんでいた先が、映画館だったという。暴力を否定する戦後の理念に、救われた思いがし、それまでの社会への憤りも感じた。体験はその後の作品や人物像の陰影に色濃くあらわれていよう

▼八十六歳で亡くなった。『新幹線大爆破』だけではない。『人間の証明』、中国でも受け入れられた『君よ憤怒の河を渉(わた)れ』…。映画斜陽といわれた時代に大作、超大作とされる作品を残してきた。製作は困難だと思われた作品も多い

▼活動屋の矜持(きょうじ)を感じさせる映画の数々である。

 

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